書を読む#1 四国新幹線の調査結果

第1回目の投稿は、四国新幹線の調査結果の考察を行います。四国新幹線整備促進期成会によるパンフレット「四国の新幹線実現を目指して」の内容を簡単にまとめ、最後に考察を述べさせていただけたらと思います。それでは早速みていきましょう。

はじめに

四国は全体人口約380万人で、南北を瀬戸内海と太平洋に挟まれた島です。本州とはしまなみ海道(愛媛ー広島)、瀬戸大橋(香川ー岡山)、鳴門大橋&明石海峡大橋(徳島ー兵庫)で繋がっています。瀬戸大橋には鉄道が通っており、多くの利用者がいます。愛媛佐田岬のすぐ先には九州があり、フェリーが多数就航しています。

緑:しまなみ海道 青:瀬戸大橋 赤:鳴門大橋と明石海峡大橋 (Wikipediaより)

しかし、四国は人口減少、高齢化が著しくなっています。さらにニュースで度々耳にする南海トラフ地震などの災害のリスクにもさらされています。このような事情から、交流人口拡大による地域経済の活性化、災害に強いインフラが四国には必要とされているのです。

これまでの流れ

上記のような問題を受けて、四国では何度もインフラのあり方について会議、検討が重ねられてきました。その主な経緯を記します。
平成22年 4月 四国における鉄道ネットワークのあり方に関する懇談会
・四国の鉄道は、四国が他地域との競争を生き抜くために必要なインフラ
・鉄道の早急な高速化が必要

平成23年 11月 四国の鉄道高速化検討準備会 設置

平成26年 4月 四国における鉄道の抜本的高速化に関する基礎調査
・新幹線の整備は、大幅な時間短縮効果等を通じて四国に様々なプラスの効  果をもたらす。
 ・四国の新幹線計画でもルート次第では、社会的観点からの投資効率性の指標となる 費用便益比(B/C)が「1」を上回る。 
・災害に強い鉄道網が形成され、災害時の強靭なネットワーク機能を果たす。
→新幹線建設は妥当と判断

このように、四国が抱える問題を解決するためには新幹線が必要であるという結論に至り、四国は新幹線建設推進運動を行っていくことになります。

計画の現状

新幹線の計画には種類があり、計画段階のものを基本計画新幹線といいます。四国新幹線もこれに当たります。一方、九州新幹線や北陸新幹線などの実際に工事に着手し、開業済みまたは工事中の新幹線を整備新幹線といいます。
四国には2つの新幹線計画があります。1つ目は大阪から四国を通って大分までを結ぶ四国新幹線です。海を渡る必要があるので、橋もしくは海底トンネルを作らなければなりません。このうち、鳴門大橋は新幹線を通せる構造になっています。ただ、後述しますが現在期成会によって推進されている四国新幹線は若干ニュアンスが異なるので、ここでは昔の地名からとって南海道新幹線と呼ばせてください。

南海道新幹線

もう一つは岡山から瀬戸大橋を渡って高知へと至る四国横断新幹線です。先ほど述べたように瀬戸大橋には鉄道が通っているのですが、実は鳴門大橋同様新幹線を通すことができる設計になっているのです。

四国横断新幹線
瀬戸大橋の構造

しかしどちらの計画も現在調査が中断されたままであり、四国に新幹線を作るためには調査の再開、基本計画新幹線から整備新幹線への格上げを目指さなければなりません。そのために期成会が実施した調査の内容をみていきましょう。

調査結果

調査は3つのケースを想定して行われました。

調査で示された3つのルート

ケース①は南海道新幹線を、ケース②は四国横断新幹線に沿ったものです。ケース③は期成会が独自に提案したもので、①南海道新幹線と②四国横断新幹線を足し合わせたような形(十字ルート)をしています。ただし、海峡部以外を先行整備するようです。現在の四国新幹線はこのケース③を指すことが多いようです。

(1)概要

調査概要

上表から、各ケースの特徴を順にみていきましょう。
①は平均輸送密度が16,200人/日と3つのケースで最大ですが、海峡部を渡るために費用も最大になっています。
②は松山市や高松市などの四国における大都市を通らない分、需要は限られています。
③は各県庁所在地を通りつつ、瀬戸大橋で海を渡ることで需要を回収しながらも費用を抑えることに成功しています。公共事業の指標に使われるB/C(費用対効果)が1を超えると、建設する価値があるとされるのですが、ケース③はこれを超えています。

調査の際、工事単価は一般区間が50億円/km、海底トンネル区間が170億円/km、大深度地下区間が210億円/km。車両費は1編成(6両)が22億円と設定されています。
ケース①では、山陽新幹線の代替ルートとしての効果は計算に入っていないようです。

(2)時間短縮効果

新幹線整備による四国主要駅間の所要時間の変化(ケース③)

