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満州からの手紙#154【追憶の記】幼い頃の思い出より
お母さん
私の幼い頃の思い出を
覚えているだけ
このノートに書き留めておきます。
満州からの手紙#154「雀の子」
お母さん
毎日兵隊本部へ事務を手伝いに来ている私を心から喜ばせてくれるものは、あの新緑のしたたるような勝山城の若葉の色と、ちょうど二階の窓に並んで見える松の木に飛び立ったばかりの雀の子です。
お母さんは自宅の二階の窓から燕の子を眺めて皆と喜んでいるそうですネ。
私は可愛い雀の子のよいお友達です。
私が口笛をふいて雀の声を真似ると、やっこさん窓のすぐそばまで飛んでくるのですよ。ハーーーーー。
雀について思い出すのですが、あの坂尾の母屋の屋根に、毎年雀が沢山巣をかけていましたね。
雨上がりの天気の良い朝なぞ巣から落っこちて、ピーチクピーチク鳴いているのを、清さんがはしごをかけては巣の中に入れていましたよ。
それから雀のことでもう一ツ心に今もうかんで来る事があります。
それは、やっぱり五月雨が肌寒くしとしとと降りつづいていた今頃でした。
私が何処からか巣立ったばかりの雀の子をひろってかへったことがありますが、お母さんは覚えていますか。
小雀は、やわらかい翼を雨に濡らせて小さくふるへていました。
まだ、ひどい風の中を自由には飛べないのです。
お母さんはその小雀を小鳥の籠の中に入れて、二三日かってやったでしょう。
軒に網をはっているクモやハエなどをとって食べさせてやると、黄色い口を大きく開いて、さも甘そうに食べていました。
けれどお母さんは三日目にその雀を籠から離してやりましたネ。
やっぱり小雨が降っている日でした。
ひろわれて来た時と同じように翼を濡らせ乍ら、前の柿の木の上で長い間ピーピー鳴いていましたネ。
私はかわいそうで、其の夜一晩中、雀のことばかり考えましたよ。