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ダリとエビと友人

サルバドール・ダリは、しばしばエビを女性器のメタファーにしたそうな。

彼の作品の中でも有名なロブスター電話。

強い。
意味はまったく分からないが、破壊力がすごい。
一度見たら忘れられない作品である。

ダリはロブスターを女性器に見立てて、電話の曲線に性の美しさを見出したのだそうだ。
これを世間は「超現実オブジェ」と称している。

(参考)

超現実オブジェ。
これもまた破壊力の高い言葉だ。

ダリは自分の性のイメージを、芸術的に形に落とし込む天才なのだろう。
芸術は、明確な優劣の基準が無いだけに、そこに価値や金銭が発生するまでが難しい。

なので こうしてパトロンに巡り合い、自分の心の内を吐露し、作品を生み出すことが出来ていたダリは本当の天才の1人だったといえる。



私にはある友人がいる。

天才だった。
彼は、下ネタの 天才だった。

彼は自分の性欲に従って生き、その結果 何も生まないのだが、その生き様そのものが非常に面白いというまさに「生きる芸術」だ。


私が彼の才能を知ったのは、東京行きの夜行バスの中だった。

当時、彼とは仲が良かったが、完全に心を許していた訳ではなかった。
しかし友人に会うため、東京へ向かねばならない。
微妙な空気感のまま、2人きりの夜行バスが始まったのだ。

夜の11時。
バスに乗ったら、すぐに寝てしまおう。
そう考えていた私。
彼は、唐突に喋りかけてきた。



「手コキカラオケ…してみたいよな…」



思わず耳を疑った。
意味がわからない。

東京行きの、ディズニーランドに行く他の学生達の乗っている、夜行バスの中で。
微妙な心の距離感の、異性に対して。
少なくともサラッと出てくる言葉ではない。

突拍子もなさに笑ってしまう私。

「…どういう事なん」

「いや、人生の経験として。手コキカラオケしてみたいよな…って…」

ちょっと笑ってしまった自分に腹がたつ。
真剣に言うな そんな事。

これを真顔で言える人物なのだ、彼は。

夜という事もあり、そこからお互いに変なスイッチが入ってしまい、ずっっっっと性に関する話題をし続けた。


「しえとみ、淫語の隠語を作ろう」

彼のちょっと笑った顔。
それがニヤけるとかでは無い、「この話が出来て本当に楽しい」という純粋な笑い顔なのだ。

「…どういうこと?」
「例えば、覗きってあるやん」
「あー女風呂とか」
「そう!それを…別の言葉に言い換えるねん」

彼の真剣な表情。
私も、彼の真似をして顎に手をあて考える。
薄暗い夜行バスの中。
夜中の11時。

「…岩倉使節団…とか、」

私の言葉に眉を垂れ下げ、不可解な顔をする彼。

「え、どういう事?」
「いやだから、他国の文化をさ、探るために」
「航海が困難な時代に」
「そう、見に行ったわけやん」
「覗き見してたって事か」
「そう、岩倉…使節団…」

あまりのバカさに2人で腹を抱えて笑った。
席を後ろから蹴っ飛ばされた。

とにかく彼はその後も性に奔放に、どこか婉曲に表現をしながら、私に喋りかけ続けた。
残念ながら詳しくは書けない。
(あまりにもアホな言葉だらけだから)

私はその夜、確かに溢れ出る才能をみたのだ。
下ネタの天才。




そんな彼は、先日 風俗嬢に恋をし、10万円を溶かした。


一歩、違う道を歩いていたら
彼もダリになっていただろうに。


誠に遺憾である。




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