十字ルートによるケース③の場合、各県庁所在地間の移動時間は大きく短縮され、例えば主要都市である高松松山間では100分の短縮になっています。

(3)交流圏の拡大

ケース①南海道新幹線を整備した場合、徳島から3時間で到達できる範囲が劇的に増えます。大阪はおろか名古屋まで、果ては九州まで到達できるようです。

徳島駅の3時間到達圏の変化(ケース①)
3時間到達圏内に含まれる自治体の総人口の変化(ケース③)

ケース③十字ルートの場合でも、各県庁所在地から3時間圏内の人口が増加しています。特に現状の交通網が弱い松山市や高知市の変化が顕著です。

新幹線による効果

新幹線開業により、関西圏との結びつきが強くなることが期待されます。これにより、経済発展や観光業の振興に繋がると思われます。
また新幹線という高規格インフラになることで地震や豪雨災害に強くなります。また、ケース①南海道新幹線の場合、山陽新幹線が不通になった際の代替ルートとしても機能します。
新幹線では踏切がなくなり、立体交差(高架橋など)で道路と交わることがなくなるので事故のリスクが減ります。そのため安全性や利便性の向上が期待されます。

他地域の事例

既に整備新幹線として開業している九州新幹線では、熊本関西間で鉄道がそのシェアを約3倍に伸ばしています。

九州新幹線全線開業前後1年間(平22・23年度)における熊本県~関西間の3交通機関輸送実績の推移

新幹線建設のために

(1)新幹線の整備方式

新幹線はJRが作るのではなく、(独)鉄道建設・運輸施設整備支援機構によって、建設・保有されます。
建設費用は貸付料を除いた残りの2/3を国が、1/3を自治体が負担します。貸付料は簡単に言えば線路の使用料で、JRが受益の範囲内でリース料として支払うものです。

新幹線建設スキーム


(2)今後の取り組み

四国に新幹線を作るためには、整備新幹線への格上げを目指さなければなりません。
そのためには地元の機運醸成、国への粘り強い要望活動が必要です。

考察

交流圏の拡大、災害対策という2つの目標を達成するためには四国に新幹線が必要だと考えます。よく在来線の改良、高速化が先だという声を聞きますが在来線の改良には限界が来ています。これ以上の高速化には新幹線しかないでしょう。

繰り返しになりますが目標は交流圏の拡大、災害への備えです。であれば、最も望ましいのはケース①南海道新幹線と言えるでしょう。費用が一番かかる海峡部を単線にして費用を削減し、関空を経由したり山陽新幹線の代替性などを便益としてB/Cに入れられないものかと思います。徳島からしたら、関西への最短経路はこのケース①になります。

ケース③十字ルートでは四国の各県庁所在地と関西を結ぶことで交流人口を増やすことができるでしょう。ケース①でも③でも松山や高知から関西への所要時間は変わりません。

調査概要では建設単価が気になりました。一般区間で50 億円/kmとありますが流石に安すぎます。現在工事中の北陸新幹線や西九州新幹線を参考にすると、70 ~100億円かかると考える必要があります。そうなるとケース③でもB/Cが1を超えるか雲行きが怪しくなってきます。そのため単線新幹線を導入して費用を抑えようようという考えもあるようです。高知方面など需要が限られる場所に取り入れてもよいのではないかと思います。

新幹線建設では必ず政治的なしがらみが出てきます。西九州新幹線の佐賀県問題は記憶に新しいかと思います。ただでさえハードルが高い新幹線建設です。自治体間で内輪揉めしていたらますます実現から遠のいてしまいます。そういう意味ではケース③は政治的なバランスが取れているかもしれません。しかし、既に新幹線が開業している岡山県がどういう顔色をするのかは不明です。

ケース③をもとにした四国各県の路線長と費用を独自に算出してみました。自治体負担は交付税措置を考慮した実負担(15 %)で計算しています。香川県の費用が意外とかかるのには驚きました。

四国各県の路線長と費用(ケース③)

最後に、この調査結果は他の新幹線を考慮に入れているのか疑問に思いました。例えば東九州新幹線や北陸新幹線の新大阪延伸です。徳島からの交流圏の変化を見る限り、入ってはなさそうですね。これらを考慮に入れたら調査結果も変わってくると思います。

感想

四国新幹線の調査結果についてまとめましたが、疲れましたね(汗)。本当はもっと色々書きたかったのですが、あれこれ入れるととりとめのない文章になりそうだったので、あくまでもパンフレットに即したことを中心に書きました。
この調査結果ですが、正直情報量が少ないなと思いましたが意外と読み込むのに時間がかかりました。
四国新幹線に関してはその必要性やルートについてネット上で様々な意見が飛び交っています。私自身、明確にいいと思うルートがあるわけではありません。ただ大事なのは関心を持つことだと思います。
もしこの記事で四国新幹線に興味を持っていただけたなら、期成会のホームページからより詳しく調べてみてください。
ご覧になって頂きありがとうございました。

瀬戸内少年Twitter:https://twitter.com/Setouchishin123

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