魅惑的な毛艶の犬
昼とも夕方とも判別しない時間、軒下にて午睡していると、魅惑的な毛艶の犬が、私の前に現れて、くわぁと欠伸をした。私は寝そべりながら犬ころの毛なみに見惚れていた。犬も庭の木陰に優雅に寝始めた。私はムクっと起き上がって、伏せの姿勢を取っている犬を撫でようとすると、くるるるるるると唸って、私の手を遠ざけた。
私は「おいお前どっから来たんだ」と聞くと犬の奴は「なに西の方から来たのだ」と返事をした。私は犬が口をきいたのに多少驚いたが、まあこれほど毛艶の良い犬なのだから口をきくくらいの芸はどうと言うことなくするのだろう。私は話の通じるのを良いことに
「おい。お手」と言ってやった。すると犬の方は
「失礼な奴だな」と鼻でスンと笑った。
「犬なんだからお手くらい良いだろう」
「知らぬ人にお手はあげられないね。それよりも飯を分けてくれないか。私は腹が減っている。もしも飯をくれるなら、お手の一つも考えてやろう」と犬の奴は持ちかけてきた。それならばと台所に行って昨日の残飯の冷飯と味噌汁を一つのお椀にぐちゃぐちゃにかき混ぜて、犬のところに持っていった。すると犬めは美味い美味いと言ってガツガツ飯を平らげた。その犬は、私の半分くらいの大きさの、犬にしては大柄な奴だったから、その程度の量で足りるのかと思ったが、お椀の中身をすっかり食べ終わってみると、どうやら満足した顔をしているから、まあ、この量で良かったんだろう。私は犬が食べ終わって満足しているところを見ると、「どれそろそろお手をしてくれ」と持ちかけて、犬の前に手を出した。すると犬は
「全くお手がそんなに良いのかね」と言ってスッと右前足を私の手のひらの上に置いた。私は満足した。
すると魅惑的な毛艶の犬は目の前から消えた。私も家の中に引っ込んだ。
次の日、家の玄関の前にたくさんの金銀財宝が置かれていた。私は犬からの御礼だろうと思って、その金銀財宝を貧しい人々に分け与えた。