制作進行に必要な考え方とアクション(についてのメモ)
「制作進行とはなにをする仕事なのか」という質問を受けた。
少し話を聞くと、質問者は学生で、知り合いから「制作進行を手伝ってほしい」と依頼されたのだという。参加しているのは、いわゆるコンテンツ制作のプロジェクトである。
これは質問者にとって初めての経験で、どのような仕事をすればよいかイメージが浮かばないまま、アシスタント的な立ち位置でMTGに出ているそうだ。依頼者からは「徐々にわかってくればいいよ」とだけ伝えられている。実際にやっていることは議事録の作成や会議のスケジューリングで、ほかのメンバーからの評判も悪くない。
要するに、取り立てて問題はないのである。しかし、質問者には強い向上心があって、可及的速やかにこの仕事を十全にこなせるようになりたい……。
──そんなわけで、以下はこの質問に答える際に書いたメモである。相手があっての内容だから、一般的に役立つかはわからない。ただなんとなく気が向いたので掲載しておく。
メモ
必要な考え方 プロジェクトを前進させる
制作進行の役割は、締切の設定やそのリマインドを通じて、プロジェクトを前に進めていくことである。
──プロジェクトは進まなければ意味がないから。
レベル1 リマインドする
打ち合わせで明確に示された次回の締切や場所・期日について、適切なタイミングでリマインドができる(文例:次回のMTGはいついつ@どこどこです! よろしくお願いします!)。また、オンラインMTGの設定や場所の予約など、次回の打ち合わせに必要な準備ができる。
──大事なことでも忘れてしまう場合があるから。
レベル1.5 さらなるリマインドをする
上記のリマインドが機能していない場合に、粘り強く確認を続けることができる(文例:次回のMTGについて、予定は大丈夫そうでしょうか!)。特に遅刻やすっぽかしの多いメンバーがいる場合に、いっそう注意を払うことができる。
──びっくりするほど忘れっぽい人間もいるから。
レベル2 締切を確認する
MTGで曖昧なままになっている締切や場所・期日に気がつき、それを指摘・確認できる(文例:◯◯については、具体的な締切が必要ですか?)。
──明確でないことは忘れてしまうから。
レベル2.5 締切を設定する
上記の指摘・確認だけではなく、自ら締切を設定・提案できる(文例:◯◯について具体的な締切が必要であれば、いついつあたりがよいかと思います、いかがでしょうか?)。
──明確にすることは人間にとってストレスであるから。
レベル3 少し先の締切を確認する
直近の締切だけではなく、少し先(2週間〜1ヶ月後)の締切について、適切なタイミングで確認できる(文例:次回のMTGで企画を固められれば、月末の締切に間に合いそうですよね?)。
──少し先を意識すると目の前の作業にかんする認識が深まるから。
レベル3.5 全体の締切を確認する
少し先の締切だけではなく、プロジェクト全体の締切について、適切なタイミングで確認できる。(文例:最終的には、9月末までにすべて納品する必要があるんですよね?)
──スケジュール上の致命的な問題がないか事前に察知できるから。
つまずきのポイント 気にしちゃう
締切の設定やそのリマインドの過程で生じる心理的な摩擦感が気になって動けなくなってしまう人が結構いる。具体的には、しつこい・ウザい・迷惑と思われてしまわないかといったようなものだ。
しかし、それは仕事とあまり関係がない。仕事はプロジェクトを前に進めることだからだ。ここはひとつ、自分のことを無慈悲なロボだと思って、割り切ってしまおう。
そうはいっても、気になりすぎて、どうしてもロボになれない人もいるかもしれない。そういう人は、いま起こっている摩擦はあくまで瞬間的なものであると考えよう。人間関係をケアする機会は、後からいくらでもつくれる。
メモに書かれていないこと
改めて読むと、いろいろ足りていないところがある。
雑務をこなす
たとえば、レベル3は難しすぎる。レベル2ですら、プロジェクトの理解度が高くないとできないかも。もし実際にやりながら教えるとしたら、プロジェクトにかんする雑務を、可能な限りたくさんこなしてもらうと思う。質問者の理解度も高まり、お役立ち感も得られる。そうしないと、レベル1からレベル2に移行できないだろう。
……そもそも、スケジュール管理に焦点を当てすぎている気がしてきた。目の前に相手がいたうえで、話をシンプルにするためにやったことだから問題はないし、しょうがないのだけれども。
むしろこの仕事の本質は、先に書いたように、「いろいろこなしてもらう」ところにある気がする。個別の領域に囚われず、誰も拾いきれない細かい仕事をなんでもこなす、それはつまり、プロジェクトを進めるために必要なすべてをやるということ……。
ナイスの重要性
とかなんとか書いていくと、これはこれで大変すぎる雰囲気が出てしまう。ロボみたいに通知を送りまくるだけでも絶対に意味があるわけで──ロボそのものとロボみたいな人間とは別の機能をもつから、考えすぎは厳禁だ。
……人間つながりで言えば、質問者がかなりナイスな人物であることを強調しておくべきである。
というのも、制作進行は「それだけを切り出すと」、コンテンツづくりそのものとはかなり違った性質の業務であって、クリエイターから(本質的な意味で)嫌われてしまう可能性があるからだ。だって、ものづくりをする人で締切が好きな人、それも締切を催促されるのが好きな人なんてほとんどいないだろう。
そこでナイスが重要なのである。あまりにも残酷なことだが、ナイスなコミュニケーションができる人から言われれば、むしろ締切の必要性についてポジティブに感じられるかもしれない──ところで、ナイスについては定義しない、あまり意味がないので。
ナイスを涵養する極小のものづくり
では、ナイスでない人間には制作進行はできないのか、そんなことはない。質問者に立ち返ると、この人は自分でいろいろなイベントをつくったことがあって、いわゆる業務経験とは別に、クリエイターの機微を理解できる素地がある。もともとナイスであるというよりは(そうなのかもしれないが)、ナイスになっていったのだろう。
だからこそ、先に述べたように、「いろいろこなしてもらう」こと、つまり、自分自身が極小のものづくりを重ねていき、コンテンツ制作におけるナイスなコミュニケーションについて肌身をもって実感する必要がある。これは遠いようでいて、一番の近道だと思う。
制作進行から始める
さらに言えば、完全にこのnoteの趣旨を逸脱するけれども、コンテンツ制作の基礎理解を含む業務であるからこそ、制作進行は未経験の人がまず取り組む業務として優れているのである。
もちろん、上手にできるようになればそれだけで仕事として成り立つ場合もある。しかし、それだけではなく、いわゆるディレクションとかプロジェクトマネジメントとか、そういう別の仕事も見えてくるのである──ちなみに、編集という仕事は、その単位が小さいゆえ、これらをすべて内包するところに面白みがある。