かんたら・あみんの夢
川の底に、光がやっとさしてきた。上をみあげると、そら、松の木のくねくね曲がったのが、水の複雑な流れに合わせて、うねうね水草のように、踊っている。
蟹たちは、たのしそうに、岩についた苔を、その腕の鋏で、ちょきちょき切って、遊んでいる。切られた苔たちは、水面にぷかぷか浮き上がって、それから、太陽のやさしい光に当たって、宝石に姿をかえて、ゆったりした川の、遅々とした流れに乗って、下流へ、下流へと、降っていく。その様を、蟹たちは、「きれいだな。きれいだな。」と言って見上げ眺めている。
ルビーの苔、サファイアの苔、虎目石の苔、虹石の苔の、ゆっくりゆっくりみみずの這うように水面を流れ降っていくのは、蟹たちにとって、夢のような、幻想のような、うつくしさだった。それらを見上げ眺めては、蟹たちは「きれいだな。きれいだな。」と言って泣いている。
しかし、ぷくぷく蟹のスタアジェンは、ひとりぼっちで、川草の、ふかく生いしげっているところに、身をかくして、うとうとしていた。みんなが遊んでいても、ぷくぷく蟹のスタアジェンは、夢のなかにいた。
その夢の中で、ぷくぷく蟹のスタアジェンは、口から、泡をぷくぷくやった。
すると泡のひとつに命があたえられた。そのあぶくの名前を、かんたら・あみんと言う。
かんたら・あみんは、ぷくぷく蟹のスタアジェンに話しかけた。
「どうしてきみはひとりなの?」
「ねむっているからさ」
「どうしてぼくもひとりなの?」
「ねむっているからさ」
「じゃあここは夢のなかなの?」
「ここは俺っちの夢のなかさ」
「じゃあぼくは、きみの夢なの?」
「きみはきみの夢のなかさ」
かんたら・あみんは、急にさみしくなって、ここは、蟹の夢なのか、ぼくの夢なのか、たしかめたくなって、川の底から、水面にあがって、ゆっくりゆっくり、上流から下流へと、蟹どもの切り刻んだ苔にまざって、降って行くのだった。