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夜にしがみついて、朝で溶かして

ライナーノーツ
初めてライナーノーツを書いたのは、これもまたクリープハイプの企画。「世界観」のアルバムが出た時だった。

正直その時の熱量には敵わないと思うけれど、今の距離感で今だからこそ書けるわたしのライナーノーツ。

1 料理
素朴なタイトルが目立つ今回のアルバム。
わたしの頭の中には男女が一緒に暮らすアパートの一室Theクリープハイプ、が浮かぶ。
一緒にいることも慣れてきて、おはようからおやすみまですこやかな生活をおくることさえ穏やかじゃない今日この頃をいかがお過ごしでしょう。皮肉っぽくも軽いテンションが小気味いい。
じっくりコトコト煮込んだカレーライスのカレーとライスの比率が違っても、お腹が膨れたらそれでいいじゃないかって思えるそんな二人の関係性が垣間見える曲だなって思う。どうせ同棲するなら酸いも甘いも噛み分けてお腹を満たしていこう。
アウトロのギターが何より好き。手拍子をライブで出来たらきっと楽しい。

2 ポリコ
ポリコについては詳しく知らないけれど、わたしのなかのポリコはアラサーの意地だったり幼心とでもいうだろうか。

最近どう まぁ別に普通

を何年繰り返してきたんだろう。ポリコは法定速度なのにわたしといえば生き急いだり、乗り遅れたり。
優しくされたいだけなのにね!
バンドマンが色褪せないように、ファンであるわたしもまだまだ現役でいさせて。

3 二人の間
イントロから心拍があがっていく。あ、ちょっと、こそばゆい。思いついた気持ちをまさにそのままで、そのままで連ねて。
時にテーブルを挟んで座ってる脳内内股気味の男の子とそれをまっすぐ見つめてる強気な女の子が見えるし、マイクを挟んで立っている同じ方向を見た2人も見える。
色んな距離感があるけど、それが二人の愛だ。

4 四季
この曲を聞くと、わたしにも淡い四季があったなあなんて思いつつ今は駅のホームでカラフルなベンチに腰かけてぽけっとしてるっていう情景が浮かぶんです。
ふと、ふと思い出すことは美化されてることが多いのかもしれないけど、都合よく着色したり、ほんのりピンクに染まってたり。思わずちょっとニヤけるような、そんな曲。通勤中にイヤホンで聴いてたら思わず遅刻しちゃいそう!

5 愛す
すごくストレート。回りくどいブスの連呼さえ愛。大好きだからこそすれ違うなんてこと、あってたまるかって思うけど、実際はこんな″愛す″しかないんじゃないかなとも思う。
時間通りにバスは出るし、月はいつも変わらず空にあるのに。曲調からもごめんね、が聞こえてきそう。くすんだピンク色を纏った曲。

6しょうもな
馬鹿だなってよく使うけど、って言われて思い出される曲は「自分のことばかりで情けなくなるよ」とか「明日はどっちだ」とか「ウワノソラ」とか。他にも馬鹿を歌った曲はクリープハイプでは確かに多い。でもその中のどの曲より″てめー″である貴方に向けた強烈なメッセージソングなんじゃないだろうか。
イライラするよりキラキラしてたかったあの頃からずっと今に続いてるクリープハイプなりの伝え方がもういっそ清々しい。どこまで言葉遊びが隠れているの。それを見つけたり知れたりすることはファンとしてはたまらない瞬間でもある。
しょうもなって言いながらもしっかり意味ないこの音の連続に言葉をのせるクリープハイプの言葉遊びにはいい意味でいつも足元と気持ちをすくわれる。

7 一生に一度愛してるよ
すっごく冷静な分析をしてこられて、タジタジ。これはわたしなのかもしれない。これを自惚れと言ったら袋叩きにあうけど。この曲を聴いて、わたしは15曲のライナーノーツを書こうと決めた。

もうあの頃には戻れないんだね

わたしがあなたのバンドにずぶずぶになっていた頃、毎日軌道修正の日々で嫌なことしんどいことから少しでも前に、上に。そうして今があるわけで。わたしが変わるのと同じようにバンドだって変わっていくんだし、変わらないことを求めることはナンセンスじゃない?
でもわたしはあの頃の自分も嫌いじゃない。
「あなたがいたからコウキに出逢えたのよ」って胸張って言えちゃうの。
バンドと恋人が逆だったらな、ってそれはほんとうに思う。違う意味でもわたしの心臓はバクバクです。これだからクリープハイプが好きなのです。

8 ニガツノナミダ
30秒。聴いているだけで短いスカートはいて走り出したくなる。途中で早くなるテンポに置いていかれないようにして聴いてたらいつの間にか終わってた、みたいな感じ。一気に脳内女子高生トリップ。
いつまでも仕舞っておけない感情を縛りきれてない、若さが愛おしい。
そうこうしていたらパツンと画面が切り替わって「テレビサイズ」が終わった。気持ちよくまとめて貰ったんでボロが出る前に間奏へ。裏切らないなぁ。

