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【ネタバレ/『ラスト・ナイト・イン・ソーホー』】煌びやかなネオンサインに、眼を眩ませてはいけない。

 今日、『ラスト・ナイト・イン・ソーホー』(長いので、以下『ソーホー』)見てきました!!


 全く事前情報を入れずに行ったので、想像してたイメージとの乖離具合にかなり引くという、、、(笑)

 でも、映画の内容自体はすごく良くて、今年ベストに全然食い込んでくるレベルの力作だったと思う。


 監督は、『スコット・ピルグリム』や、『ショーン・オブ・ザ・デッド』、『ホットファズ』、『ベイビー・ドライバー』などで知られる、奇才エドガー・ライト。今挙げた彼の映画は全部見たことがあるんだけど、見たことあるからこそ、今回の『ソーホー』の出来には驚かされた。

 だって、これら全部がガッツリコメディ路線で、ややダークな要素もありつつも、全部ブラックジョークとして見られた部分もあったから。個人的にはね。

 でも今回の『ソーホー』はブラックではあるけど、全くもって笑えない。

 僕の中でこの映画の大テーマは、「21世紀を生きる僕らの、懐古趣味の裏に潜むもの」だったと思っている。僕ら現代人は、懐古趣味というのを誰しも少しは持っていると思う。最近であれば、サブスクで音楽が聴けるのにあえてレコードを買うとか、燃費もガソリン代も高いのにクラシックカーを乗り回すとかそういうことだ。

 でも僕らはやっぱりそれらの表層的な部分しか見ていない。煌びやかなショー・ビジネスや、偉人達の華々しい活躍のすぐ裏にある、胸糞悪いほどの、不条理で認めたくないような現実が散乱しているのだ。

 僕らはそれを見逃してはならないという、強いメッセージを感じるのだ。

 では、次にもっと細かい部分で、僕が気になった箇所をいくつかピックアップしていこうと思う。

 


1.サンディはなぜ死を選んだのか?


 これが今作一番の疑問。

 サンディは最終的に燃え盛る自宅の、「あの部屋」の中で死んでいった。

 でもなぜ彼女は死を選んだんだろう。

 エロイーズが鏡を壊したシーンで彼女が、「弁償させてください」と言ったら、それは当然、といった感じで「罪は償うものよ」と言っていたじゃないか。

 たしかにこの映画のエピックな部分は、女性を不当に扱ってきた60年代の男たちへの復讐であったとは思うけど、彼女がしたことは大量殺人だ。

 であれば、絶対に罪は償うべき。

 なぜ彼女は死んだんだろう。そこの意図がよくわからなかった。

 どうしても僕はサンディの結末に納得がいかない。誰よりも罪を知るはずの彼女ならば、そこから逃げることなど絶対にしないはず。



2.サンディの殺人は許されるべきではない


 Twitterとかで感想を見ていると、「最低な男たちをどんどん殺していくサンディを見て、もっとやれ~って思った」とか「こんな最低な形で女性蔑視をしていた男たちは死ぬべきだと思う」みたいな過激な感想がちらほら見られたけど、本当にそうかなぁ。

 性的搾取してくる男たちを殺すって、自分の利益のために〇〇を利用する、って意味合いでは、命の搾取じゃないのかな、、って思ったりもした。

 僕からすると、サンディが受けた数々の搾取は、本当に目に余るし心の底から同情する。でも、それに対して、殺人という行為で片づけてしまうのはいかがなものかと思うのだ。


 それに加えて、サンディがエロイーズとジョンを殺そうとしたのもよくわからない。エロイーズは「知りすぎたから」、そしてジョンは「邪魔だったから」という理由で殺されそうになったわけだけど、それまでのサンディの性格描写的にそこまでのことするかなぁ。

 サンディが自分を性的に搾取した人間を殺すというのは、百歩譲ってわかるにしても、この二人を殺そうとするのはちょっと違うんじゃないかな、、、

 それだったら、サンディが自分の罪を悔やみつつ、エロイーズにすべてを打ち明けるみたいな展開じゃダメだったのかな。サンディが搾取されたという事実を、観客としての僕らが知って、たった数十年前まで横行していた(今もあるとは思うが)、このような事態に対して、この映画が警鐘を鳴らすという構図ではまずかったのかな。男たちを殺す必要はあったのかな。

 僕には人を殺す、ということをしたサンディが肯定されているように感じた。さっきも言ったけど、起きてもいい殺人なんて絶対にないし、犯罪をしていようがいまいが、すべての人は「命」だけは最低限度尊重されるべきだと思う。僕はこういう姿勢だからこそ、この展開に疑問を感じた。


 あと、サンディがエロイーズに自身の過去の犯行を明かすシーンが、いかにもよくあるホラー映画のヴィラン(敵役)が驚愕の事実を主人公に知らせて、殺しに行くみたいな展開になってたのも嫌だったな。

 これはさっきのことにも通ずるけど、「贖罪」のようなニュアンスを持ってきた方がよかったと思うな。エロイーズが一方的にサンディの罪を理解して、それを受容(?)するっていうのだと不十分だと思うし、何度も何度も申し訳ないけど、サンディの殺人が許容されてる気が、、、



3.エロイーズって結局、デザイナーとして成長してなくない?


 これたぶん見た人全員が共感してくれると思うんだけど、エロイーズってなんであんなデザイナーとして評価されてたん

 ファッションにはあんまり詳しくないけど、中盤から作ってた、サンディのピンクのドレスってなんであんなに先生とか終盤のファッションショーの観客から好評だったんだろうか?

