へそ曲がり
空を突き刺そうと言わんばかりに真っ直ぐ伸びる杉山に、一本だけ一際ひん曲がった杉があった。まるで「弓」という漢字のようだった。
「おい、杉のくせになんで曲がってんだよ。みっともないったらありゃしない。」
「そうだそうだ、お前のせいで他の山の杉から、この山の杉山は不気味な杉山って言われてるんだぞ。」
「キツツキに突かれて、熊に爪とぎされて倒れて枯れてしまえばいいのに。」
他の杉からは忌み嫌われていた。
だが、曲がった杉はツーンとした顔で曲がり続けた。
ある日、目も開けられぬほどの大雨が降った。その雨は三日三晩続いた。その辺りの山々で土砂崩れがおこり、その山の杉もなす術なく、ほとんどの杉が根こそぎ倒れた。
しかし、あのひん曲がった杉だけは根っこが露になっても倒れなかった。
根っこもひん曲がっているためだろう。
すると、周りの杉達も、曲がった杉を見習い、ひん曲がることにした。
遂にはその山の杉だけグネグネと曲がった杉山になった。
ある日、人間たちが巨大な重機をゾロゾロ引き連れてやって来た。
たちまち辺りの杉という杉は切り倒され、たくさんあった杉山はほとんどはげ山になっていった。
しかし、そのひん曲がった杉ばかりの杉山だけは一本も伐採されなかった。
曲がった杉なんて運びにくいし、不格好で使い物にならず、そもそも買手がつかない。
いつしかその杉山の杉達はグネグネ曲がりながらもグングン幹が太くなった。
そして遂にはその曲がりくねった杉ばかりの杉山は
「神の住む山」
として人間達から崇められるようになった。
そしてその中で、唯一天を突き刺そうと言わんばかりに真っ直ぐ伸びる杉があった。
その杉は
「神様の宿る杉」
として人間達から崇め奉られた。
その杉は相変わらずツーンとした表情をしていた。
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