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STAY KOBE《04》いかなご香る垂水を歩く

街と人の絵を描くイラスト作家・こもりあやみが「色々あって神戸に住むのは難しいけど、それでも時間さえあれば神戸を歩きたい」という気持ちで始めたnoteマガジン「STAY KOBE」です。神戸にいる人、神戸にいた人、神戸に行きたいけど行けない人に「今の神戸」をお届けします。(不定期更新)

シンコとも呼ばれるいかなご。醤油、ざらめ糖、生姜やみりんなどで甘辛く煮詰めた「釘煮」が有名

大阪湾を囲む街の人たちにとっては「春の味覚」でお馴染みのいかなご。ニュースによれば3月1日に始まった今年のいかなご漁は実質4日間で終わったそうです。スーパーでの値段は1kgあたり約3000円。10年前の自分が聞いたら失神しそうな数字です。

垂水区の恒例イベント「いかなご祭」も3年連続で中止になりました。不漁にコロナ、いかなご発祥の地として盛り上がってきたわたしの地元には何もかもが厳しい状況です。今年だって漁師さんや流通に関わる方たちのおかげでなんとか出回ってるようなもので、来年どうなるかも分かりません。

垂水駅の北側

漁の終わりを知る前の3月上旬、わたしは垂水駅にいました。用事があるわけでもないのに来てしまうこの本能めいた行動こそいかなごの釘煮で育ってきた証です。
けどこれだけ「いかなご厳しいなぁ」と言われてたらかつての勢いなんて無いだろうし、さすがに自粛モードかな、と思いきや。

…………甘っ!辛っ!!
駅出て数十メートル歩いた瞬間漂ってきました、あの独特の香りが。昔わたしが垂水駅から(当時の実家に)帰ろうとしてた時、夜の10時に民家からもくもくと炊き上がったあの伝説の釘煮フレーバー。
あぁ、垂水はやっぱ違うなと。区民の本気なのか何なのかわかりませんがほんとに泣きそうになりました。

ウエステ垂水のロビー

あてもなくウエステ垂水(旧ジャスコ、現イオン)を彷徨うのも帰省のルーティーンです。全然意識してなかったけどただでさえ茶色の系統が多い90年代の建物でこんな開放的な色合いは斬新に見えます。このエメラルドグリーンとクリームイエローの組み合わせ、すごく好き。

廉売市場の西側。90年代までは入口が人で溢れてた

3月末で営業を終える予定の垂水廉売市場。
「不漁」の文字を見かける前の2015年、ここの老舗店の男性が「そろそろいかなごでやってくのは厳しいで」と言い出して驚いた記憶があります。年々海面の水温が上がってきてるらしく「そのうち熱帯魚の釘煮になるんちゃうか」と。
その時は冗談やろ~と思ってましたがもう既に笑えなくなってる……というか、この男性も軽い感じで言ってたけど内心はちょっとつらいものを感じてたのかもしれません。

くがのマル井パンと市場、最近リニューアルした肉のミカゲヤ

商店街を抜けて区役所のロビーに入ると駅前再開発のお知らせが。前々から言ってたのがようやく実現するみたいですね。

わたしは10年くらい前に再開発の意見交換会に顔を出してた時期があって、その時は「昔から愛着のある廉売市場がなくなるのは寂しい」「何とかして残してほしい」と思ってました。

ところが、まさにその市場の横で火事が起きたんです。
9年前の2013年3月5日。NHKの早朝ニュースを見て茫然としました。

火事の一年後に撮った現場。燃えた飲食店は更地に

けが人がいなかったのが不幸中の幸いでした。たまたま取ってた有給で昼間に垂水へ降り立つと商店街には異様な人だかり。いかなごどころではない焦げついた煤(すす)の臭いが辺りに広がってました。あの後焼けた臭いがしばらく残ったことを覚えてます。火元の飲食店は取り壊されてやがて駐輪場になりました。

何十年も続いた市場には店を継いできた人たちの気持ちや生活もあるでしょう。でもあの臭いを知ってしまった後は、何がなんでも昔の場所を残してほしいとは言えなくなりました。
そこで生活する人にとってまず安全であってほしい。ただそれだけです。
もう焼け跡の前で立ち尽くす人たちを見たくない。

春の空を映す福田川(右の建物が区役所)

駅周辺の再開発は2027年頃に完了するそうです。
順調にいけばあと5年。
新しくなった垂水でまた「いかなご祭」ができるかもしれない。でももしかしたらできないかもしれない。ふるさとからいかなごが消える未来と隣り合わせだと分かっていても、どうしてもあの強烈な香りを求めてしまう自分がいます。

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ではまた神戸で会いましょう。