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満州からの手紙#158【追憶の記】幼い頃の思い出より

お母さん
私の幼い頃の思い出を
覚えているだけ
このノートに書き留めておきます。

満州からの手紙#158「お正月元旦の日」

楽しいお正月元旦の日でした。
早朝起き出て雨戸をめぐっていたお父さんが、
「あっ、こいつはいけぬ。糸枝、早く戸を閉めろ!!」
そう言ってお母さんをせきたて乍ら戸を閉めてしまったのです。
狭い私の家の中は、網戸を閉め切ったのですから真っ暗でした。

暫くすると、隣でドンドン網戸をたたく音がきこえます。
しかし隣も寝ているのか、一向に起きる様子がありません。

やがて戸をたたいていたその人は、私の家の間口にやってきた様子です。
と同時に、
「善家!!もう起きぬか!!ドンドンドン!!」
雨戸をたたく音が続きます。
お父さんとお母さんと私は声をひそめて返事をしないで黙ってその客の帰るのを待ちました。

お母さん、この客がたれだか知っていますか。
私はよく覚えています。
その人はいつか私の家の庭で、お父さんの自転車が倒れて、頭を自転車にうちつけて、たこのようにおこった人です。
そして、私によく自分の庭に生ったギンナンの実を袋に入れては持ってきてくれた人です。
解ったでしょう。
その人は好藤の村のお寺の坊さんなのですよ。ハ・・・・・・・。

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