90歳に学ぶ未来のライフスタイルのこと
今、90歳ヒアリングが熱い。
90歳ヒアリングとは、戦前の暮らしを知る90歳前後のお爺ちゃんお婆ちゃんに当時の生活の様子を聞いて、長い年月の中で培われてきた、自然と共に限られた資源で心豊かに暮らす方法(ライフスタイル)をデザインするというものだ。
この手法を用いたまちづくり・事業デザインは東京都市大学環境学部の古川柳蔵教授らによって開発され、兵庫県豊岡市や岩手県北上市等で用いられている。
僕らは、多様なプレイヤーと連携しながら、秋田県湯沢市でこの90歳ヒアリングの手法を用いたまちづくりプロジェクトに取り組み始めている。行政や大企業、教育・研究機関が関わるこのプロジェクトの規模やインパクトは決して小さくない。
「持続可能性(sustainability)」という言葉が最近よく使われるようになった。地球が人間にとって安全な場所であり続けるためには、今と同じような暮らしや生産・消費活動を継続することはできないということに皆が気付き始めているからだ。
2050年は今より環境制約条件が厳しくなり、将来の社会状況も大きく変化することが想定される。気候変動の影響も今以上に深刻になる。仮に自然エネルギー分野でのイノベーションが想定以上に進んだとしても、化石燃料の使用は今より確実に制限されるし、「経済成長のためなら環境や社会に悪影響を与えてもよい」という価値観は絶対に通じなくなる。
2050年の制約下で心豊かに暮らすにはどうすれば良いのか?
そこで役に立つのが、失われつつある90歳の古の知恵だ。
湯沢市各地で90歳へのヒアリングを数件実施していて分かるのだけれども、大先輩方が持つ価値観は僕らのそれとかなり異なっている。
自然に必要以上に負荷をかけない。
モノが限られているから最後まで工夫して使う。
自然は身近で、コミュニティはふくよかだった。
他者に関心を持ち、与え、支え、助け合うことが当たり前。
大先輩方が生きた時代は決して理想郷ではないけれども、僕らとは異なる豊かさの指標があったし、学ぶべき教訓がたくさん散りばめられている。
中には爆笑を誘うような話もあるし、言葉にならないような悲しみを連想させるようなエピソードにも出会う。大先輩方の人生が順風満帆でなかったことは容易に想像できる。
僕らは、そんな先輩方の知恵に学び、今は評価されなくても2050年の未来では輝く価値を見つけ、新しい、そして粋なライフスタイルをデザインしていく。
「湯沢市」と一言で言うけれど、遡ってみれば、合併する前の四市町村には個性があったし、さらに昔の小さな行政区にはもっと際立ったライフスタイルの違いがあった。
山に入る人、入らない人。
がっこ(漬物)をいぶす人、いぶさない人。
学校に通うのに毎日草履を履きつぶす人、日常的に下駄を履いていた人。
湯沢市の中に色んな地域があって、色んな人がいる。
もちろん、共通する要素もたくさんあるのだけれども、そういったことを掘り起こしていくのがとても面白い。
発見があり過ぎて大変なくらいだ。
こんなエモいことを仕事としてやれるのは本当に幸せなことだと思う。縁を繋いでくれた人、そして話をしてくれた一人一人、コーディネートしてくれる人、ヒアリングした内容を文字に起こしてくれる人、皆に感謝している。
次はどんな面白い話が聞けるだろう。
優れた本を読むのに勝るとも劣らない学びがそこにはある。
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