ポルノ利用は恋愛関係にどのような影響をもたらすのか

インターネットの普及により、人類は自然の摂理に導かれ、ますますポルノグラフィー(pornography 以下、ポルノ)を楽しむようになっています。多くの研究者がポルノの利用が恋人同士の恋愛関係に悪影響をもたらすことを指摘しており、この因果関係をどのような理論で説明すべきか、学界で議論が盛り上がっているところです。

そんな中でポルノを使っていても、マスターベーション(masturbation)をしないのであれば、恋人の関係に悪影響が生じるとは限らないという新しい見解が2019年に論文で発表されたところです。今回の記事では、その研究の内容を紹介しましょう。

書誌情報:Perry, S. L. (2019). Is the Link Between Pornography Use and Relational Happiness Really More About Masturbation? Results From Two National Surveys. The Journal of Sex Research, 1–13. doi:10.1080/00224499.2018.1556772

ポルノ利用が、恋愛関係を損なうのだろうか

性科学者の間でポルノを使うほど、恋人同士の関係が損なわれる危険が高まると考えられる理由として何が挙げられているのでしょうか。

過去の研究によれば、ポルノを視聴した人は、性的に理想とされる身体像(ボディ・イメージ)、あるいは性的関係のイメージを自分の中で作り上げてしまい、現実のパートナーの身体特徴や性的関係との間でギャップを感じるため、恋愛関係を悪化させてしまう傾向があると説明されています。

この説明に対しては一部で反論も加えられており、もともと恋人同士の関係に不満を持っているからこそ、よりポルノを利用するようになるのだと逆の因果関係を主張する研究者もいます。

どちらの説が正しいのかが問題ですが、以前に行われた実験の結果では、ポルノの利用者が性的な満足度を低下させる傾向にあることが示唆されたことがあります。やはりポルノの利用は恋人との関係を悪化させるという説が有力視されているのです。ところが、その後の追試で、この実験の結果を再現できないという報告も出されており、簡単に結論は出せません。

このポルノ利用の効果を考えるためには、ポルノの使い方にもっと注目すべきかもしれないと、著者は論じています。というのも、ポルノの利用が恋人との関係に与える効果は、ベッドの上での営みに限定されているとは限らないからです。

例えば、自分が夜中にこっそり過激な内容のポルノを楽しんでいたところ、その現場をパートナーに目撃されてしまったと想定しましょう。理想的な身体像がどうのこうのとか、性的関係のイメージがうんぬんとか、そんな理屈などお構いなく、恋人はあなたに冷ややかな視線を寄越し、それまでの関係が一変するという可能性はないでしょうか。

実際にそのような観点からポルノ利用が恋人関係に与える効果を検討した論文もあり、ポルノの利用の仕方については従来の理論で考慮されていない多様さがあるのです。

われわれは、ポルノの視聴が恋人関係に与える影響を、より包括的かつ総合的な視点から捉えるべきでしょう。ポルノ利用には、さまざまな選択肢があり、その利用形態によって恋人との関係に与える影響の範囲や程度にかなりの違いが生じると想定した方が、ポルノの利用と恋愛関係の因果関係をより正しく説明することができるはずです。

だからこそ、ポルノ利用と恋愛関係の因果を説明する際には、マスターベーションという媒介要因を考慮しなければならないと、この論文の著者は主張しています。次に、この著者の説明を詳しく見てみましょう。

なぜマスターベーションの有無が重要なのか

ポルノ利用とマスターベーションは同時並行的に実施されることが多いことは周知の事実です。しかし、疑い深い読者のために、数字を挙げておきましょう。2011年に実施された調査によれば、217組の異性愛者のカップルのうち、63%の男性が一人でマスターベーションをするためにポルノを利用しているとの回答がありました。ポルノを見ている男性は、パートナーがいたとしても、だいたいマスターベーションをしているのです。

しかし、女性の方のポルノ利用の形態に注目すると、この見方は変わってきます。彼女たちは一人でマスターベーションするためにポルノを使うよりも、パートナーとの性的活動の中で利用することの方が多いという回答が得られています。つまり、ポルノ利用が直ちにマスターベーションと同一視できるわけではないことが明らかになっているのです。

そもそも、どれほどの女性がポルノを利用しているのか疑問を持つ方もいるかもしれません。確かに、過去に女性は男性に比べてポルノをあまり利用していませんでしたが、最近の研究では女性がポルノを使ってマスターベーションする例が増加し、ますます一般的になる傾向があることが報告されています(これも大変興味深い論点ですが、別稿で議論することにします)。

興味深いことに、男性よりもポルノ利用でマスターベーションを伴っていない女性は、また恋愛関係に対して負の影響が生じていませんでした。つまり、ポルノを使っていても、恋愛関係に否定的な影響が生じないパターンがあるということが確認されたのです。

これはポルノ利用の効果を考える上で大変重要な発見であり、これまでポルノ利用が直ちに恋愛関係に悪影響をもたらすという理論が間違っているかもしれないことを意味しています。

そこで、著者は米国で実施された2012年と2014年の家族構造調査の結果を使って統計的な解析を行ったところ、マスターベーションの回数の方が男女を問わず恋愛関係の満足度との間にネガティブな関連を見出せることを確認しました。

さらに驚くべきは、男女の性差によるポルノの利用形態の違いを考慮に入れた上で実施された統計解析の結果では、ポルノ利用と恋愛関係の影響にわずかながらポジティブな関連性が確認されたことです。これは従来の理論では説明がつかない結果です。つまり、ポルノ利用が必ずしも恋愛関係を損ねるとは限らず、つまりポルノの利用の形態によって、パートナーとの恋愛関係が改善される可能性がわずかながら認められたのです。

ポルノはカップルで利用した方がよいかもしれない

この論文で示された調査結果は、それまでの理論の妥当性に限界があることを明らかにしており、より詳細な分析が待たれます。少なくとも現段階で、われわれはポルノの利用によって健全な恋愛関係を育むことが難しくなると一概に決めつけるべきではありません。

注意喚起しておくと、この論文の著者はポルノ使用によって、視聴者の思考過程、期待形成に影響を及ぼさない、と主張しているわけではありません。その可能性は依然として残っていることはここで強調しておきます。

これまで研究者に見過ごされていたマスターベーションの関連をもっと考慮しなければならないことが重要です。ポルノ利用が恋愛関係に与える影響をより包括的に説明できる新しい理論を再構築し、これまでポルノの影響だと考えられていたものが、マスターベーションの影響によるものではなかったのか、再検討するように結論で著者は呼びかけています。

もしパートナーがいるにもかかわらず、ポルノを使って一人でマスターベーションをしているならば、それが中長期的に恋人同士の関係に負の影響を与える可能性を真剣に考えるべきなのかもしれません。もしどうしてもポルノを楽しみたいのであれば、カップルで楽しめるポルノの利用形態を模索した方が、パートナーとの関係を良好にする可能性は高まるでしょう。

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