ルオーが見た色彩は… パナソニック汐留美術館開館20周年記念展
う~ん、予定より1時間も早くついてしまった……
そんなとき、どのように空き時間を過ごしますか?
その日、新橋駅で時計を見て、1時間の過ごし方を考えました。
書店をぶらぶら。カフェでコーヒー。雑貨店は、うっかり余計な買い物して荷物が多くなりそうだから我慢……
そんな感じで、汐留方向に地下道を歩いていた時、素晴らしい看板が目にとまりました。
そうだ。あそこがあったじゃん!
◆ちょっと寄りたいときにぴったりな美術館
パナソニック汐留美術館、本当にいい場所にありますよね!
汐留でも新橋駅にかなり近い方の、汐留シティセンターに隣接するパナソニック東京汐留ビルの4階です。
開催中の展覧会は「開館20周年記念展 ジョルジュ・ルオー~かたち、色、ハーモニー」。 6月25日(日)までやってます。
美術館で1時間は時間が足りないようにも思いますが、この美術館はそれほど広くなく、今回のように「ちょっと時間が空いたから何かしたい」ときにぴったりな規模なのです。
パナソニック汐留美術館といえば、ジョルジュ・ルオー財団と親密な関係で、日本でルオーと言えばここ!という存在ですね。
しかし、です。
実は、ルオーを真面目に見たのは、今回が初めてだったかも……
ぶっちゃけワタクシ、絵の好みはどちらかといえば「キレイ系」でございまして。そりゃピカソは圧倒的にすごいと思うけれど、正直、キュビズム・フォービズム以降の美術にあまり親しみがございません。シュールリアリズムのマグリットはとても好きなんですが(キレイ系ですし?)
……はい。底の浅い美術ファンですみません。
そう。このブログは、アートの専門教育を受けていない、単なるシロートファンのワタクシが、美術館で思う存分おしゃべりできないうっぷんを晴らす場でございます。
お覚悟の上、先へお進みくださいませ(って、なんの覚悟?)
◆思ったより、かなり好き!
さてさて。ルオーですが。
今回、若いころの作品から晩年の代表作まで本邦初公開作品を含む約70点をまとめて見て、……思ったよりかなり好き!(って、オイ)と、感動しました。
とくに、心にすとん!と落ちたのが、ルオーの色彩です。
展示は、ルオーが絵を学んでいた若いころの作品からスタートしました。
学生として描いたアカデミックな作品は、木炭などの「ふわあ」とした表現を生かした端正な仕上がりです。
キュビズム・フォービズムでモチーフを崩していっても「絵」になるには、やはり基礎の技術が大切なんですね。「私でも描ける~」じゃないってことですわ……
(でもね、巨匠の作品にこんなこというのなんだけど、あの裸婦の足のつきかたは変だと思…おっと誰か来たようだ)
そこから「ルオーの絵」になっていく過程が、比較的わかりやすく展示されていました。
◆「セ・グローク」??
一時期、緑青っぽい青緑とオレンジという組み合わせが大好きだったようです。
私も大好きです^^
青緑といえば、名作コミック「のだめカンタービレ」で黒木君がターニャに「セ・グローク(青緑)」と言われていましたが……←「陰キャ…」の意^^;
ルオーもそういうイメージでこの色を選んだのだろうか?(絶対違う)
どの画家にもお気に入りの色があると思います。この作家と言えばこの色、というテーマカラーっぽいのがあると、印象に残りますね。一時期、ルオーは「青緑の人」だったのかもしれません。セ・グローク……違う!
青緑で空間を表し、オレンジで人体を描き、色相環で三角の位置にある相性がいい色の組み合わせで、とても引き立ちます。
さてさて。
「ルオーの絵」になってから、青緑以外で感じた特徴は
・太く黒い輪郭線
・絵の周囲を囲む額縁的な構図が好き
・写実を離れても稜線とか基本はしっかり意識されている感じ
・人体の関節を〇で描く
・何かで裏打ちした紙に油彩で描くのが好き
・年齢を重ねるにつれて、執拗になっていく塗りこみ
・ざっくり描いているようで、意外に筆の運びは遅かったのではないか?と思うタッチ
・トシとともに平面を超えようとしたのでは?的な「もりもり」感
……などです。
◆なるほど、ステンドグラスか…
輪郭線は、最初、ナントカの一つ覚えで「浮世絵の影響?」と思ったのですが、違いました。
ルオーは少年時代にステンドグラスの工房で働いていた経験があったそうで、ステンドグラスの表現の影響がみられるとの解説がありました。
なるほど、ステンドグラスか……
そう思ったら、なんとなく、とくに晩年のルオーが見た「色彩」についても、つなげて考えてしまいました。
ルオーの絵の具の乗せ方は、赤の上に緑、その上に黄色……と言った感じで、全く違う色をどんどん塗り込んでいく印象があります。
こちらの絵、わかりますかね……(あっまた映り込みが…汗)
人物などのモチーフが、非常に立体的に、絵の具で塑像を作ったみたいに画面から盛り上がっています。
脈絡ないんじゃないの?と思うくらいに、様々な色を乗せては削り、乗せては削り……制作の進みはとてもゆっくりだったそうですね。
ペインティングナイフで削った跡なのか、大型の筆の毛なのか? 繊維みたいなものも見えます。
そして、ルオーの絵を眺めていると、画面の向こうから、原色に近い色がキラキラちかちかと、きらめいてこぼれ出てくるような印象です。
単に色を重ねるだけでなく、削り取ることでざらっとした質感や不規則な表面の形が出てくるのも、色の洪水のような印象に一役買っている気がします。
それをまとめ上げるのが、黒く太い輪郭線です。
黒い輪郭線の形の奥から、きらきらと輝く色の洪水が押し寄せる…………
これは、まさしく……
ステンドグラスです!
ルオーの目の中には、太陽光の強い光がステンドグラスを通して降り注ぐ、あの光景があったのではないだろうか。
ステンドグラスは、黒い輪郭にはめ込まれたガラスの色だけでなく、奥から光がふりそそぐことで、ガラスの色のまだらな感じや周囲の光の影響を受けて、たくさんの色のきらめきを感じられますよね。
こってりと絵の具を盛っているため、透明感はないのですが。不思議な感覚です。
年齢を重ねるほどに、少年の日に見たガラスの色のきらめきと重なりが、ルオーの目によみがえったのかも。ステンドグラスの色彩を、絵という画面にとどめたくて、こういう表現になったんじゃないかな? などと、妄想します。
「ルオーの絵」になって、端正さはなくなったけれど、執拗に塗り重ねた絵の具から感じる光あふれる色彩や、黒く太い輪郭で描かれたデフォルメされた人物からは、なぜか聖なる清らかさを感じられます。「キレイ系」ではないのに、不思議ですね。
展示の最後に、高画質映像でルオーの絵をめっちゃ拡大して、絵の具の重なりをじっくり見せるコーナーがありました。
狂気ではないかとも思える作業の工程がしのばれます。
でも、出来上がった絵は、画家としてのコントロールを感じるのも不思議でした。ゴッホみたいなマジの狂気は感じません。むしろ描く対象への信仰?みたいな思いが伝わってきます。
「ミセレーレ」という、世界大戦中に作られた版画集では、聖母子像のような母子や、祈りを感じる死者の絵などがモノクロで描かれ、悲劇と怒りが信仰でつながって、とても印象的でした(著作権の関係で画像を載せられないのが残念です……)
今回、最後の部屋はすべて撮影OKという、太っ腹な展示でした。
おかげ様でブログが書けました……ありがたやありがたや。
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