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【連載小説】純文学を書いてみた1-2

前回……https://note.com/sev0504t/n/n19bae988e901
読んでいただいた方も多く、本当にありがとうございます。毎週日曜日にあげることをがんばります。

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また別の日、僕は先生に呼ばれた。

「ミキちゃんの家から電話があって、今日はどうしてもお迎えこれないんだって。それでね、今日はお父さんが迎えにきてくれるみたいだから、いい子でまっていようね」

 あまりに急に思えた。
「ねえ、今日お父さん迎えに来てくれるんだね」
 いつものように無邪気に僕に話しかけてくるミキが僕には残酷に思えた。
「なに、うれしくないの?」
 怪訝な顔で僕を覗き込む。
「今日は多分少し早く帰れるよ」
 そういえばその時から、日が暮れてからは迎えが父にとって大変だということを僕は知っていた。


 にわかに保育園の周りが騒がしくなり、車のエンジン音の違いや車の丸いラインを僕は楽しむ時間になった。

   みんなが帰りだす5時過ぎ頃に、大きく肩を揺らせ、父はやってきた。右手に使い慣れない新しい白杖を持っていて、髪は相変わらずぼさぼさだった。チャコール色の綿ズボンに灰色のポロシャツ。胸のポケットからは八ミリのマイルドセブンの箱が少し顔を出している。僕はできることなら今からでもミキのお母さんの都合がついていつものように車で帰りたいと願った。

 保育園の門のところでひたすらたたずんでいる父にさすがに先生たちも気づき、僕は呼ばれた。


「お父さんだよね...」
 ミキが心配そうに僕につぶやく。

 保育園にいるヒトがいっせいに父を見ているような気がした。今思ってみれば、父親がどんな人であるかなんて保育園の職員たちはきっと知っていただろう。でもその時は時でも止まったように、そこにいないはずの多くの人までも、すべての人が父を視認しているような気がした。いや、きっとそうに違いない。

 あのときのことをよく思い出す。父を見ていた多くの視線は父を通り越し僕にブーメランのような孤を描いて突き刺さろうとしていた。僕は必死に身を守った。見えないブーメランを僕はよけ続けたんだ。


「いいなぁ。私もお父さんがいいな」
ミキは僕に静かに耳打ちした。 

 白い杖は、「はくじょう」って言うんだよ。僕ははじめてミキにえらそうに言うつもりだったけれど、言えなかった。西日が父を後ろから照らし、煙草の煙が長くなった影の頭の上で煙突から吐き出される煙のように揺らめくのが見えた。不吉なそそりたつ煙突。

 小学校に入って、なぜか僕らは話さなくなった。廊下ですれ違っても無視を決め込んだし、共通の友達はほとんどいなかった。そんななか、一度クラスのレクリエーションかなにかで、どうしてもミキとじゃんけんをしなければならないことがあった。目の前のミキは驚くほどの笑顔だった。視線を斜めにそらしてグーを出した。それだけは覚えている。

 2年生のときにミキは引っ越した。両親が離婚したのだという。それからの学校生活は僕にとってどうも印象の薄い思い出ばかりを残した。

「赤ってどんな色なの?」
「血の色・・・唇・・・あと火も赤い。でも赤にもいろいろあるんだよ。暗い赤、明るい赤。それに黄色に近い赤。青に近い赤。」
「トマトは赤いって聞いたことがある。」
「うん・・・そうだよ」
「血の色のする食べ物って怖くないの?」

つづく

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