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世の中、タイミングがすべて説。

 この前、"Live Forever"という映画を観た。

 これは、90年代中盤のイギリスで勃発した、「ブリットポップ」と呼ばれる音楽・政治ムーブメントのドキュメンタリー。

 簡単に言うと、ニルヴァーナ(バンド)をはじめとしたアメリカ発のグランジブーム(音楽のジャンル)が、ニルヴァーナのボーカリストであるカート・コバーンの死によって終わり、その穴を埋める形で、再度イギリス発祥の文化が国全体を包み込んだ現象のことだ。

 このブリット・ポップの勢いはすごくて、当時のイギリスの若者は新時代のヒーローにすぐに飛びついていった。


 ブリット・ポップのヒーローは、何人かいたわけだけど、その中でも特に有名なのが、ブラーとオアシス。



 アメリカ音楽に牛耳られたイギリスに、自分たちの国のアイデンティティを思い出させるような曲作りを心掛けた、中流階級出身のブラー。

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 そして、ビートルズストーン・ローゼズ(ブリットポップの前に流行した、"マッドチェスター"を代表するバンド)を崇拝し、古き良きロックと新たな要素を取り込んだ、粗削りながらも繊細な音楽を発表した、労働階級出身のオアシス。

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 この二組は今でも大人気だし、ビートルズにも負けないぐらい、イギリスを代表する曲を連発した。


 ではなぜ、彼らが人気になったのか。

 もちろん彼らが作る曲もいいし、ルックスもいいし、キャラクター性もいいし、話題づくりもいいし、いろいろいいんだけど、一番はタイミングだったと思う。

突然、政治の話になるんだけど、80年代のイギリスでは、マーガレット・サッチャーの行った政治、通称、サッチャリズムによる新自由主義で成り立っていた。

 サッチャーは、様々なインフラ、鉄道や水道などを完全に民営化した。つまり、市場の制限をなくしてしまったので、より安く良いサービスが国民に届けられるようになり、経済は活性化した。

 しかし、民営化を進めたことで、公務員が失業自由競争に勝てなくなった企業の倒産や人の失業社会保障の欠如が問題になり、イギリスは完全に疲弊しきってしまった。

 この状況では、「イギリスらしさ」を愛する者などいなくなって当然だ。国民は、自国を誇れなくなっていた。


しかし、このブラーとオアシスの登場は、イギリス発の「かっこいい奴ら」として、大衆、とりわけ若者に大歓迎された。

 競争社会のイギリスでは、集団よりも「個人」が重視されていた。そのような状況で、これほど「自分らしさ」を出しまくった男たちが登場した。しかも、二組も。

俺らの国から、とんでもない奴が出てきた。そういう意識は、国民を団結させる。だからブリットポップはある種の、ナショナリズム(国民主義)であるとも言えるだろう。

 自分たちの国に誇りを持てる存在、彼らは今考えるとけっこうとんでもない理由で、大人気になってしまったのだ。


 これほど、"お膳立て"がされた状態で人気になった両バンドは、たしかに数年間、スターダムを駆け上がった。しかし、その人気はすぐに低迷してしまう。それは、1997年のことだった。

 1997年にブラーが発表した、"Blur"と、オアシスが発表した、"Be Here Now"。僕はどちらもすごく好きなアルバムなのだが、ブラーの方は、明らかにアメリカの音楽を意識した作品で、オアシスの方は単純に駄作だという評価を受けてしまった。しかも、ブラーのボーカリストの、デーモン・アルバーン「ブリット・ポップは死んだ」という宣言をしてしまった。

 時代の寵児であった二組はこのようにして、ブリットポップを自らの手で殺してしまったのだった。


 しかし、僕は二組の人気が落ちたのは、彼らの作風のせいではないと思う。時代が変わったのだ。新しい世の中になって、ブラーとオアシスはもういらなくなったんじゃないか。

 彼らのような、時代と密に連携した集団は、不覚にも政治的意味を帯びてしまって、そのイメージが崩れることはない。巡り巡る時代の流れから、単純に落ちてしまったのだ。

 彼らの音楽は素晴らしい。しかし、結局はタイミングが合っただけだったのかもしれない。

 しかし、彼らの音楽は、その時代を生きた人々にとって、永遠に忘れられない光となるだろう。


 これは別にイギリスだけの話じゃなくて、日本でも言える話だ。

 平成がはじまってすぐの10年間は日本の経済成長率があまりにも悪く、「失われた10年」と呼ばれていたことを知っていただろうか。

 その最中に生まれた曲が、モーニング娘。の『LOVEマシーン』だ。

 あまりに暗い世の中に一筋の光を差したこの曲は、あまりに明るい曲調と、伝説的な歌詞。

日本の未来は
wow wow wow wow
世界がうらやむ
wow wow wow wow

おい、マジかよ。と、言われがちなこの歌詞は、嘘でもいいから人々の、国の未来の見通しをよくしてくれた、すばらしい一曲だ。

 あと、最近だとこの曲もそう。

 別にAKBファンじゃなくても、誰しもがサビなら歌える、という不思議な曲だ。

 当時は地方の企業が「踊ってみた」と公開したりしていて、すごくよかった。あと、東日本大震災後に、これほど国民全体に知れ渡って、日本の未来を明るく応援する曲もなかった、と個人的には思っている。日本全体にとってすごく大切な曲だよね。

恋するフォーチュンクッキー
未来はそんな悪くないよ

 ストレートだけど、当時の社会の疲弊と不安に寄り添うような、歌詞は今聴いても涙が出るほどに素晴らしい。大好きな曲だ。


 でも、時代は変わって、両組とも、今を代表するアイドル!とは言われなくなってしまった。でも、当時を実際に体験した僕らにとっては、永遠に忘れない美しい曲だ。当時の辛さも、辛さの中にあった美しい記憶も掘り起こしてくれる曲たちだ。


 僕は、LOVEマシーンのときはまだ生まれてなかったけど、恋するフォーチュンクッキーのときの世の中はよく覚えている。


 あー!!!

 いい時代だった!!!



 こんな感じで、世の中はタイミングがすべて、だと本当に強く思う。

 また明日!



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taiga
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