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死と生の間に生きる 2


 今回は前回ちょこっと出て来た少年視点です。後半はまたカノン視点に戻ります。





 教室で一人、進路希望表を書けずに眺めていた。
 特に何かしたいことがあるわけではない。
かと言って、大学へ進学しないと仕事の選択が狭まる。
 やりたい職種もなく、今すぐ働くのは嫌だった。
 大学生活というのはある種の延命処置でしかない。
 提出期限はまだある、それまでに適当に見繕えばいい。
 くしゃくしゃの進路希望表を机に放り込み、下校する。
 窓を見渡すと、雨が降っていた。
今朝は晴れていたが、音を立てて降り注いでいる。
 学校から家までは徒歩15分、傘を持ってきてもらうよう頼もうか。
スマホを取り出し、母親にかける。
 呼び出し音が鳴り響くが、一向に出てはくれなかった。
恐らく、弟の塾の送り迎えをしているのだろう。
 何事に器用にこなす弟に母は溺愛している。  対して、こなせなかった僕には愛も時間も割かないで、物と金だけ与えている。
弟が産まれてからは誕生日も体育祭、文化祭、などの行事には必ず来なかった。
 意を決して、雨が降り止まない外へ走りだす。濡れた前髪を上げ、水を含んだ制服はおもりのように重たく走りにくい。
 雨宿りに遠回りになるが、潰れたシャッター街を立ち寄ることにした。
数十年前からシャッター街で、立ち寄った事はないが、雨宿りにはちょうどいいかもしれない。
シャッターは落書きされており、野良猫がたむろしている。
キョロキョロしながら奥へ進むと、横道逸れたところから人の声が聞こえた。
 面白半分で声を目指して歩くと、行き止まりに向かって、声の主が入っていく。
完全に消える前に背後からこっそり近づき、気づかれないように行き止まりに向かって着いていった。
 不思議と行き止まりにぶつかることなく、見知らぬ土地に足を踏み入れていた。
僕の知らない言語が行き交っている。
びっくりして尻餅を着いていると、妖怪のような人ではない何かが話しかける。

「オナチスオド?」

 何を言っているのかわからないが、心配している事だけはわかる。

「えっと、大丈夫です…?」

 汚れを払い、立ち上がると話しかけきた人物は続けて言う。

「オギアマ?」

 やはり、何を言っているのかわからない。
辺りを見渡すとシャッター街とは異なる商店街だった。
 通行人が僕に気がついたのか、話しかけてくる。

「ニイニじゃないか?その子は誰だ?」

 聞い馴染みのある言語を話す通行人はさっき話しかけてくれた人物に向かって『ニイニ』と呼んでいた。

「オギアマ!」

「そうか、迷子か!」

『オギアマ』と言うのはここの言語で『迷子』を意味する言葉らしい。

「坊ちゃん、来てもらえるか?」

通行人は体格もあるせいなのか、威圧感が凄まじい。何も言えずに立ち尽くす僕を見て、慌てて言う。

「あぁ、ごめんよ。
俺ちゃんは百目鬼。坊ちゃん、名は?」

察してくれたのか和ませようと自己紹介してくれた。

「誠……。日比谷 誠」

「良い名前だな、誠。さぁ、こっちだ」

 百目鬼は僕の手を引っ張り、先導する。
合理的な人だけど、慕われているのか、すれ違う人に話しかけられていた。
 目的地に着いたのか、引き戸を音を立てて開けた。中には書類整理をしていたショートカットの女性が居た。
女性の頭には輪っかのようなものが複数浮いていた。

「イアサニレアコ」

「おう!ただいま。生者居たから連れてきた」

女性は驚きつつ、慌てて、引き出しからコールセンターで使われているようなマイク付きヘッドホンを付けた。

「コホン。初めまして、コガです。
こちらの書類に記入をお願いします」

 机の引き出しから一枚の紙を取り出した。
紙には名前、年齢、住所、家族構成を記入する欄があった。
言われるがままに書いたが、わからない点がある。
 それは『身体』か『魂』のどちらかに丸をする欄があることだ。
コガは書類を受け取ると、『身体』の方に丸をつけた。

「百目鬼〜、
カノンさん呼んできてもらえる?」

「もちのロンよ!」

 百目鬼は僕を置き去りにして、誰かを呼びにいった。挙動不審な僕を見かけて、コガは話しかける。

「日比谷くんはさ、ここに来る前に何か変なの見たり触ったりした?」

 ここに来るまでのことを思い出す。
知らない言語を喋る住民、妖怪のような鬼や狐などが暮らしている土地。
来てからの出来事が印象的すぎて思い出せない。しかし、一つだけある。

「シャッター街の行き止まりに人が居て、
着いてきたらここにいた」

「ふーん、なるほどね」

コガは心当たりがあるような口振りだった。

   ◇◇◇

 商店街を抜け、木造建築が立ち並び住宅街を通り抜けする。
迷子は言いつけを守り、喋らずに黙って着いてきてくれている。
住宅街を通り抜けすると、竹藪の小道へと出た。

「もう、喋ってもよろしいですよ。我慢させてすいませんでした」

迷子は水を得た魚の如く、質問攻めをする。

「質問は3つ。
1つは言語が異なっているのか。
もう1つは住民に勘付かれてはダメなのか。
最後に書いた書類に『身体』と『魂』欄があたっが何を表すのか」

質問してくる内容は大体の予想通りだった。
竹藪の小道をずんずん進みながら答える。

「1つ目はさっきも言った通り、ここは
『反転世界』。反転しているものは生死だけではないです」

迷子は何か言いたそうにしていたが、考え込んでいた。
整理がついた頃に返答の続きに答える。

「2つ目は生身の人間が居ることに勘付き、騙して体を乗っ取る可能性があるからです」

小道の砂利を気をつけながら、上へと歩みを続ける。竹の中に筍が生えているのが視界に入った。
迷子はまたもや疑問点が増えたようで考えていた。

「3つ目は魂だけが迷い込むパターンか身体毎迷い込んだパターンがあるからです」

他の返答よりも納得していた。
小道を抜けると傾斜がある、階段へたどり着いた。
階段の一段一段はつま先しか乗らないくらいに狭く、登りにくい階段が何十段もある。
一段一段、確実に足を踏み外さないように気をつけながら登る。
足場も不安定なので互いに登り切ることに専念していた。
 登り切った先の鳥居を潜り、地べたに座り込んでいた。

「出口は一つしかないのか?」

迷子は息を切らしながら、吐き捨てるように言い放った。


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