街で聞いたコトバ/クリニックの待合室で。泣かないよ。
母親とふたりの子ども(姉と弟)が、インフルエンザワクチン接種の順番を待っていました。
まず、10歳くらいのお姉ちゃんが診察室へ。接種を終え、右手で左腕をおさえて、何ごともなかったように戻ってきました。
次は4~5歳の弟クンの番。なのですが、待合室のソファからなかなか離れようとしません。しがみついています。母親とお姉ちゃん、二人がかりで手を引っぱっても、足を踏ん張っています。すったもんだの末、弟クンは、母親と一緒に、やっと、やっと診察室へ。
すると、中から、突然、
「やめてくださーい!」
と叫ぶ声が響き渡りました。母親や医師や看護師が、なだめたり、スカしたりする声の合間に、何度も何度も、
「やめてくださーい!」
「やめてくださーい!」
「やめてくださーい!」
待合室で待っていた大人たちの顔は、一様にほころんでいます。
弟クン、とうとう観念したのか、静かになり、ほどなく泣き顔で戻ってきました。
お姉ちゃんがニコニコしながら、弟くんに尋ねました。
「泣いた?」
弟クンは、鼻をすすり上げながら、首を横に振って涙声で答えました。
「泣かないよ」
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