三日月の「うちのけ」から覗き見えた刀剣研究の世界

いきなりですが、令和元年7月6日に京都国立博物館で開催された土曜講座を聞きに行ってきました。
京博では現在、新収品展を開催しており、それに関連する講座シリーズの1編です。
テーマは
「新収品展関連 重要文化財 太刀 銘国吉(号小夜左庵国吉)について
―鎌倉時代前期の山城鍛冶再考―」
講師はニコ生でもおなじみ、末兼俊彦先生でした。

私のメモによると、講座のメニューはこんな感じの流れでした。
・去年はありがとうございました
・残念ながら皆さんのおかげではありませんでした
・太刀 銘国吉
・認知バイアスと感情バイアス
・次回の犠牲者

以下は、講座を聞いて、とある本丸の初心者審神者(筆者)が感じたこと、改めて考えなおしたことなどを中心に展開していきます。あしからず。
詳細なすてきなレポは、ほかの方のツイートをご覧くださいませ。

そして、録画録音撮影禁止の講座です。講座内容をふわっとメモしたものから拾っておりますので、一言一句とらえることはできていません。その点を踏まえた上でご覧いただければと思います。
あと、筆者はあまり文章書くのがうまくないです。先に謝ります。ごめん。

筆者は、ニコ生の末兼節が面白かったのがきっかけとなり、京博に通うようになり、日本刀鑑賞をはじめた初心者です。
筆者だけでなく、多くの審神者を魅了した「京のかたな展」は、最終的に25万3千3人の来場者数だったそうです。「去年はありがとうございました」はこの話。
日本美術史で人気なのは彫刻と絵画。工芸分野の展覧会は来場者数10万人いけば良い方なんだそうです。かたな展も当初の想定は8万にだったと末兼先生。想定の3倍以上が来館していることになります。審神者すげー。

ここからは、足しげく通った筆者の個人的な印象ですが、後半になるほど、家族連れが増えた印象がありました。審神者だけでなく、「話題の京文化の展示」ということで、多くの人が興味を持って京博を訪れたんじゃないかなと思います。関西のテレビにも多々、末兼先生が出演されてましたしね。(実はぜんぶチェックしてたよ!!)

今後の刀の展示については、末兼先生から「もうやらないけどね~(^ω^)オフォフォ」って言われちゃいました。そりゃ先生大変だっただろう、規模がすごすぎたよ、京のかたな展。ちなみに規模的には1/4でなら、あるいは可能かも・・・?だけど、それだと採算が取れないんだそうです。そっかぁ(´・ω・`)ざんねーん
前回の東博の大規模な刀展が21年前だから、あと20年後くらいに、東博か京博か、はたまた奈良博か九博か。どこかで開催されたらいいな~くらいの感じで、趣味を続けながら待ちたいと思います。

「残念ながらみなさんのおかげではありませんでした」は銘国吉の購入金の話。
知らなかったんですけど、10万SDR以上の物品購入は政府調達として公示されるんだそうです。うわっ、手続きめんどくさそう・・・←
なので、25万人も来場者があって儲かった~!!刀買お~!!とは、いきませんとの話。そうですよね。でも25万人のおかげで、重要文化財の古都館(パネル展示&グッズ売ってたところ)の台風被害による雨漏りを修理したり、末兼PCが無事Win10に更新されたそうです。

正直、去年の刀展に最初に行った目的は、古都館の中に入りたい、建物の内装の写真撮りたいからだったんですよね・・・(筆者は古い建物オタク)
ホント、そういう点でも豪華な展示でしたわ。とても貴重な、擬洋風の建物なんです。ほんと文明開化~戦前の建物って素晴らしい・・・!海外の様式を日本風に取り入れたあの美し・・・おっと失礼しました。

で、銘国吉さんの購入にあたっての公示が、JETRO(日本貿易振興機構)に掲載されていました。こちら

お値段も出てると講演では伺ったのですが、明示なさそう?細かい字から探すのが苦手な筆者には官報の方では、見つけられませんでした。(すみません。だれか見つけたらおしえてください)ちなみに、国への重文の譲渡は譲渡益を非課税とするので、ちょっとお得とのこと。ほほぅ。まー、そんな良いものと我が家は無縁なんで、この知識を使う日は来ないですけど笑


では、本題。太刀 銘国吉について。
1階の展示室に、四方から見えるタイプのケースで展示されていました。
今回は、アクリルの刀置き(というので名称があってるのかわかりませんが)に、きちんと布をかけて展示されていました。
この日展示されていた刀は一振りだけでした。
裏側に回ってみると、布の隙間から、三鈷柄の彫りが少し見えました。
刀文もすごく見えやすく。特に一番さきっちょ、帽子の部分まで二重刃になっていることがよく見えました。
末兼のSはサービスのS!これは、図録を印刷してレジュメ代わりに持ってきてくれたことに対する先生からのコメントですが、ライティングに関してもサービス満点だよ!

