憧憬の夢模様

そこに幸せがあればいいと思っていた。

ただ、美しく、優しく、洗練された世界で、確かな温もりさえあればよかった。

例えば、そう。

春の陽だまりのような温もりのなか、穏やかな時の流れがあり、そして鳥の歌声が、そよ風の囁きが、どこからか聞こえる童歌が、私を包み込むような。

例えば、そう。

新緑の夏の暑さに文句を言いながら、跳ね上がる水滴を浴びて、翡翠が小川に飛び込むその美しさに感動するような。

例えば、そう。

腐敗していく季節の色合いを趣深いと言いながら、橋の下を流るる川に浮かぶ紅色の絨毯の中、鴨が泳ぎ進む姿を写真に収めるような。

例えば、そう。

暖炉に燃ゆ炎の揺らぎに照らされて、雪深い森の奥で餌を掘り返す兎やそれを狙う狐、生命の決して静寂ではない営み、だがしかし閑静である生殺与奪さえも、心を満たす糧になるような。


ただ私たちはその全てを手に入れたとして、それが理想だとして。

それでも満たされることはないのだろう。描かれた理想は程遠く、例えば、一切の自由も、優しさも温もりも、そのどれもがなくて、檻に閉じ込められていたとしても、満たされてしまうことはあるのだ。


理想は美しく、冷たい。

私たちは軽々しく語るけれど、それは、私たちが普段あまりに「夢」と言うものに、遠すぎるから。

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