インシデント

1件の重大事故(重傷以上)があれば、その背後に29件の軽度の事故があり、300件のインシデントが潜んでいる。

これは、有名なハインリッヒの法則と呼ばれている経験則を指しています。
インシデントそのものは,「ちょっとしたこと」という意味です。
その「ちょっとしたこと」を軽視して何も対策を施さないでいると、やがて少しの事故程度の案件が発生し、それでも改善しないでいると、重大事故が発生するというのです。

この法則は、特に航空業界では重要視されています。
事前のインシデントが有ったかは確認されてはいませんが、大きな事故に繋がる出来事の発端が、言語圏に有った例を二つ紹介しましょう。

一つは、ボーイング767がグライダーになった話です。
1983年7月23日エア・カナダ143便は、飛行中に燃料切れを起こすという、普通は考えられないような事象が発生、両エンジン停止状態での飛行を続け、民間飛行場にダイバートしたのです。
この機の機長はグライダー経験が豊富で、その技術でどの程度の速度で高度をどの程度落とすと、どれくらいの距離を稼げることを計器から読み取り、そこから、以前はグライダー基地であった民間空港に見事着陸させたのです。

原因は、ヤードポンド法が主流だった国に、メートル法が適用された機体が導入されたことにありました。いくつかのサブ的要素も絡んではいますが、要は必要な燃料搭載量より少ないまま離陸してしまったことでした。
これは、民間航空市場極めてまれなケースとして、語り継がれています。

もう一つは、トルコ航空の旅客機DC-10が、パリ郊外エルムノンビルの森に墜落した件です。事故調査委員会がたどり着いた結論は、貨物扉に書いてあった注意書きが、英語表記のみであったことが、引き金であったとしています。

この扉を確実にロックするパーツとして「ラッチ」と呼ばれる部品が、扉を閉める際に所定の位置に収まらず、係員が力任せに押し込んでしまい、ラッチはつぶれて扉はロックできていない状態になっていました。
ただ、地上では扉が閉まっていることが電気的に回路が閉じていたことが確認されていましたので、パイロットはその確認を信じて離陸しました。

ところが、上昇するにつれ、気圧が低くなり、相対的に貨物室の気圧が高くなってしまい、結果、貨物扉が開くと当然、急減圧状態となり、気圧の高い客室の床が破壊され、その影響で制御系ケーブルが寸断されて操縦不能にに陥ってしまったのです。

その扉の英語表記は、「閉まらないときに無理に閉めると、ラッチがつぶれます。」と有ったのです。1974年3月3日のことでした。


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