たとえ家族が崩壊しても、子どものやる気を育てるたった1つの大切なこと: チャプター2 多くの人が知らない、離婚から作り出すことのできる親子の関係にとっての意外なアドバンテージ
イギリスでも伝統的に、離婚した家庭の子どもは、そうでない家庭の子どもに比べて学力が伸び悩むという統計のデータがある。
実際、両親が仲良くて安定した家庭の子どもと、そうでない家の子どもを見比べると、前者は落ち着きがないように見えることが多い。
しかし、よく考えれば、これは一種の偏見なのかもしれない。親が離婚していなくても、不安定な心を抱えた子どもは少なくない。
私が元夫と彼の実子たち(私にとってステップチルドレン)の関係を観察して学んだことは、親子が一緒に暮らさないほうが、より良い関係を築ける可能性があるということだった。
一緒に暮らしながらも関係が破綻している家族の何と多いことか。
イギリスでは肉体関係がなくなると、たとえ子どもがいても、男女がさっと別れると聞いたことがある。
これもケースバイケースだし、確かな統計があるわけではないが、日本よりはいわゆる「仮面夫婦」はずっと少ない印象がある。
6年ほど前の記事によれば、イギリスの子どもの10人に1人はステップファミリー(血の繋がらない家族)の中で育っているという。イギリスの3世帯のうち1世帯はステップファミリーともいわれる。
親の離婚やステップファミリーが珍しくないから、私は20年前にイギリスに行くまで、イギリスの子どもはこうした事態に、日本の子どもや社会よりもずっと心理的に慣れているのではないかと思っていた。
だが、実際のところ、親の別離が心理的波紋をもたらすという点では、日本の子どもと一緒だった。
元夫の子どもたちは基本的に母親が引き取り、普段は母親と一緒に暮らしていた。
元夫は、子どもが小さいうちは、毎週、平日の夜3回は会いに行き、週末は隔週で自ら子どもを預かった。
普段、母親の元にいる息子たちに元夫が与えるようにしたこと。母親とは決して体験できないようなエキサイティングな時間。そして、絶対的安心感(undivided attention)。この2つだった。
たとえば、元夫は多くのイギリスのエリートのご多分に洩れず、殆んど高度な登山に近い、エクストリームなウォーキングが好きだ。
お陰で私も、断崖絶壁だったり、砂利だらけで押し流されそうな斜面の丘陵地帯に行くようになり、そうした大自然を1日何十キロも数日かけて歩いた。
人っ子ひとりいない大自然。置き去りにされても誰もすぐに助けにきてくれそうにない。携帯もつながらないような場所。前に進むしかなかった。
元夫は子どもが2歳ぐらいの頃から、彼をおぶってそういう所へ頻繁に連れていった。
それによって、子どもに絶景を体験させることができると同時に、危険な場所にいても彼を常に守っているという絶対的安心感を与えることによって、連帯感を作り出したのである。
子どもが物心ついた頃には、彼らの心に、お父さんはお母さんと違ってエキサイティングで、絶対に自分を守ってくれるというイメージが形成されるようになる。
子どもたちは自分たちの両親がなぜ一緒に暮らさないのか、ちゃんと説明を受けたわけではない。
だが、大きくなるにつれ、両親のライフスタイルの相違などを把握するうちに、なんとなくこのふたりが一緒に住むのは確かに難しいと理解するようになる。
お父さんは部屋の片付けはあまり上手じゃないから、いつも家はひっくり返っている。テレビだって持っていない。家で流れているのはBBCの教養チャンネル、ラジオ4だけ。
そこにいると、お母さんの手料理や、たくさんのおもちゃに溢れた快適な自分の部屋も悪くないなと思い始める。
でも、お母さんとずっと一緒にいると、お父さんとしか味わえない男同士の冒険やが恋しくなってくる。
子どもにとって、父親がこういう存在になればシメたものだ。
それは遠距離恋愛の恋人に喩えられるかもしれない。
どんなに好きな相手であっても、ずっと一緒にいると喧嘩する。
なかなか会えないことで、相手が美化されていく。
こうして、一緒に暮らしている親子よりも、一緒に暮らさないほうが、より健全な関係が築き上げられることだってできるというわけである。
こんな元夫と子どもたちとの関係は、私の目にはロマンチックにさえ映った。
そこからインスピレーションを得て、彼らを撮影し、子どもたちをインタビューした『ロマンス』というドキュメンタリー映画さえ作ったほどだ。
福井俊さんにこのシナリオを送ったら、気に入ってくださって、彼が作曲した斉藤由貴さん主演のNHKドラマ『ゼロの焦点』の楽曲をこの映画で使わせていただけることになった。
もちろん子どもたちが成長し、思春期に入る頃には親を見る目が変わってくる。
それでも、それまでに築き上げられ、それが揺るぎない関係になっている場合、それがそう簡単に崩れることはない。