【エッセイ】ホスト時代の苦難を話そう
まえがき
こんにちは、元ホスト・塾講師・現役理科大生のセト先生と申す者でございます。
私はブランディング上、明るい人間で裏も表もない。
人の悪口は絶対に言わない。
誰にも話せない、どこにも発信できないで溜まった毒は一度胸の奥に押し殺し、毎日通うサウナで汗と共に流すのが日課だ。
人に見られる仕事をしていなかったとしても同じくこうしていただろう。
私は昨日からNoteの執筆を始めた。
匿名ではないが、この様な知り合いも誰もいない新しい発信媒体は私に新しい自由を与えてくれる。
転校したての学校で新しい自分を作りあげるような感覚だ。
今回はずっと言いたかったけれど、言えなかった話をしたい。
本編
ホストは集客のため出勤する前にお客様とご飯や外で遊んだ後に一緒にお店に出勤することがある(これを業界用語で同伴と言う)
私は17時過ぎまで大学に通い、夜ホストで働く生活をしていたため、基本的には土日以外は同伴することができない。
そのため自分の顧客(業界用語で指名客)に同伴の希少価値を認識してもらうために
「基本的には同伴はしない。直接会いに来てほしい」
と言う事を伝えていた。
ホストに通う顧客は独占欲が強い子が多く、この様に予め希少性を示した後に自分がそれを与えられると特別感を抱く。
ただし、それが自分にだけの特別なものでないと知った時、彼女らは激情する。
そんなある日、私は自分の顧客の一人のMちゃんと同伴で食事をして出勤した。
Mちゃんは21歳、職業風俗嬢、かなり独占欲の強く、承認欲求が人より強い子だ。
先述の通り私はあらかじめ顧客には「同伴はできない。」と宣言しているだけあり、
同伴を組む日は指名客とバッティングしないよう細心の注意を払っている。
その翌日、ホストの晒しや不利益な情報を書き込む匿名掲示板(通称ホスラブ)に
「セトおばさんと同伴してきて草」
と言う書き込みがあった。
普通なら同じ人間を指名している指名客同士で潰し合いが起こる掲示板だが、
確実にそれ以外の所(他の人を指名しているお客様か他の従業員)からの攻撃だと推測できた。
人に好かれるよりも敵を作らない立ち回りをしていた私からすると少しショックではあった。
その書き込みがあった後、私の指名客たちからは特に何も言われることはなかった。
しかし、Mちゃんは違った。
Mちゃん「お前おばさんとなんか同伴してるの?www
他では同伴ではしてないよって言ったじゃん!!!」
彼女は激情していた。
きっと彼女の中では私との同伴は特別なものだったのだろう。
匿名掲示板は事実無根でソースがないしても、
彼女の様な踊らされやすいタイプの人の感情を揺さぶるほどの力を持ってしまっている。
弁解しようとも考えた。
ただ、私は何も言えなかった。
同伴なんてたかが一緒に食事に行く程度のことだが、
彼女にとっての同伴は自分が高い金額を払ってホストクラブに通う理由の一つであり、
その特別感が私にお金を払う価値だったのだろう。
ただ、そんな彼女が激情し、声を荒げている中、
私は黙ってそれを聞き、
何度も何度もこれを言おうか頭によぎっていた。
「直近1ヶ月、君としか同伴していない。」
言えなかった。
何故かと言うと、これを言う事でおばさん=Mちゃんと言う事を遠回しに言っているようなものだ。
Mちゃんは当時21歳。
おばさんではない。
しかし、私の当時のお客様は平均20代前半で一番上も30歳であり、
その最年長のお客様は30には見えないほど美人だ。
どう考えても私の顧客に「おばさん」とカテゴライズされるような人はいない。
彼女は先述の通りとにかく承認欲求が高い。
ホストクラブはそんな承認欲求を満たす場所として需要があり、高い料金をいただくサービスでもある。
容姿や年齢など関係なくお客様はディズニープリンセスの様に扱う。
指名のお客様は「客」ではなく「姫」と業界では言うくらいだ。
承認欲求を満たすためには
「可愛い!」
「そういうところ好き」
「あなたが一番」
など相手が欲しがる甘い言葉もかける。
とにかくホストクラブにいる間は「客」ではなく「姫」なのだ。
彼女はよく私に
「この前風俗のお客さんに童顔だねって言われた」
と言うエピソードを嬉し気に話す。
仕事ができるホストはこれを聞いたらお客様の欲しい言葉リストに
・童顔だね
を入れる。
だから私は会話の中でさりげなく「童顔」だと伝えてあげていた。
私はホストとしてお姫様に遠回しにでも傷つける可能性が1ミリでもある言葉は言えない。
だから他の人と同伴はしていない。と弁解できなかったのだ。
そしてMちゃんは次の月から私を指名することはなくなった。
最近ホストクラブは「売掛」と言うつけ払いシステムが問題になり、政府が介入するほど問題になっている。
無理やり売掛を作らせ自分の売上を上げようとする悪質のホストが一定数いるからだ。
ただ、この売掛と言うシステムは必ずしもホスト側が得するシステムではない。
このシステムの存在から持ち金はないが遊びに行きたいと言うお客様の都合で使われる方が割合として圧倒的に多い。
Mちゃんは84000円売掛を残し私が業界を引退するまで払いに来ることはなかった。
一応売掛金が残っている旨の連絡はしたが、身に覚えがないとすっとぼけられた。
店の記録として未入金だと証明できたとしても、借用書を書いてもらわないとホスト側がこれを被り泣き寝入りするしかないのだ。
私もこれを言われては彼女に請求することはできない。
ホストと言うハイリターンな仕事をする上でのリスクであり勉強代として受け入れた。
この記事を発信と共に君の記憶は忘れようと思う。
ただ、最後に言わせてほしい。