そして、今回の講演の本題

山城鍛冶の「二重刃」をメインテーマに、
前回の刀展で「つたわらなかった」ことを末兼先生が講演してくださいました。

私が、この「二重刃」の話で一番ぐさっと来たのは、「専門用語」についての部分だったので、少し本題からずれるかもしれませんが、掘り下げてみたいと思います。あしからず。

では、ここで、筆者の手元にある文献をあたって、言葉の定義を調べてみたいと思います。(いきなり)
まず、二重刃について。解説があった文献は以下。

(タイトル,掲載ページ,出版社,発行,発行年)
1 図解 日本の刀剣,P40-41,東京美術,㈱東京美術,2019年2月25日
2 熱田神宮の宝刀~鑑賞のしおり~,P76,熱田神宮宮庁,2018年4月17日
3 刀剣鑑賞ノォト,P8,㈱アールプリュ,2018年9月29日 ※
4 日本刀ビジュアル名鑑,P13 ,廣済堂出版,2015年7月10日
※「本書は「刀剣甲冑手帳(刀剣春秋刊)」のコンテンツをもとに作成しました」とある
  元のコンテンツを筆者は確認していません。あしからず。

ラインナップを見ていただいて、察していただけると思いますが、初心者向けの解説本ばかりで、専門書は持っていません。今後そろえていきたいとは思っています。
上記の本たちは明記あるもの、無いもの様々ですが、色んな専門書から言葉の定義を引いてきているんだと思っていますが引用元までたどっていません。

本に教えてもらおう「二重刃って何?」(各文献からの引用100%です)

1 刃中の働き 働きとは、地鉄や刃中に現れた景色のことをいいます。(中略)柾目の地鉄を見せる大和物には喰違刃、二重刃、打ちのけなど縦に働く景色が多い。
2 刃中の働き 焼入れや地鉄の特性等により、刃文の中に足・葉・砂流し・金筋などと名付けられる働きや変化が現れる場合がある。これ等を「働き」といって珍重する。(図での解説がメイン)
3 刃文の変化と働き(図と写真で解説)
4 (短刀 銘 越中守正俊を例に)刃中の働き 食い違って二重刃 刃文がまっすぐに連続せず、折れ曲がったりしている部分を「食い違い」いという。この刀では、食い違いが本来の刃文に対して並行に走る二重刃(細く白い線の部分)となっている。

なんか、分かったような、分からんような・・・。
末兼先生いわく、鎌倉時代の刀によくみられるのが、二重刃だそうです。時代性?
当時の刀を作る技法が分からないので、なぜ二重刃が多いかは不明とのことですが、現代で再現しようとするならば、土置きの時に、薄く土を置くとしっかり熱が入って鉄が硬化する=刃になるため、土の厚さの加減を変えると出るみたいです。
鎌倉時代によくみられるということは、その時代の技法の技術的限界だった可能性もあるそう。
なるほど。

今回新たに京博メンバーに加わることとなった 銘 国吉は、直刃調で、粟田口に見られる緻密な肌を持ち、国吉の特徴「二重刃」の3つが揃う、基準作として重要な刀だそうです。

鎌倉といえば、展示では、山城の刀が多かった印象です。
三条とか粟田口とか綾小路とか。どれも二重刃が多いそうです。
鎌倉時代の山城鍛冶の技法は、二重刃になりやすかったのかもしれません。

ということは、三日月宗近にも二重刃、あるんじゃない?ってなるよね。
でも、三日月宗近は「うちのけが多いゆえ三日月と呼ばれる」んですよね?

