私のLINEメッセージから濁音と半濁音が消えた日
スマートフォンを買い替えた。
実に4年半ぶり。通算3台目である。
先代はASUSのZenFone 4 Selfie Proを使っていた。
Nexus 7をかつて愛用していた私としては、ASUSは超メジャーなメーカーの認識を持っていたが、私の周囲はiPhoneユーザだらけで、ZenFoneユーザにはついぞ遭遇しなかった。
「ASUS」の読み方すら知らない人がほとんどだった (まあ、公式すらしばらく二転三転していたが)。
ちなみに生まれて初めてのスマートフォンは、学生時代に使ったiidaのINFOBAR A01。
INFOBARの調子が悪くなってくると、「スマートフォンすら不要では?」と考えるほど尖り始め、ガラケー+タブレットという生活を4年間過ごした。
LINEもタブレット。ポケモンGOもタブレット。無駄に大画面。
そして母親のおさがりの2010年モデルのガラケーを実に使い倒した。
ABCクッキングの授業で、完成した料理を他の生徒がiPhoneでキャピキャピ写真を撮る中、ガラケーで無表情でカシャカシャ撮影する不審な女に出くわしたことがあれば、それは私です。
昔から「周りとはちょっと違う自分」を演出したい欲が強すぎて、iPhoneは一度も持ったことがない。
ところが学生生活を終え、社会の波に飲まれ始めると、その欲を出し続ける元気も縮んでしまった。
人目ばかり気にするようになり、「合コンで連絡先交換するときに、スマホ持っていないとヒかれるよなぁ…」というしょうもない理由で、先述のZenFone 4を購入した。
iPhoneを選ばなかったのは最後の抵抗である。
ZenFone 4 Selfie Proはカメラが売りなのだが、購入後ほんの2~3ヶ月でカメラが起動しなくなった。
修理に出すとカメラ基板を交換してくれたのだが、またすぐに真っ黒な画しか出てこなくなった。
結局その状態で4年以上使い続けた。
instagramが世間で流行し、パンケーキやタピオカミルクティーを撮影してはアップする生活を女子たちが送っている中、私は記録に残らない一期一会の食生活に集中せざるを得なかった。
そんな私のZenFone 4も、筐体を温めたり叩いたりすると、稀にカメラを正常起動できることができた。
昭和のブラウン管テレビの系譜を継いでいるんだろうな、と自分を納得させていた。
しかし近年、スマートフォンのカメラが写らないことで、生活に支障をきたすようにたすようになった。
銀行口座を開くときもローンを組むときも、本人確認書類をスマートフォンで撮影しアップしろと言われる。
「今ここで免許証をアプリで撮影してアップしてください」と言われて慌ててスマートフォンを叩き始めた女を、あの銀行員はどう思っただろう。
生活の不便さを解消すべく、新しいスマートフォンは、昨年発売されたGoogle Pixel 6を選んだ。
iidaからの、ASUSからの、遂に天下のGoogleである。
もうすぐGoogleが新商品を発表する噂は聞いていた。
Pixel 6aという廉価版が発表されるらしい。
ちょっと迷ったが、リークされているスペックを比較して、Pixel 6を今買うことを決断した。
購入から数日後、Googleが発表したトピックには、Pixel 6aだけではなかった。
そうですか、7が出るのですか。それなら待ったかもしれませんね。
とはいえGoogle Pixel 6、素晴らしいスマートフォンである。
まず、筐体を温めたり叩いたりしなくても、綺麗に写真が撮れる。これだけで十分だ。
ただ1つ、辛い点がある。私はフリック入力ができないのだ。
ZenFone 4時代はATOKの「フラワータッチ入力」が搭載されていた。
私がこれ以上に素晴らしい日本語入力形式はないと思っている。
なのに自分以外にユーザを見たことがない。
皆一様にフリック入力、フリック入力、フリック入力だ。
例えばフリック入力では、「ぺ」を入力する際、「へ」の打った後に左下のボタンを2回押して半濁音を追加する必要がある。
しかしフラワータッチ入力では、1回のスワイプで「ぺ」が打てるのだ!
濁音も半濁音も促音も1スワイプなのだ!
フリック入力の難易度に嫌気がさしてしまい、スマートフォンでの文字入力が億劫になってしまった。
LINEのメッセージが来たら、電話で回答することが増えた。
テキストで返すときも、清音の入力はぎりぎり頑張れるが、濁音や半濁音や促音や拗音を使えなくなってしまった。
にほんこにゆうりよくつて、ほんとうにむすかしい
こみゆにけーしよんつて、ほんとうにむすかしい
なんか自分の孤独さを感じ、部屋の隅で膝を抱えて震える日々が増えた。
まぁ黙って月300円払ってATOKアプリ入れろということだ。
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