満州からの手紙#159【追憶の記】幼い頃の思い出より
お母さん
私の幼い頃の思い出を
覚えているだけ
このノートに書き留めておきます。
満州からの手紙#159「電燈」
お母さん、好藤の村に電燈がともされて美しい花火のような光を室一杯に巻き乱せるようになったのは、私が四つの秋頃だったと覚えています。
日焼けのした工夫さん達の顔が、なんか気味悪く思われてならなかったあの頃が微笑へまれますね。
トコ、トコ、トコ
田舎の姉さん髪ザシ銀でも
しりふきゃ{蒿/ヨモギ}だよ
トコ、トコ、トコ
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晴れたコバルト色の秋空に終日あの下昇な歌を聞いて、針鐵のくずを貰いたさに工夫さん達の尻を追掛け回した忠勝くんを、お母さんも覚えているでしょう。
あれから暫くして私達一家は宇和島へ引っ越しましたネ。
順賀の流れに美しい光を映じている電燈の美しさ。
ことにキリン館の赤い火、青い火を子供心に不思議に思ってあかずながめたものでした。
今でも私は静かに目をつむるとあの頃の和霊下や順賀の流れがはっきりと脳裏へうかび上って来て、たまらなく懐かしい気持ちで一杯に成ります。