水族館が好き。
加茂水族館と奥泉館長
ズーラシアの村田園長に紹介していただき、大学で何かご一緒できないかと、加茂水族館にご相談に行きました。前から行ってみたかった憧れの場所。クラゲに興味がある方なら、ご存知の方も多いでしょう。
日本海をのぞむ、小さな港町を抜けた場所に、小さな灯台と静かに佇む水族館。緩いカーブを描く白い館は、潜水艦ノーチラス号のようでもあります。
はじめまして!と声をかけてくれた蒼いユニフォームの男性。無精髭、そのメガネの奥に鋭い眼が光る。少しこわい。でも、ニコッと笑うと、あ、情熱大陸のあの方だ!とすぐに分かりました。加茂水族館、奥泉和也館長。その風貌とは裏腹な、笑顔が優しい、とても気さくで温かな方でした。(人のこと言えませんが...。)
お仕事の手をわざわざ止めて、館長は加茂水族館について、本当にたくさんのことを、お話してくださいました。
当初、市設公営で始まった加茂水族館。今では、その独自の水族館の魅せ方、卓越したクラゲの展示によって、小さいながらも世界に誇れる、自立した水族館として、来館者を楽しませてくれています。
「小さいからこそ、独自の魅せ方を。」
例えばシンボルに使われているマークは、創業以前から地元で使われていた木版の図案。まるでこの地に「クラゲ世界一」の水族館ができることを予言していたかのようです。まさに、このシンボルは水産との関係が深い庄内・鶴岡の歴史、風土を大切に展示する館を象徴しています。(クラゲの中に山形の「山」も。)
入ってすぐの場所には、隣接する水産高校専用の展示ゾーンがあります。水産を学ぶ学生たちの、素直で確かな目線。それをより強く魅せるために、館は展示の全てを高校生たちに任せているそうです。
水槽内を、庄内の大海原のように、元気に優雅に泳ぐ魚たち。特別な例外を除いては、館長も船に乗り込み、多くの魚を自ら釣り上げ、飼育しているそうなんです!(網よりも、その方が魚たちが痛まないそうです。)
屋上には庭園が広がります。あえて特別な仕掛けは作らず、自然の草土を盛る。自然の中に佇む場所を各々の感性でゆっくり過ごしてもらうための工夫です。地域やこどもたち、みんなが参加集える場所としても考えているこの場所。定期的に地元の方々のための音楽会も開かれるそうです。いいなあ。(館長はジャズベーシストでもあります!)
怪獣エリアでは、近年アシカの芸をやめました。自然な生態をよく観察するプログラムへ。のんびり、じっくり生態を観る。その方が、なんだか海獣たちと仲良く過ごせた気になります。生体だけでなく、様々な場所の負荷を減らす、素晴らしい魅せ方だと感じました。
ご存知の方も多いと思いますが、クラゲ展示・研究の装置や施設に関しては、加茂水族館が独自に開発をしています。案内していただいたバックヤードは、近未来映画のワンシーンのようです。
そして、写真撮影の可否を館長に問うと「どうぞ、どうぞ。ここは見たい人みんなに見てもらう場所だから。」と。
じつは、加茂水族館ではその多くの情報を開示しており、世界中の施設がそれを学んでいます。そして多くの研究者たちが、そのノウハウを学ぶために、この館を訪れます。柱にはその想いが。研究者の方々って、本当に絵が上手いですよねえ。
そんなこともあり、館長が仕事でパリを訪れた時には、多くの人々から大歓迎を受け、びっくりしたそうです。館長に対するその歓迎ぶりから、クラゲ研究・展示の情報を開示したことにより、恩恵を受けている施設の多さがわかります。
「クラネタリウム」という、小学生のこどもが考えた、かわいい言葉が名称になったクラゲ展示ゾーン。そのクラゲの大展示室の一角には、「どうぞご自由にお弾きください」という案内とともに、一台の古いピアノが無造作に置かれています。
やたらめったらに弾く人はいませんが、
たまに、ポロンポロンと鍵盤の音がします。あえて館内にBGMをかけない、テクノロジーを使った見せ方は極力しない、というのは、自然と音楽を愛する館長のこだわり。この無音の空間に時折、ピアノがアクセントを加えます。誰が弾いているかわからない、インプロヴィゼーション・サウンドが、不思議とクラゲと人の空間的な距離を近づけてくれます。
常にどのように来館者とコミュニケーションをとっていく施設であるべきか。それを大切に考え、水族館を育てていく。「水族館とともに私も成長してきたんだよ。」と最後に語った言葉には、ご自身もその活動の中で磨かれてきたという自負が伺えます。
自然豊かな小さな港の水族館で、日々を楽しみながら「学び」の場づくりをしている姿。本当に深く感銘を受けました。関東からは、少し遠い場所にありますが、今の状況が明るい方に向かった折には、ぜひ訪れてみてください。
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