 その辺が弱いよね。

 だって1着しか作ってるシーンがないし、そもそもその動機も自分の夢の中でサンディが着てたものだから独創性もないし。その辺の説明がもっと欲しかったな。



4.エロイーズの母親って結局なんだったの?


 これもみんな思ったんじゃないか?(笑)

 映画の序盤から、エロイーズの幻覚として登場するお母さん。

 エロイーズの祖母によると彼女は「ロンドンという街に呑み込まれて死んだ」とはなってたけど、これってこの映画の意味合い的に「性的搾取に耐え切れずに死んだ」ってことなのか?(考えすぎかも)

 であれば、エロイーズがあそこまで、サンディの受けた不遇な扱いに対して反撃できるというのも納得できるんだけど。

 エロイーズの母親がどういう人だったのかの表現が少なすぎて、いまいちワケが分からなかったよ。

 最後のシーンでファッションデザイナーとして認められ始めたところで、鏡の奥にサンディが出てくる前に、母親が出てきたけど、あれって「母親がなれなかったデザイナーになろうとしている」っていう意味なのか、サンディが登場した意味と同様に、搾取に負けてしまった者との対比なのか、どっちなんだろう。母親が死んだ理由が曖昧だと、どっちとも取れてしまうのがすごくもったいないところ



4.エロイーズが誤解をした理由がわからない


 そもそも、エロイーズがサンディの過去を、夢の中で見られていたメカニズムは、エロイーズが持っていた特殊な力だったというのはわかるんだけど、だったら、なぜジャックがサンディをレイプ&脅しているシーンで、事実とは異なる、サンディが殺されたという偽の現実を見せたんだろう。

 その直前にいじめっ子グループに仕込まれた(であろう)ドラッグのせいなのかな?それもはっきりしないんだけどね。

 その能力はそれまでは比較的正確に働いてたはずなのに、なんであそこで急に?(さっきまで僕は、『シャイニング』のホテルみたいにエロイーズが住んでたアパート自体が彼女に幻覚を見せてるのかと思ってたけど、エロイーズが自分のバイト先のパブで寝落ちしたときも悪夢を見てたから、たぶん違うね。)

 年老いたサンディがエロイーズにすべてを明かすシーンで、「この前あなたが「ここで女の子が死ななかった?」って聞いてたけど、たしかにあの時、一人の女の子が死んだ。私がね。」って言ってはいたから、サンディはエロイーズがそんな夢を見ていたなんてことは知らなかったのかな。どうなんだろう。



5.エロイーズ以外の元入居者はあの夢を見ていたのか?


 サンディ(老婆)は、エロイーズが入居してきたとき、「今まで何人もの女の子たちがここに住んでいたけど、みんなすぐに無断で出て行ってしまった」と言っていた。

 エロイーズには特殊な能力があるから、そういう夢を見ることができていたわけで、他の女の子たちはできなかったはず。じゃあなんでみんな揃いも揃ってすぐに退去してしまったんだろう

 すごく不自然だ。どう考えても、あの部屋のおぞましい過去が影響しているとしか思えない。

 やはりあの家は生きているのか、、、?



6.『シャイニング』のモチーフが楽しい!


 ここで突然、個人的な話になるが、僕が今まで一番見た回数が多いホラー映画は『シャイニング』(1980)である。

 それほど慣れ親しんだ映画のモチーフがこの映画にいくつも登場していて、それを探すだけですごく楽しかった。

 例えば、サンディがクラブ・インフェルノ(日本語で地獄、、、)で、各部屋で性的な搾取をされまくっている女性たちを順に見ていくシーンは、『シャイニング』の映画終盤でウェンディが、いろいろな場所でホテルの亡霊たちに遭遇するショッキングなシーンにすごく似ている。(なんなら、どちらの映画にも、オーラルセックスをする(させられている)シーンがあったのも共通点であろう)

 あと、屋敷が燃えて終わるというのも共通している。『シャイニング』の映画版ではそのような描写はなかったものの、原作版ではあのホテルは大爆発して終わるのだ。

 というかそもそも、登場人物が特殊能力を持っていて、過去の亡霊たちのトラウマを追体験するという構造それ自体がまったく同じだし、それによって登場人物の精神が崩壊するというのも全く同じだし、刃物を持った人に登場人物が追いかけられるというのもまったく同じだ。

 あとこれは気づいたときに鳥肌立ちすぎて鳥になってしまうかと思ったんだけど、『ソーホー』が2020年(?)で1960年代の出来事を追体験する映画で、『シャイニング』が1980年(公開年)に1920年代の出来事を追体験する映画だった。

 これどっちも、奇遇なのか狙ったのか、60年前のことを追体験している映画なんですよね、、、

 ひえ~~狙ってたのかな。こわ!!!



 こんな感じでどうでしょう。『ラスト・ナイト・イン・ソーホー』

 いろいろ文句はつけたけど、全体的に見たらすごくいい映画だったと思います。まず演出がおしゃれだよね。60年代の華やかな雰囲気を出すのはすごかったし、『007:サンダーボール作戦』の広告が画面いっぱいに出てきたときはすごく興奮した。

 あと音楽の選曲もいいよね。ビートルズとストーンズの名曲に安易にいかずに、ザ・フーとかキンクスとかをいくっていう、、、

 まぁその一方で今回の記事でたくさん書いたように、いろいろ欠点がある映画だとも思います。まだ書いてないことで言うと、現代のシーンが薄すぎることとか、謎の高齢白人男性の存在意義がミステリー要素を強める役割しか担ってないこととか、ジョンの人間性がいまいちわからなかったとかね。

 文句はいろいろありますが、僕は好きな映画でした!


 また明日!

小金持ちの皆さん!恵んで恵んで!