◇特集「海外の人が選ぶ 世界で活躍する日本人」
*アメリカの雑誌(News Week)が
「尊敬する日本人100人」の一人に選んだ
青山 剛昌さん
あおやま ごうしょう(本名・よしまさ)
1963年(昭和38年)、鳥取県大栄町(現在・北栄町)で4人兄弟の次男として生まれる。子供の頃から漫画が好きで、鳥取県立由良育英高等学校在学中にアニメーターに憧れ、2年生の時に美術部に入る。美術教師を漠然と目指し、日本大学芸術学部に入学。同学部美術学科絵画コース卒業。23歳で『週刊少年サンデー』でデビュー。代表作の「名探偵コナン」は、平成6年に『週刊少年サンデー』で連載開始。平成8年にテレビアニメ放映される。世界各国に多くの愛読者を持つ。
各国の大人や子供たちに注目される
「名探偵コナン」
海外で知られている「名探偵コナン」は、漫画(単行本)というよりテレビアニメです。中国、韓国、台湾の近隣国も、ヨーロッパ諸国、ロシア、サウジアラビアでも「名探偵コナン」は、日本の輸出アニメの中では圧倒的に高い評価と人気を誇っています。ところが、アメリカ国内での評判はいまひとつです。「鉄腕アトム」ファンが多いのは、知的ヒーローより腕力的ヒーローを求める気質によることでしょう。
週刊『少年サンデー』に「名探偵コナン」が連載されたのは、平成6年(1994年)です。その直後から、たちまち人気を呼び漫画家・青山剛昌の名は、漫画愛好者の中で一躍知られることになりました。
以来25年が経過し、青山剛昌の名は世界で知られるようになり、昨年「名探偵コナン」の話題が驚きをもって世界を駆け巡りました。
映画界で過去最高興行収益を上げたのは、昨年上映された「アベンジャーズ エンドゲーム」です。それは、アメリカ映画を象徴するスーパーヒーロー誕生物語です。
全世界での興行収益は、約28億ドル(約2952億円)です。日本でも52億円の収益を上げるほど、大勢の人が映画館に押し寄せたのですが、その映画以上に日本で観客を集めたのは、「名探偵コナン ゼロの執行人」でした。
昨年の映画界を活気づけた2つの話題作、アドベンチャーズ エンドゲームと名探偵コナン ゼロの執行人。全世界で過去最高の興行収益を記録したアベンジャーズ エンドゲームに対して、国内では名探偵コナン ゼロの執行人が優ったことで世界的な話題となる。
親に隠れて漫画を描いた少年の漠然とした夢
漫画好きな少年は、全国、全世界に沢山います。青山よしまさ少年もその一人でした。親に叱られることが嫌で、隠れてこっそり漫画を描き続けたよしまさ少年のような子は、世界が広いと言っても、何人もいることではありません。
漫画を見るわが子を叱る親には、それなりの訳があります。一番の理由は、「勉強する時間がなくなる」と思っていることでしょう。漫画を読み耽ると、勉強時間がなくなると思う親は、自分が子供だった頃、漫画を読んだことを忘れてしまったか、それとも自分が読み耽った反省から、わが子には同じ後悔をさせたくないという親心で、「漫画はダメ」と言うのかも知れません。
漫画と一口に言っても、高尚なものから低俗なものまでいろいろあります。低俗な漫画といえば、どちらかというと大人が見るものに多く、子供たちが見る漫画は、多少暴力的なものもありますが、知識欲を高めるだけでなく、人生観や世界観にまで心の目を向けさせる可能性を含んでいます。
親としては、青山よしまさ少年が紆余曲折を経ながら、世界の青山剛昌と呼ばれるようになった半生の歩みに興味が持てれば、子育ての視野が拡がるのではないでしょうか。
漫画家というよりアニメーターに憧(あこが)れていた青山少年は、18歳の時に、なんとなく美術教師になろうかと、将来の自分を思い描き、美術学部のある大学に進学します。
大学では通常の講座を受けながら、漫画研究部「熱血漫画研究会」に入って、アニメーターになる足場固めを始めようとしましたが、「漫画のほうが儲(もう)かる」と言った先輩の一言で、漫画家を目指して大学に籍を置くことになります。
アニメーターとは、アニメーションの制作工程において原画、動画を担当する人のことです。専門学部のある大学はありますが、漫画家を養成する大学はありません。かりに、漫画家になるカリキュラム(講座)が有るとして、優秀な成績で卒業しても漫画家になれる保証はないのです。
「名探偵コナン」を産み出した青年の奮闘
大学生になった青山さんは、自作の漫画を持って『週刊少年マガジン』(講談社)編集部を訪ね、一定の評価を得たのですが、編集責任者から、「絵柄を変えたほうがよい」と言われてしまいます。
そのような話は、よくあることです。言われた通りに絵柄を変え、採用してもらおうとする漫画家志望者もいることでしょう。青山さんの場合は、そうではありませんでした。ライバル誌である『週刊少年サンデー』(小学館)に自作漫画を持ち込みました。
そこでは、絵柄を変えろと言われることもなく、編集責任者が青山漫画の将来性を見抜いたのか、むしろ後ろ盾となってアドバイスをしてくれ、小学館新人コミック大賞に入選します。チャンスが与えられるのは、漫画の技量もさることながら、人柄を抜きに考えることはできません。人柄が漫画に現れるからです。
青山さんの漫画が『週刊少年サンデー』で連載が始まるのは、1年後でした。大学を卒業しても就職はせず、アルバイトをしながら自作の漫画を描き上げては、編集担当者に届けていたと言います。「名探偵コナン」が誕生するのは、それから7年後のことです。
描き続けて26年、全96巻までシリーズを重ね、2億3000万冊になっています。稼ぎ出した金額は、90億円を超すと言われます。
読者の7割が女性で、事件のトリックや推理術、登場キャラクターの恋愛模様など、恋愛ドラマのような面白さに惹(ひ)かれるようです。それは、海外の読者にも共通していることでしょう。
これまでに「名探偵コナン」は、2度の長期休載を行なっています。漫画家・青山剛昌は、不死身ではありません。プライベートの時間は、1週間に4時間程度とか、睡眠時間は1日3時間だと言われたことがあります。描くだけではなくストーリーを作り出すには、時間がいくらあっても足りないことでしょう。
漫画家は儲かると言われて漫画家になって、世界各国にファンを持つ青山剛昌さんです。健康な身体あっての漫画です。「名探偵コナン」は、完結させる時期が来ているように思われるのです。
(本誌・特集班)