満州からの手紙#160【追憶の記】幼い頃の思い出より
お母さん
私の幼い頃の思い出を
覚えているだけ
このノートに書き留めておきます。
満州からの手紙#160「近永」
お母さん
私が好藤の村にいる間に、近永へいったのは前後に二回のみです。
一度は殼さんが耳を悪くして近永の病院へいった時、私も男士さんに連れていって貰ったことがあります。
それからもう一度は、お父さん達と磯叔父さんの家へいって、すぐそばの家へお客に呼ばれていった時だったと思います。
呼ばれていった先は確か今の清池の近所だったと記憶しています。
それから後、中学の三年生に成る迄、かつて近永へいったことがありませんでした。
私は、近永!!と云う處をおとぎの国のように懐しくあこがれていました。それは幼い私の頭の中に残されていた唯一の未知の国のように考えられていたからです。
中学三年の時、夏休みにいって十日ばかり遊んでかえりました。
それ以来お母さんも知っておいでのように鬼門に成った近永です。
もう、おとぎの国でもありません。