奈良の老舗素麺屋『マル勝髙田商店』がセブンリッチにジョイン。新たな挑戦と展望を語る
2023年7月、セブンリッチグループは地方企業継承の取り組みの一環として奈良の老舗素麺企業「マル勝髙田商店」のM&Aを実施しました。約1年が経過したいま、どのような変革の風が吹いたのでしょうか。
今回のnoteでは、マル勝髙田商店の代表取締役社長・髙田 勝一さんと、セブンリッチ社長室の濵砂 円郁さんに、事業継承のきっかけをはじめ、グループインから1年間の取り組み、そして今後の挑戦について語っていただきました。
素麺業界の革新を目指して。
新たな価値提供と店舗展開への挑戦
── まもなく創業から100年を迎える「マル勝髙田商店(以下、マル勝)」ですが、事業承継に至るまでの背景を教えて下さい。
髙田:
マル勝は1933年創業、奈良が誇る伝統食「三輪素麺」を手掛ける企業です。
私は4代目で、前職である松下鈴木(後の伊藤忠食品)での営業を経て、30歳にマル勝に戻り、父の病気もあり35歳で社長に就任しました。突然のバトンタッチとともに、そうめん業界の生産者減少や後継者問題、会社の環境など、直面する様々な課題に強い危機感を抱いていました。
その一方で、素麺にはポテンシャルがある、やり方によっては業界を大きく変える可能性があるんじゃないのかなと感じていたんです。
素麺業界の課題は、長年同じ商品を同じ場所で同じように売り続け、価格競争の果てに利益が縮小していること。まずはこのビジネスモデルを根本から見直し、市場を変革する必要があると考えました。そのためには、私たちマル勝の環境も変えていく。なにより、私自身と社員の意識改革が何よりも重要だと確信しました。
なので、社長に就任してから掲げたのは、素麺の新たな価値を創造する「市場改革」、技術・品質のさらなる向上を追求する「環境改革」、そして社員の「意識改革」の3つでした。
── 改革のために、具体的にどんな取り組みをしたんですか?
髙田:
社内に関してはほんとうに小さなところから。トイレのスリッパを揃えることや、会議中の禁煙など、細かなところから地道に改善を進めて、社員の意識は少しずつ変わっていきました。でも10年以上続けてきたのに、なかなか目に見える結果が出てこない。
「もっと大胆な改革をしなきゃいけない」と決心し、既存の倉庫や事務所をすべて解体し、老朽化していた社屋の建て替えを行いました。非常に大きな投資でしたが、会社の未来のために必要不可欠だと判断しました。
── スタイリッシュな社屋で、1階には物販と飲食店も併設しているんですよね。
髙田:
物販は、13種類ある素麺のパッケージを統一しシリーズ化しました。太さやコシ、食感の異なる素麺を、自分好みのものを選んで買う「ネスプレッソ」のようなスタイルですね。
そして飲食分野にも進出したいという思いから、素麺専門店『てのべたかだや』をオープンしました。
従来、素麺って「夏の涼味」や慣例としての価値を提供するものでした。ですが時代とともに消費者のニーズも変化している。野菜も季節に限らず1年中買えて、食卓に季節感がなくなってしまった。
そんな中だからこそ、『てのべたかだや』では素麺の新しい価値を提案したいと考えたんです。
── 「素麺の新しい価値」とは......?
髙田:
素麺は「旨み」を楽しむ最適な手段だということです。
例えば、お出汁専門店で購入した商品を、家でどう使おうと考えた時、鍋や煮物にすると出汁の味わいが薄れてしまう。でも素麺と合わせる場合、塩や醤油などほんの少しの調味料で、出汁本来の旨味を存分に楽しめるんです。
この「出汁を楽しむ手段としての素麺」を体現したのが『てのべたかだや』。四季を通じてもっとカジュアルに素麺を食べてもらいたいという思いから、素麺の新しい食べ方を提案しています。木のぬくもりを感じられる居心地の良い空間は、スターバックスを意識してるんですよ。
業界の課題と従業員の将来、
未来を見据えたM&Aを
── 大幅な改革が進み順調にも見えますが、なぜこのタイミングでの事業継承を決断するに至ったのでしょうか?
髙田:
やっぱり素麺業界って斜陽産業なんですよ。業界全体が20年以上も縮小傾向にあり、後継者問題もある。
そんななかで、マル勝が生き延びるためにはどうするかを考えた時に、うちには三輪そうめん生産量1位を誇る「自社工場」があり、年間を通して安定供給をすることができると。その強みをより高めるためには、今以上の資本力が必要だった。
そして『てのべたかだや』。自分たちが思っていた以上にお客さんの反応が良く、今では行列ができる店舗になりました。ここに勝算を感じ、店舗展開を実現したいと考えた。でも弊社には店舗展開するノウハウが無かったんです。
なので、素麺業界の市場改革のためにも、工場増設と飲食店舗の展開のためM&Aを行うことを検討しました。
── 髙田社長には息子さんがいらっしゃいますが、継いでもらうという選択肢はなかったのですか?
