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MADテープといふもの・出会い

 あれは大学生のころ。アルバイトの後輩から聞かされたのがその始まりだった。

「先輩、すっげー変なアニメのテープもらったんすよ。いろんなアニメの主題歌やセリフを切ってつなげて、すっげーバカバカしいネタにしてあるんです。
 「宇宙戦艦ヤマト」の発進シーンで、なかなか波動エンジンがかからなくって、艦長が「もう一度点検せよ」って言うと島が「スイッチがオフになっていました」って言って、もう一度かけるんですけどまたかからない。またかけようとして、またかからない。最後に島が艦長に射殺されるってやつで、もうこれが笑えて笑えて」
 へぇ、そんなネタテープがあるのか。一度聴いてみたいな。

……そう思いながら何年かたち、今度は大学のサークルの後輩からこう言われた。(時系列がおかしいって?おかしいのは私の大学在籍年数なので気にしないこと)
「先輩、「マッドテープ」って知ってます? アニメの切り貼りでおかしなネタを……」
「あ、それ話だけ聞いたことがあるわ」
「実は手元にあるんで、ダビングしましょうか」
「ぜひぜひ!」

 そうして次の例会で受け取ったのが、90分のカセットテープ4本。
 これが私と NEW MAD TAPE との出会いだった。

 帰りの電車の乗り換えを待つ接続駅で、ウォークマンに入れたMAD TAPE 3/4 を再生してみた。「ダーティペア」の主題歌から始まる。
 「ロ・ロ・ロ・ロ・ロシロシ♪ロシアン♪ロロロロロロロ♪ロロロロロロロ♪……」
 なんじゃーこりゃーっ!いつまでたっても始まらんぞ!
「今すぐ心に しろくロシアンルーレット♪」
ぎゃはははは!戻るんか!
「ロロロッロロッロロロッ♪六甲おろしにさっそうと~♪」
なんで阪神!ひはははは!
 駅のホームで笑い転げる男を見ていた周囲の人はどう思ったろうか。しかし本人はただただテープから流れるマッドな世界に押し流されて、まわりの目など気にもできない状態に陥っていたのだ。

 その夜のうちに1~8を通して聴き、私は抱腹絶倒の涅槃の境地に至っていた。
 そして、その頭の片隅に、ひとつの記憶がよみがえった。

……こういうの、おれ作ったことがあるぞ。

 大学受験生のころ、「さだまさしのセイ!ヤング・アネックス」というラジオ番組で、CMの後に流すジングルをリスナーから募集したことがあったのだ。
 それに応募するために、こういうテープを作ったことがある。

 山口百恵の「ひと夏の経験」の冒頭「あなたに女の子のいちばん大切なものをあげるわ♪」につなげて、「セイ!ヤング・アネックス」の出演者、安比高原プリンスホテルの支配人、勝さんのセリフ「どうも!」をつけたのがひとつ。
 もうひとつ、これも山口百恵と勝支配人の接続で、
「別れてほしいの彼と!♪」「いいっすよ~いいっすよ~いいっすよ~!」
 こういう代物を作って文化放送に送ったら、みごとにさだまさしに採用されてオンエアされたのだ。

 そう、MADテープは作れるのだ。

 それが、至福の世界へつながる扉が開いた瞬間だった。

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