つくりたいものを、どうビジネスにするか──小山将平さん対談(後編)
マガジン『ものづくり視点』は、SEVEN THREE.ディレクター 尾崎ななみが、ものづくりに携わっている様々な人たちと対談をしていく連載です。
未来の自分へ手紙を書ける『自由丁』の代表・小山将平さんとの対談。前編では人との繋がりについて焦点を当てましたが、後編ではビジネスとの繋がりについて2人の考えを届けていきます。
前編はこちら
ブランドを“健やかに”育てていく
尾崎:未来の自分に手紙を送れるお店『自由丁』が出来たのは、6〜7年前くらいですよね?
小山:そうですね、2019年8月なので6年目です。
尾崎:セブンスリーも、今7年目なので同い年くらいだ。オープンした当時、反響はどうでしたか?
小山:いやもう、ぜんっぜんでしたよ(笑)!それこそ1日にお客さんは1人か2人、ふらっと見つけてくれて、そのまま手紙を書いてくれて、みたいな。
なので当然赤字だし、いろんな人から「これビジネスになるの?」って言われてました。でも僕は手紙を書いている人を見て「価値はすでにここにある」ってことがわかっているというか、ちゃんと伝わってきていたから。後はやりようでしかないなと。
尾崎:口コミで徐々に人気が広がっていったんですか?
小山:そうですね!口コミで広まって欲しいと思っていたので、最初から広告費はかけてないです。時間はかかるかもしれないけど、出会ってくれた人から少しずつ伝わっていくのが、自由丁にとっては一番健やかな育ち方じゃないかと思っていて。
いきなり巨額の広告費をかけて露出されていくのは、“もの消費”としてはすごくいいかもしれないですけど…うーんでもどうだろうな、僕が音楽好きだからそう思うのかも(笑)。
小山:例えば好きなアーティストのライブを見に行くと、どんなファンが集まっているかによって盛り上がりが全然違くて。理由を考えた時に、一方のバンドは下積みを20年経てメジャーデビューしているんですね。つまり、20年間共に歩んできたお客さんがいる。耕されているというか、育まれているんです、関係性が。
もう一方は下積みなしでメジャーデビューをして、急に売れるようになっていて。どちらもいい音楽をするんですけど、ファンとの信頼関係が構築されているライブは居心地がいいし、会場の雰囲気もとてもいいなと感じるんです。
尾崎:きっとそばに居てくれるお客さんの声を聞きながら歩いてきたから、それだけ信頼関係も強いんですよね。
小山:だから自分が何かをつくる時にも、時間をかけて少しずつ耕していくのが長期的に見たら一番いいなと。みんなで良いものに育てていきたいと思っています。
尾崎:セブンスリーも広告費をかけていなくて、お客さまの口コミで広まっていきました。同時にメディアから出演、掲載のオファーが届き、放送された番組や雑誌を見てくださった方がまた連絡をくれて……というくり返し。一気に有名になって爆発的に売れる!ではなく、少しずつの積み重ねが長く続いているなと感じます。
小山:それが創業当初からずっと続いてるってことは、人間の普遍性というか、根幹部分にノックしている証拠な気もしますね。時代が変わっても「良いよね」と言ってくれる人が増え続けているということが。
尾崎:自然と続けさせてもらっている感じがしていて、ありがたい限りです。おじいちゃんも、辞めるタイミングを失っています(笑)。
小山:おじいちゃん!(笑)。だけどものづくりって、「必要とされてないなら辞めよう」って終わっていくものがほんとんどだと思うので、素晴らしいことですよね。
枠から外れてみると、社会は少し前進する
尾崎:はじめたばかりの頃は「儲からないでしょ」って言われることもありますよね。
小山:尾崎さんもありました?
尾崎:私の場合は、今まで流通に乗ってこなかった真珠を扱っているので、「こんな歪な形の真珠売れないよ」とか「ビジネスにならない」とか……。
前例がないものこそ厳しい評価や言葉が多く寄せられるけれど、ビジネスは一般的にイメージされる形態だけではなくて。もっと自由な形で成立し得ると思っています。
小山:本当にそうで、まずビジネスになるかどうかを考えてつくるよりも、つくりたいものをつくってから“どうビジネスにするか”を考えるほうが面白いし、愉快だなと僕は思っています。
みんなが思っている、既存のビジネスから外れたところに最初つくっちゃうみたいな。まあ当たらないこともあるんだけど(笑)。
小山:でもその異質が社会に寄り添い始めると、ビジネスの枠を少し広げられる。利益重視のほうが儲かるかもしれないけど、経済活動として既に含まれている表現やものづくりをしても、社会の枠組みはそんなに変わらない。
だから枠外の場所から始めるのが面白いなって。僕はそこに対しての興味が尽きないですね。
尾崎:小山さんは、「社会的な役割」を重視して何かを始めることが多いですか?
小山:社会との繋がりについては、常に考えています。でも客観的に社会を見ると言うよりは、自分の目線で、「こういう社会に住みたいな」とか「こういうふうに社会が変わってくれたら健やかに生きれるなぁ」という、一個人としての気持ちが軸にあるかな。
誰かが介入して完成するものづくり
小山:僕、誰かの手が加わらないと完成するものしかつくれない癖があるんです。手紙と時間を提供するけれど、そこに書く内容は皆さんのお好きなように。間違いなく、ユーザーが加担してくれないと完成し得ない。満足度も然りで。
尾崎:たしかに手紙を書くというのは、完全にお客さま主導のサービスですね。そういうものづくりに惹かれるんですか?
小山:そうですね。100%作り手だけで完成するものを、つくりたいとはあまり思わない。「繋がる本棚」という交換制の本棚も店内につくりましたが、それも次に読む人への手紙を挟んで、そこにある本と交換するっているサービスで。ただ本を交換するだけだと、その仕組みをつくれば完成してしまう。でもそれだと僕がやる意味ないよなぁと思ってしまって(笑)。なので色々考えた結果、手紙を書いてもらわないと完成しないようにしました。
尾崎:「自分がやる意味」を反芻するのは大切なことですよね。ものやサービスが溢れている今の時代、流行の最先端を狙ったり、短命であることを承知で大きく跳ねるビジネスを仕掛けるのも立派な戦略のひとつ。誰かから見たビジネス的な正解が、自分のつくりたいものにとっての正解とは限らない。
自分はどんな物語に参加したいのか?どんなものをつくりたいのか?の答えが、全ての軸になると思っています。最後に、小山さんがこれから挑戦したいことなどあれば、教えていただけますか?
小山:そうだな、ビジョンとしては自分と向き合ったり、自分に素直になれる時間を皆さんの日常に増やせたらいいなと思っています。それこそ1年後の自分に手紙を書くことで、自分と向き合う時間がもっと自然に、文化のようになっていったり。お店も増やしたいですし、僕たちなりの社会貢献を意識して続けていきたいです。
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『ものづくり視点』初回ゲストにして、小山さんには1記事では収まらないほどたくさんのお話をしていただきました。何かをつくってみたいと思う時、つくりたいもののアイディアが浮かんだ時、実際につくり始めてみた時、つくった先の道が見えない時。ものづくりには、各ステージに強敵がいるのだと思います。
突破口はひとつじゃない。前例がなくても、最初は否定されても、自分で見つけた答えが、いつか誰かの背中を押すかもしれない。心細くなったら、それを体現している小山さんのお店に足を運んで、“自分のためのものづくり”をしてみませんか?
<取材・文章/ほしゆき>
自由丁 公式サイト
詩的喫茶 封灯 公式サイト
小山将平さん Instagram:https://www.instagram.com/shoheikoya/