この、三日月さんの「うちのけ」こそが、前回の刀展で末兼先生が伝えたかったけど、お客さんに「つたわらなかった(質問や指摘がなかった)」ことでした。

じゃあさ、「うちのけ」って何?(各文献からの引用100%です)

1 刃中の働き 働きとは、地鉄や刃中に現れた景色のことをいいます。(中略)柾目の地鉄を見せる大和物には喰違刃、二重刃、打ちのけなど縦に働く景色が多い。
2 刃中の働き 焼入れや地鉄の特性等により、刃文の中に足・葉・砂流し・金筋などと名付けられる働きや変化が現れる場合がある。これ等を「働き」といって珍重する。(図での解説がメイン)
3 刃文の種類と働き(図と写真で解説、直刃のところに打ちのけがある)
4 (P32三日月宗近の解説より)刃縁に沿ってグラデーションのようにかかる三日月状の打除け(中略)光にかざして見ると三日月が浮かんでいるように輝く。これが「三日月」の呼び名の由来になっている。この打除けは、鎌倉時代に制作された大和物の特徴のひとつとされている。

素人の、素朴な感想を言います。
「うちのけ」って「二重刃」の一種なの?それとも同列で並ぶ刃文の「働き」なの?です。
講座を聞きに行く前は、恥ずかしながら
『「うちのけ」って「二重刃」の一種で、三日月の形状してるやつだけ「うちのけ」ってよんでるんだろうな~、形状分類だなこれ』
って思っていました。すいません。


①と②は同じ解説、同じ図に横並びに掲載されている。
③は二重刃は「刃文の変化」、うちのけは「刃文の働き」って書いてあるんですよね。
④に関しては、「本来の刃文に対して並行に走る二重刃」、「刃縁に沿ってグラデーションのようにかかる三日月状の打除け」とあります。
「刃文に対して並行」=「刃縁に沿って」という意味にもとれそうです。

結局、言葉の定義がよくわかんない。
よくわかんないのに、定義を自分の中で勝手につけて鑑賞してしまってたことに、講座を受けて初めて気づいて愕然としました。
実は、以前の末兼先生の土曜講座で、とある質疑応答を聞いて、工芸分野でのスタンスが、いかに自分がいる理系分野と違うかを痛感していたのに、無意識にまたやってしまった・・・と感じました。

本題からは逸れますが、とある質疑応答はこんな感じ。

質問された方
『「〇〇作」の刀の(刃文とか反りとか的にだったと思います)が私には「××作」だと感じます。
××の作じゃないんですか?』

末兼先生
『銘が切ってあるから、もしくは極(鑑定し)てそう判断したと記録があるから「〇〇作」』

それまでは、自然は野菜のパッケージにある「私が作りました!」みたいな感覚で、刀の銘をみていたんですが、
むしろ○○作というのは、刀の特徴による分類やランク分け(価値的な意味も含む)なのか、
と目からうろこだったんですよ。そういうスタンスなのかって初めてこの時に知りました。

では「うちのけ」ってなにか。

質疑に対する末兼先生の回答がこちら。
「うちのけは、ぴょんと飛んでできたもので、連続してつながっているのは二重刃(ニュアンス)」
「刀剣の分野は圧倒的に用語が少ない。じゃあ、うちのけに見える二重刃は何というかと聞かれても『そんな言葉はない』。あえて言うなら、「うちのけ様」で、「匂い切れした二重刃」とかになるけど、それだと価値が下がったように感じてしまう人もでてきてしまうかもしれないし使いづらい(ニュアンス)」

「うちのけ」は「飛焼(とびやき)」の一種という認識でいいの…かな?と思ってます。で、「二重刃≠うちのけ」。
二重刃がうちのけっぽく見えちゃうのは、研減りによって刃文が「匂い切れ」しちゃったため。三日月さん、長年使われてきたんだろうし、それにお手入れ方法によっては、研減りは防げないんだろうなぁ。同サイズの太刀に比べて、三日月さんの現状の体重は1/3以下しかないそうで。(図録に体重やらスリーサイズやら掲載されているので、見返してみてください)
三日月じぃちゃんってめっちゃ、痩せてるやん!!!おじぃちゃん!ごはんにおやつにいっぱい食べて!!!(審神者こころの叫び)

じゃあ、飛焼(とびやき)で、いわゆる用語が指す正統な「うちのけ」をどこで見れるのかという質問に対しての先生の答えは、研いたら減って無くなるため、古い刀では見られない。現代刀工さんの刀なら見れるかも・・・とのことでした。
これはもう、いっそのこと、言葉の定義を変えた方が早くない?って思ったのは内緒。だってさ、『「二重刃」の一種。三日月の形状したものを「うちのけ」と呼ぶ』とかにした方が混乱が少ないんじゃない?

