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裏側世界/第二話
(※この物語はフィクションです。ライターのセトセイラが送る小説です。)
第一話はこちらから。
「私さ・・・彼氏できたんだよね」
そう口にしたゆうこは、さも何でもないようなテンションでアイスコーヒーをストローですすった。
「え?マジ?」
私と怜美は目を丸くして声をハモらせた。
ゆうこは三児の母。
世間一般的に見れば、ゆうこの家庭は憧れそのものだった。
旦那さんは経営者で、ゆうこ自身も子供3人の面倒を見ながら今年ネイルサロンをオープンさせた。
子供を言い訳にせず、いつも新しい事に挑戦をし続けている。
私は、昨日人生で初めて既婚者の恋人ができたばかりだったので内心バレたのかと思い冷や汗をかいた。
しかし・・・なぜ、ゆうこは彼氏を・・・?
「なんか、けっこうどっぷり好きになっちゃってさ・・・」
「それは不味いんじゃない・・・?どういう経緯でそうなったの?」
「うちの旦那がさ、浮気してたんだよね。携帯見たら、がっつり若い女とのハメ撮りが入っててさ。」
「えええええええ」
またしても、私と怜美は声をハモらせた。
私なら、そんなものを発見してしまった日には人間不信に成り兼ねない。
「旦那を問い詰めたんだけど、そしたら開き直りやがって「俺ちゃんと既婚者だって相手に言ってるし、心は浮気してないよ?」って」
「最低っ!!」
怜美が声に怒りを乗せて発した。
「それは・・・酷すぎるね・・・。離婚は考えなかったの?」
「子供もまだ小さいし、正直はらわたが煮えくり返るような気持ちだったけれど、離婚の勇気はなくてさ・・・」
「でも、そんなんじゃ一緒にいられなくない?」
もしも自分の身にそんなことが起きたら、と考えると怖すぎて耐えられない。
やっぱり、男って皆そういう感じなんだな・・・。
私は、そう噛み締めずにはいられなかった。
「子供がいなければ、離婚してたよ。・・・でも、だからネイルサロン経営やろうと思ったんだよね。旦那と離婚するために、子供3人養えるくらい私も稼ぎたいと思ってさ。」
「そういうことだったんだね・・・ってことは、旦那さんの浮気はちょっと前の話なんだ?」
「まぁね、1年くらい前かな。今の彼氏は、そんな私をずっと支えてくれた人なの。旦那も好き放題やってるから、私ももういいやぁ~ってなったらすごく気持ちが楽になった。」
「そうだね・・・。そんな話を聞いちゃうと、不倫は駄目!なんて言葉言えないよ・・・。2人は?最近なんか変わりはあった?」
すると、怜美がすかさず口を開いた。
「実はね、私も・・・好きな人ができたの。」
「えええ!?」
今度は、私とゆうこで声をハモらせた。
「何何!?どこの誰!?ってか、旦那とはうまくいってないの!?」
ゆうこは、同志よ!!とばかりに目を輝かせている。
そう、怜美も既婚者であり、2児の母だ。
2人とは久々に会ったのだが、いつも2人の近況はFacebookで幸せそうな家族行事の数々を見ていたので私は頭が追い付かなかった。
え??え???人ってこんなに表と裏って違うものなの???
「うちのお店のお客さんだった人でさ・・・」
怜美は、旦那さんと一緒に小さな定食屋を運営している。
・・・ということは、旦那さんも知ってる人と・・・?
「旦那とは相変わらず問題はないんだけど、元々お見合い結婚だったのもあって男というよりも、今は仕事仲間って感じなんだよね・・・」
「セックスレスなんだ?」
「うううん・・・。旦那は性欲が強くて毎日のように求めてくる・・・。でも、私はどうしても乗り気になれなくていつも我慢してしてるんだよね・・・。回数重ねれば、旦那を男として見れるかなとも思っていたんだけれどそうでもなくて・・・。」
お見合い結婚って、そうなる場合もあるんだ・・・。
「で、その好きな人とは・・・?まだ何もないの?」
ゆうこは相変わらず前のめりで続きをせがんだ。
「・・・付き合ってはない。けど・・・」
「けど?」
「口でした・・・」
「ええええええええ!?」
私とゆうこの声が店内に響き渡った。
「しっ~!!しっ~~~~!!」
怜美は慌てた。
「ごめんごめん・・・!・・・それにしても、相手も満更でもないってことだよね。口でするって・・・」
「私こんなに人を好きになったことないかも・・・。毎日が、彼のことばかり考えてしまって・・・。どうしよう、私最低・・・。」
普通に話を聞いている分には、純愛だ。
しかし、人妻であり子供がいるとなれば話は別だ。
しかし、好きになるのは理屈じゃないということだろうか。
「怜美、今なら引き返せる。子供まだ小さいんだから、しっかりしなよお母さんなんだから!」
「そ・・・そうだよね・・・。」
私は気付くと、少し強めの口調で怜美にそう言い放っていた。
私は、『男は皆浮気をするキモチワルイ生き物』だと思って高校生の頃から生きてきた。
しかし、実は、男もそうであるように女にも裏側の世界がある事など認めたくなかったのかもしれない。
・・・
・・・・・・
「で、桜は?なんか浮いた話はないの~?」
場の空気を換えようと気を利かせたゆうこが、私に話題を振ってきた。
「桜はうちらの中じゃ、1人だけ独身なんだからなんかあるでしょ~?」
ゆうこはにやにやとしている。
私ははっと、我に返った。
そうだ。私も・・・不倫してたんだ。
「何もないよ。私は、1人が一番気楽だからな~」
咄嗟にそう答えた。
私の裏側にも世界が広がっていた。