髙田:
子どもに継がせる選択肢はなかったですね。家業に囚われずに、自由に仕事を選んでほしいと思っていたので。
というのも、ぼく自身がずっと後継者として育てられたので、職業選択の自由がなかったんですよね。実は子どもの頃からブルーインパルスに憧れていてパイロットになりたかった。でも「防衛大学に行きたい」と言った時、父から一蹴されてしまったんですよね。その経験があったからこそ、自分の息子には自由に仕事を選んでもらいたい、と。
あとは、私が社長になってから高卒採用をずっと行っているので、社員の平均年齢は29歳(2024年8月時点)と業界のなかでも若いんです。従業員たちの将来を考えたときに「今のままで大丈夫かな」という考えもありましたし、一方で経営手腕によっては素麺業界でマル勝がナンバーワンになれる可能性もあるなと。
だからこそ自分のやりたいことの実現、会社の将来、そして従業員の生活とこれからのマル勝のために、M&Aをするという考えに至ったんです。
「自分よりもっと優秀な経営者が来たらこの会社はどうなるんだろう」という期待感もありましたしね。
化学反応を求めて。
セブンリッチとの出会いと決断
── M&A候補はセブンリッチ以外にもありましたか?
髙田:
ありがたいことに上場企業や大きなグループ会社など、色々なところからオファーをいただいてました。
だた、選択肢は多くあっても「同じ業界の、同じような考え方の人がきても意味がない」「この先が想像できる企業ではだめだな」と。マル勝とはまったく違う業界で、化学反応が起きるような会社がいいなと考えていました。
そんななか、売るか売らないか、この日までに決めましょうという期日を超えたあとに、最後に話があがったのがセブンリッチグループでした。
── セブンリッチを選んだ決め手、期待していたことは何だったのでしょうか?
髙田:
まず、オフィス訪問が決め手になりましたね。東京オフィスを訪れた時感じたのが”部室”のような活気。セブンリッチの皆さんからも「みんな毎日が文化祭の前日みたいな熱量で働いてます」という言葉を聞いて、直感的に「絶対ここだ」と思い、即決しました。
一番期待してたのは「若さ」による影響力ですね。考え方や感覚を、マル勝の社員全員にも共有してもらいたい。それによってマル勝社員の意識が変わるんだろうなという直感がありました。
変な自負もあるんですよ。うちが変わらなかったら、素麺業界は終わってしまうだろうって。
だから、昨年の12月に奈良からマル勝社員全員で渋谷オフィスに訪問したんです。若手メンバーの交流会もやっていただいて、皆が刺激を受けていた。いち素麺屋だったのが、セブンリッチグループの一員になったことで可能性が開かれていくのを感じて「M&Aして本当に良かったな」と思いましたね。
右腕との二人三脚、”セブンリッチ流”PMIとは?
── ここからは、セブンリッチの社長室の濵砂さんと対談形式でお話をしたいと思います。濵砂さんは4月に入社してからマル勝の専任として、髙田社長を支えていますね。
濵砂:
自分は銀行からコンサルという経歴で、過去にファイナンスとビジネスを勉強してきたので、過去学んだことを活かせる経営者と同じ目線で働けるポジションに就きたいと考えていました。
セブンリッチとの面談の際に、マル勝の話を聞きました。PMIの責任者として、P/LはもちろんB/Sにも責任を持って意思決定に関与できるポジションだとのことで「ここなら面白いチャレンジができそうだ」という期待感で入社を決めました。
── セブンリッチのM&A・PMIにおける考え方って、他社と違うんですか?
濵砂:
セブンリッチにはグループのなかに、会計労務・採用支援・システム開発・飲食・デザイン・マーケティングなど様々な機能を備えています。
ですので、セブンリッチのM&Aは、マル勝が持つ歴史やストーリー、事業、チームを、既存のグループ資源と組み合わせて、新しい価値を創造し、バリューアップを行います。
髙田:
最初は「いち紐付きの子会社のようになって、支援を受けながらも独立的にやっていくのかな」というイメージを抱いてたのですが、セブンリッチのPMIは違いましたね。
まるっと中に入って、グループ全体で、事業の価値向上に取り組む。マル勝が実現したいことに対して、それを支援できる事業がまわりに集まって「みんなで進めていく」というスタンスなんですよ。
濵砂:
一般的なPMIでいうと100日プランっていうのを作って3ヶ月でどう変わったかを見るのですが、セブンリッチはいい意味でみんなやりたいことをやってる。さまざまな事業部が「マル勝の◯◯を支援できそう」「マル勝と組んで◯◯やりたい」と声をかけてくれるし、その想いが強い人のプロジェクトはすごいスピードで進むというのもセブンリッチらしいと思います。
── PMIの具体的な取り組みについて教えていただけますか?