専門用語が確立されていない、適切な用語がないのは、研究が進んでいないから。マイナーな分野あるあるかもしれませんね…。大変だな、刀の世界。専門用語については、なんかうまく理解できなくて、意味わかんなくてもやってた部分でもあったので、講座のおかげで謎の爽快感を味わいました。なんかすっきり解決した気分~

「うちのけがあるから三日月」という旨の記述をたどると、享保名物帳の古いもの(Ⅰ類)では、「三日月のようなうちのけあり(ニュアンス)」、新しめのもの(Ⅱ類など)では「三日月のようなうちのけ数々これあり(ニュアンス)」ってあるそうです。
研減りによって、「二重刃」が消えていき「うちのけ」っぽい働きさんが出てきたような感じ?

これ、享保名物帳という同名書物は存在しないらしく、末兼先生が頑張って類似資料をあたりまくって調べられたそう。すごい。たいへんだっただろうな。古いし手書きだし読みづらそうな字だし、データ化されてないし。そんな膨大な紙資料から「三日月」見つけるとか、恐ろしく労力かかりそうだなと思ったら怖くなった。
刀剣の研究って、めっちゃ大変そう…。(またそれ)

ちなみに、三日月の「うちのけ」については、末兼先生の講座のなかでは、「認知バイアスと感情バイアス」という切り口で話されていましたが省略します。気になる方は他の方のレポ読んでください。要約すると、「一次資料あたるのめっちゃ大事や」です。わかる~。論文書かくとき面倒くさがって孫引きしている人いるんだよね、どこまでたどれば一次資料やねん!とか、ぜんぜん引用元と書いてることちゃうやん…てこと、論文書いてるとあるあるじゃないですか。一次資料あたるん大事や。


末兼先生が光を当てながらビデオカメラで撮影した三日月の動画を見せていただいたんですが、「三日月状のうちのけ」だと思われていたところはめっちゃつながってました。「刃文に対して並行に走る二重刃」。

今回の講座は、骨喰さん鑑賞の会で末兼先生がご案内してくださって知りました。で、絶対行きたいと休日を死守してなんとか聞きに行くことができました。とても勉強になったし、興味深かったので、また、次の機会も参加したいと思います。次の機会があってほしいので、講座のアンケートも、京博のアンケートもちゃんと書いてきました。

いい加減、刀見に行ったり講演聞いたメモを、データでちゃんとどっかに記録しとこう、自分用でいいから!と今回からNoteにまとめてみました。(まだ、いまいち使い勝手がわからないけど)期間限定でツイッターにも投げようかなと思っています。

さいごに

今回の講座のなかの末兼節で、ものすごく印象に残った言葉があります。
「三日月宗近を『見た』ことがある人は日本に15人くらいしかいない」
三日月宗近は京のかたな展で見ることができました。その期間だけでも25万人が目にしていることになります。でも、日本で15人しか『見て』いない。
末兼先生いわく、日本刀を『見た』とは、刀剣の世界では「ケース越しではなく、実際に手に取って調査した」ということだそうです。それ程に繊細な世界なのだと感じました。

刀を『見る』ことも難しい、私たち素人審神者にに何ができるのか
末兼先生に質問された方がいらして、答えをくれました。
それは
「日本刀に興味関心を持っている人がたくさんいるということを社会に伝えること(ニュアンス)」
広くたくさんの人に日本刀文化が受け入れられ、需要があることが分かれば、予算が付きやすくなり、最先端の研究も取り組めるようになります。今開催中の東博のVRがその例とのこと。
確かにな~。わかる~。
需要がないと、お金がつかないんですよね、今の現代社会。
だから、興味あるよ!需要あるよ!文化守っていこうよ!って社会にPRするだけでも十分貢献していることになるとのこと。

今の日本刀ブームは、刀剣の研究分野にとっても悪くないということも仰ってました。
1つ前のブームの時は、日本刀を安く買って高く売る、いわゆる資産売買のような、物を消費するものだったとか(ここはニュアンスです。本題とずれているため、調べるつもりはありません)
でも、現在のブームは、研究的な情報を求められる、「情報」や「文化」を消費するものだそうで。
確かに、推し刀(本物)の新情報とかあればうれしいよね。「むっちゃん」や「みっちゃん」はほんとその例だと思うんだ。
そういう審神者の皆様のアカデミックな部分も含んだ『推しへの愛』が今後の日本刀の研究を後押しするのではないかと思うと、すごいワクワクします。

あ、すっかり忘れてたけど、次回の犠牲者は大きい般若さんだそうです。末兼先生、九博に手伝いに行くって言ってました。次の講演は九州だったりする?行きたいんで早めにプレスリリースしてください・・・(もう出てたりする?ちぇっくしなきゃだな)

読みにくい文章だったと思いますが、最後までお付き合いいただいた方、ありがとうございました。

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