9 ナイトオンザプラネット
最初の1音目で視界がグラつく。そんなに強くないお酒を1缶と半分くらい飲んだところで あ、ってなるあの感覚に似てる。
日常のちょっとした出来事が、ある人にはある時には切り取られて額縁に入れられるような出来事になる。ある時にそれを見返しても、それにときめかなくなった時の気持ちは夢から覚めたシンデレラのそれと同じだろうか。
聴いていくほどに、効いていくほどに麻痺して浮遊してる感覚。尾崎さんが楽しそうに歌ってる、私も楽しくなる。聴きながらクルクル踊りたくなる、柄じゃないけど。

10 しらす
尾崎世界観が「吐き出す歌」なら、長谷川カオナシは「吸い込まれるような歌」。冒頭に小綺麗なお姉さんの声で「皆の歌」と聴こえてきそうな、まだ明るいけどもうすぐ夕方、っていう切なさを含んでいる。
シュールなテーマながら心に訴えてくるものがある長谷川カオナシの「異世界観」にいつもわたしは吸い込まれるように虜になってしまう。

11 なんか出てきちゃってる
な、なんか出てきちゃってる。
耳がソワソワする。分かって言ってますよね?
飲み屋のガヤガヤした店内で人の声が何重にも重なってるのに、同じテーブルに面を合わせるこの人の声は何故か他をさえぎってクリアに聞こえるみたいな。
カンニングのつもりで歌詞を見たら

偶然ネジが 偶然ネジが 偶然ネジがゆるんじゃって

しか書いてなくて思わず(笑)。
聞こえてるんだけど聞いてるつもりで受け流してたら突然「ねえ聞いてる?」って曲調が変わって聴いてて思わずドキッてなる感覚まで味わえてしまった、この曲が憎らしくて好きだ。かーっ!ずるい。

12 キケンナアソビ
瘡蓋を何度も剥がしてしまうようにグズグズで甘ったるくて冷たい尾崎世界観の曲が心底好きだなって再確認した1曲。

これからも末永くお幸せに ほら火をつけて

なんて衝動的でクソ喰らえ。
良い子でもないのに良い子チャイムにいつまでも縛られてるようなせつない気持ちになる。

13 モノマネ
1曲目の料理を経て、順番に聴き進めていくと、13曲目にしてそれなりの時間経過を感じる。
昨日の話。同棲している彼氏だけど、私がひとりでテレビを観てる隣で寝転がって携帯をいじっていて、何度かわたしが「うわぁ」とか「すごい!」とか大きな声で言ってたまに隣を見ること、あとで彼氏に『(私)は一緒にテレビが見たかったんだね』って言われたの。無意識だったけどそれを言われてああ、そうだったんだなって納得して。
同じことを共有することは、自分が面白いと思うことを真似してみてよ、きっと楽しいよ、っていう独りよがりで勝手な期待なのかもしれないなって思った。そんな独りよがりに気づいてる?って言われたような気がした。

14 幽霊失格

そんな夜を一人で歩いてる

どんな夜を歩いてきましたか?国語のテストで出てきそうな一節から始まる曲。イントロのいかにもなおどろおどろしさは何処へやら、ヒヤッというよりはどこかさっぱりした気持ちになれる。
好きな人ならいつまでも隣にいてもらいたいに決まってる。そんなの、ちっとも怖くないよ、嬉しいんだよ、って素直に地に足着いたふたりが視える可愛い可愛い曲。

15 こんなに悲しいのに腹が鳴る
最後にして昔の自分を思い出す。
数年前のZeppトーキョー。仕事が終わらず開演に間に合わなかったクリープハイプのツアー。

息を切らしてカバンを肩にひっかけたまま入った時に流れてきた「愛の標識」。尾崎世界観が歌う表情が見えるか見えないくらいの後方で、今度は涙で顔が見えなくなるくらいばたばた涙流して聴いてたわたしは自分世紀最大の失恋後だった。
家の犬まで一緒に愛されてると思ってたよ!ってライブアレンジされたメロディラインで歌う尾崎さんを見ながら、ほんとだよって思ってた私だって、ライブ後は腹は減ったし、ご飯は食べたら出るとこから出るし、お腹だって何度も鳴る。

しにたいしにたいしぬほどしにたいときだって。
生きたい生きたい死ぬほど生きたいって思わせてくれる音楽があってわたしは嬉しい。

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実は少し離れてしまっていた今、あらためて触れたクリープハイプの音楽。
わたしのなかのクリープハイプは初めて聴いたあの日からずっと励ましにも慰めにもなってわたしの日々を支えてくれた。
勿論わたしだけの音楽じゃなくて、クリープハイプを好きな人の数だけクリープハイプとの日々があって、その距離感はやっぱり人それぞれ。それぞれの自分とクリープハイプの二人の間、を楽しめるようなアルバムだと思う。

駄筆ながら読んでいただきありがとうございました。

#クリープハイプ #ことばのおべんきょう #ライナーノーツ #夜にしがみついて朝で溶かして

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