シャイニーカラーズは人間を作ろうとしている
私語り
幼い頃から、ずっと孤独を抱えていた。頭は良い方だったのだと思う。小中学校の時は教えられることが無いと先生に匙を投げられ、勉強を教える側に回らされていたし、高校も大学もそれなりの所に行っていた。友人もある程度いた。友人の家に遊びに行くことも、外で遊ぶことも、ある程度の頻度であった。ただ、決定的に何かを掛け違えているような、自分だけ違う世界に生きているような、そんな感覚を拭えずにいた。
そんな自分が、ただ唯一救いを得られる手段が、空想の世界に閉じこもることだった。空を飛ぶドラゴンに、杖から出る魔法に、意思を持つ影に、魔法陣から現れる悪魔に、思いを馳せているその時間だけが孤独を覚えずにいられた。物心のついた若干5歳の時から今まで、「虚構の世界以上に美しいものはこの世界に存在しない」と持論を掲げている。今の私はパフォーマーの端くれとして日銭を稼ぐ身ではあるが、どれだけ求めても決して手が届かない『虚構の世界』というものを、一生渇望しながら死んでいくのだろうな、とうっすらと感じている。
MRライブという希望
現在アイドルマスター各コンテンツで展開をしているxRライブというコンテンツには、MRライブという前身が存在した。キャラクターがステージに立ち、ライブをするというコンセプトで、765ASのメンバーが各公演の主演を務めたそれに、当時の私はとんでもない衝撃を受けた。千早が、真が、彼女たちが舞台の上にいるのだ! それも、現在のxRとは形式が若干異なり、裏ではアクターさんがその場で彼女たちの動きを表現し、演者さんが声を当てている。彼女たちとの会話が、コミュニケーションが成り立つのだ!求めて止まず、そして叶えることが出来ないと感じていた創作の世界が、その時手を伸ばせば届く位置に存在していた。あの時味わった感情は、一生忘れることがないだろう。
765ASは今年で20周年を迎え、コンテンツとしては一つ円熟しきったものとなる。MRが公開された時ですら、10年と少し経った段階だったため、コンテンツとしては成長を終えたといえるタイミングだった。
だから私は、このMRというものを見た時からずっと、考えていたことがあったのだ。
「もしもこれを、生きたコンテンツの時計を進めるための舞台装置にしたら、どれだけとんでもないものが生まれるのだろうか」
283 Production LIVE Performance [liminal;marginal;eternal]
2025/1/11、立川ステージガーデンにて、シャイニーカラーズがxRライブを行う。これが発表された時、私は周りの反応も気にせず大騒ぎをしていた。とうとう来た、と。あらゆる手段を用いて表現の限りを尽くすシャイニーカラーズが、この手札を切らないわけがないのだ。
ここ数年、コロナ前のMRライブを彷彿とさせる、765ASを主演に据えた『はんげつであえたら』『Re:FLAME』などのxRライブをバンダイナムコが積極的に開催し始めたころから、予感していた。そして、期待もしていた。シャイニーカラーズという名義でコンセプトを定めているであろうxRライブ。必ず何か仕掛けてくると、私は確信していた。そしてその確信は、事実となった。
初日の昼に行われた第一公演 [never;1]では、映像美をこれでもかと見せつけ、『絶対純白領域』と謳われる羽那のビジュアルで視聴者を釘付けにする、というこれ以上ないスタートを切った。初披露のソロ曲である『無垢』、『夢模様キャンバス』などを皮切りに、2時間弱のみっちりとしたスケジュールでCoMETIK、SHHisは各々のユニット曲を披露した。優等生のようなライブを披露し、このまま二日間組み合わせや曲が入れ替わるだけか―――そう思わせた夜公演[odd;2]の劇中、それが起きた。
ダンサブルなナンバーが続くSHHisのパートで、昼公演では2人が奈落から飛び出して『Fly and Fl』を歌い始めるタイミングだった。「美琴さん……?」というにちかの不穏な呟きが、奈落下で待機中のマイクに拾われ、そして曲が始まった段階でせりあがってきた奈落から誰も出てこない。PA席では曲の最中から無線で異常事態を告げる音声が流れ、スタッフが慌ただしく動いている。終いにはライブの一時中断を告げるアナウンスとともに、客席照明が上がるという事態になった。
数分して、再開を告げるアナウンスが流れるものの、『Fly and Fly』はにちか一人の登壇となり、そしてパフォーマンス後のにちかの口から語られたのは「美琴さんは体調不良になってしまったためここからは私一人でパフォーマンスします」という言葉。美琴の担当と名乗らせて貰っている者として、頭が真っ白になるというのはまさにあの時の状態を言うのだろう。そこからのにちかの舞台では、私は祈るように緑のペンライトを握ることしか出来なかった。
シャイニーカラーズは人間を作ろうとしている
なぜSHHisが、なぜ美琴が、という遣る瀬無さと怒りは、今この文章を書きながらも勿論ある。しかし、私があの舞台で強く感じたのは、歓喜とシャイニーカラーズへの嫉妬であった。
私があの瞬間、美琴に、にちかに対して抱いていた感情は、本物だった。本気で彼女たちを心配し、一人でもステージを成立させよう、と懸命に声を張り手足を伸ばすにちかに、縋るような祈りを捧げていた。
あの瞬間、彼女たちは生きていた。息をしていた。
求めてやまない虚構の世界が、この世界にあった。その実感と二人に対しての感情が綯い交ぜになったままライブを終え、動悸が収まらないまま帰路につき、そしてそこでゆっくりと、シャイニーカラーズへの強い嫉妬が湧いてきた。私がマジックをする(プロマジシャンの末席を汚させて頂いている)上で、「魔法使いが存在するかもしれない」と本気で思わせたら勝ち、と考えながら常に仕事をしている。虚構の世界が存在するかもしれない、と思わせることがどれだけ浪漫溢れるものか。
私が求めてやまないそれに、シャイニーカラーズは既に手をかけつつあるのだ。なんと嬉しく、なんと悔しいことか!
このnoteを書いているのは、初日公演が終わった後だ。まだ2公演を残している。それでも、私はこの公演が終生心に刻み込まれるであろうと、確信している。
どうか、彼女たちに幸多からんことを。