濵砂:
財務強化・新工場設立のためのファイナンス支援をSEVENRICH Accounting(会計事業)で担い、人材採用に関してはBOX(採用事業)で。バックオフィス支援をBPIO(BPO事業)、『てのべたかだや』店舗運営のサポートなどをMeatus(飲食事業)で実施しています。この他にも、さまざまな事業部がマル勝のPMIに関わっています。
自分は新しく売り上げを伸ばして利益を伸ばしていくために、「攻め」の戦略部分を推進しています。具体的には営業体制の強化や『てのべたかだや』の店舗展開、第二工場の企画を担当しています。
── 中期成長戦略を具体化していく過程で、髙田社長とはどのような議論がありましたか?
濵砂:
まずは最初に、髙田社長がどういうビジョンを持ってらっしゃるかの話をしましたね。それを数字の面はもちろん、どんな人を採用し、どんな座組でやってけばこの計画が成就するかなどを具体的に事業計画に落とし込む。社長はセンスが良く経験も豊富な方なので、その想いを数字にすることに集中すればよいという安心感の下でスピード感を持って取り組むことができました。
髙田:
これまでは、最後は必ず自分ひとりで決断しなきゃいけなかった。そういった意味で、中小企業の社長って孤独なんですよね。
でも、今は同じ視点に立って一緒に考えてくれる濵砂くんがいる。ぼくの思いが溢れるくらいあって、ずっとフツフツとしていたものをようやくアウトプットできた。具体的に形にできると思うとわくわくしますし、すごく心強いと思っています。
── おふたりの議論や、他事業との取り組みの中で印象に残っているシーンはありますか?
濵砂:
第二工場設立に伴う補助金のプロジェクトですね。自分や藤田さん(補助金支援事業部 責任者)と細かな部分まで詰めながら、一度計画が出来上がった後も「これは髙田社長が本当にやりたかったことか?」と立ち戻って、何度も議論とブラッシュアップを重ねました。
髙田:
第二工場をつくるにあたっての不安って、今まで誰にも話したことなかったんです。「本当にこの決断を下していいのか」「決めたら戻れない」という不安感で悪夢を見るくらい悩んでいた。でも今では、ビジョンを共有しながら一緒に議論できる相手がいるのですごく嬉しいなと。
ちょうど今日も、真榮城さん(空間プロデュース「cal」代表)と工場のプロジェクトについて話をしていたんですけど、彼は「なぜそれをするのか?」 を考えるためにけっこう意地悪な質問もしてくる(笑)。でも、そういった会話を通してマル勝の目指すべき姿が言語化されていくからとても面白いです。
濵砂:
いい意味で、社長のやり方を「そのままやる」のではなくて、皆より良い方向を目指すために本音をぶつけ合っているので、自分も仕事をしててすごく楽しいなって感じてます。
マル勝の次のステージは「世界へ」。
“やりたい”を実現する環境への貢献
── マル勝の今後の展望について教えてください。
髙田:
M&Aをした時、従業員に対してこれからの構想として「世界進出」を目指すことを最初に語りました。そのための第二工場の建設、そして『てのべたかだや』の店舗展開、そしてセブンリッチへのグループインだと。会社をどこかに預けたとしても、自分はまだまだその先頭で目指している世界を見に行きたいと思っています。
実はわたしはセブンリッチグループで最年長なんですよね。普通は若い人がやりたいことを、年配の知識ある人や経験ある人が応援するけれど、いまは最年長のおじさんに向かって若い子がみんな協力している構図なんですよね。
自分の夢の実現に向けて、まわりが熱量を持ってサポートしてくれるこの体制はとても素敵だなって思うし、一方ですごくプレッシャーもあります。
だからこそ、これから自分がセブンリッチにどういう影響を与えることができるのか、なにを還元できるのかについても考えています。いまはマル勝が成長して、セブンリッチに貢献するのがまずいちばんの恩返しかなと思いますし、ゆくゆくは私がグループの若い会社に入って『マイ・インターン』みたいになりたいという理想もあります。
濵砂:
髙田社長がマル勝以外のことやっている姿も見てみたいですね。そういう選択肢や自由度があるのもセブンリッチの良さだと思います。
これからは「大阪のお客さんを増やしたいんで、イベントで登壇してもらいたい」など社長にもっとこういうことして欲しいっていう事業部も出てくると思います。関西という立地を活かしながら、マル勝はじめセブンリッチが関西をもっと盛り上げていけたらいいなって思います。