舞鶴紀行　2023年12月8日

1.はじめに

JR東舞鶴駅前から路線バスで海岸線を15分走ると、標高50メートルほどの小高い丘陵の上に「舞鶴引揚記念館」が見えてくる。
舞鶴引揚記念館は、1988年に舞鶴市が引揚記念公園内に設立した引揚とシベリア抑留を展示する博物館だ。2015年には、所蔵資料のうち「舞鶴への生還1945-1956 シベリア抑留等日本人の本国への引き揚げの記録」と題された570点が「ユネスコ世界記憶遺産」に登録された。

舞鶴引揚記念館　外観

展望台からの眺望　舞鶴クレインブリッジがよく見える

2.そもそも引揚とは

1945年、太平洋戦争終戦とともに大日本帝国が崩壊したことによって、これまで獲得してきた植民地と占領地にいた民間人は、日本国の領域に引揚げざるを得なくなった。その総数は、民間人だけで330万人以上になることが予想された（軍民あわせると当時の総人口の1割近くを占める約700万人）。
敗戦時の日本において、これだけ多くの人々が短期的に引揚げた場合、深刻な食糧不足や非農業人口の増加などの問題が起こることが懸念された。また、輸送のための船舶不足や機雷による港湾封鎖の影響もあり、日本政府は当初、引き続き現地定着させることを基本方針としていた。
しかし、中国、ソ連、アメリカの三国を中心とした国際政治や内政の事情によって、結果的には米国主導の引揚が1945年10月から始まった※1。

※1「具体的には、イデオロギー対立である米ソ冷戦が南北朝鮮や南樺太からの引揚、または同じイデオロギー内部での対立である中ソ対立が大連からの引揚、中国の正当性をめぐる国共対立をめぐる国際政治の複雑さが満洲や中国本土・台湾からの引揚に影響を及ぼした」

加藤聖文『海外引揚の研究　忘却された「大日本帝国」』p2

引揚者数は翌1946年にピークを迎えた。全国17箇所に設置された引揚港では、多い月で60万人以上の引揚者を受け入れた。結局、終戦からわずか1年半ほどで大半の日本人の引揚は完了した。ただし、ソ連軍侵攻による戦禍や飢餓などによって30万人の民間人が死亡（東京大空襲や沖縄戦、原爆の死者数よりも多い）した他、シベリア抑留や残留孤児などの問題が起こった。

図1 引揚港と受入人数　※受入業務をおこなった引揚港のみ記載