切なさとは ~AKB48『片思いの対角線』~
この曲は、友達の彼に思いを寄せてしまった女性の、切ない心情を歌ったラブソングです。
楽曲のタイトルは、どうやって決まるのでしょうかね。
作詞した人が考えるのか、それとも何らかの会議で決まるのか?
48Gの楽曲にも、ときどきどういうことなのだかよくわからないタイトルを見受けることがあるのですけれども、この曲のタイトル『片思いの対角線』もそうですよね。
歌詞を読んでみたり、歌を聴いてみたりすれば、ああそういうことかと納得できるのですけれども、タイトルだけ示されても、数学用語(?)の「対角線」と「片思い」とがどうつながるのやら……。
『片思いの対角線』というのが何を意味しているのかは、サビの歌詞を見てみるとわかります。
親しい間柄であれば、隣同士か、もしくは歌詞にある通り、向かい合わせに座るのでしょうけれども、そうでなければ、はす向かいの位置、つまり机を挟んで対角線上の席に座ることが多いのではありませんかね。
主人公は友達の彼に対して恋心を抱いているわけですけれども、この二人に面識はあったのでしょうかね?
あったとしても、親しく会話を交わすような間柄ではなかったのでしょう。
あくまでも主人公の片思いということで。
それゆえに、隣でもなければ向かい合わせでもない、はす向かいの席に座ることになったのでしょう。
この主人公が積極的な性格であれば、あるいは向かい合わせの席に座って話しかけることもできたのでしょうけれども、思いを寄せた相手が友達の彼であるということが、そうはさせなかったのでしょうかね。
そういった主人公の切ない心情が、この「対角線」には表されているのでしょう。
この曲の歌詞を眺めていくと、そういった切なさの表現が、いくつもちりばめられているのですよね。
1番Aメロには、次のようなフレーズがあります。
実際の彼には近づけないけれども、夕陽で伸びた影ならば私に近づいてきてくれると解釈できますよね。
そう捉えると、なんとも切ない気持ちが増してきませんか?
そして、1番Bメロ
この場には主人公の友達はいないのでしょう。
かと言って、とりたてて彼と何か会話するでもなく、ただ近くの空間に二人しているというだけなのですよね。
けれども、その状況が彼を独り占めしているようで、それだけで幸せな気持ちになれるということなのでしょう。
これもまた、なんとも切ない。
2番Aメロには、こうあります。
本のページがめくれるほどのため息とは、いかほどのため息なのかと思ってしまいますよね。
要は、そこまで大きなため息が出そうなくらいの切ない気持ちを抱えているということなのでしょう。
また、2番Bメロには、
とあります。
友達を傷つけることなどできやしない。
告白などもってのほかだ。
そう思って、彼への恋心を抱え込んだまま、その場を離れようとするわけです。
2サビには、次のようなフレーズがあります。
「いつかあなたに話せる日が来る」というのは、告白して恋人関係になってということではなく、時が経って「そういえばあの頃、あなたのことが好きだったのよ」とでも笑って話せるようになったらということなのではありませんかね。
もっとも、実際にはそんな日が来ることなどないと、この主人公もわかってはいるのでしょうけれども……。
「卒業まで秘密にして」とありますから、おそらくこの主人公は、自分の気持ちを胸にしまい込んだまま卒業するつもりでいるのでしょう。
そして卒業してしまえば、顔を合わせる機会もなくなって、苦しい思いもしなくて済むようになる。
そうなれば、いずれはこの恋心もフェイドアウトしていくことだろうと、そこまで考えているのかもしれません。
友達のことを考えると、この主人公にはそうした選択しか考えられないのではありませんかね。
落ちサビには、こうあります。
主人公が彼に対して自分の存在をささやかながらアピールしていると受け取れませんかね。
もちろん、そんなことは彼には気づきようもなく、主人公の自己満足にすぎないわけですけれども。
ラスサビ
この主人公とて聖人君子ではありませんから、当然、友達に対して嫉妬心もあるわけです。
けれども、友達を裏切ることなどできない。
自分の気持ちのまま振舞えば、友達も自分も傷つくことになるのはわかりきっている。
だから、自分の恋心は胸に秘めたままにしておくしかない。
この主人公は、友達思いの優しい人なのでしょう。
今のこの状況は苦しいけれども、嫉妬心よりも自制心のほうが勝ってしまう。
それだけに、切なさがより一層際立ってくるのですよね。
引用:秋元康 作詞, AKB48 「片思いの対角線」(2009年)