◇投稿【全国に活動の輪が拡がる子ども食堂】良さを思う一方で家庭の役割低下
桜井 裕二(東京都目黒区)
フードパントリーなど
耳新しい言葉
「フードパントリー」という言葉をご存じでしょうか。昨年行なわれた調査では、認知度は35%であり、名称自体がまだ拡(ひろ)がってないようです。名前と内容の両方を知っていると答えた人は、わずかに1割程度です。
フードパントリーというのは、企業や農家、一般家庭から寄付される食料を無料、もしくは安い価格でひとり親家庭や生活困窮者などへ直接配布する活動です。
私も少し前に耳にした言葉でした。この言葉を知ったのは、新型コロナウイルスの影響で「子ども食堂」の休止が余儀なくされ、再開できないでいるところや遅れているところがあるとの報道に触れたことがきっかけです。
コロナ禍の状況で、「3密」を避けるためには子ども食堂を運営するのは厳しいですが、生活困窮者のライフライン(=生活に必須な電気、ガス、水道等の設備)が止められてしまうといけないので、食材やお弁当を手渡しするフードパントリーに切り替えている団体がいるとのことでした。
フードパントリーは、余剰食品や期限切れ間近の防災備蓄品などの寄贈を受けています。お米やラーメンなどの主食だけでなく、缶詰、お菓子、調味料などの余剰品をもらい受け、それらを生活に困っている人に渡しているのです。
以前から、食品の廃棄ロスが問題になっていますが、企業や個人からそれらの提供を受け、無駄を省きつつ、困っている人たちに有効利用してもらうのですから、社会福祉だけでなく、環境問題などにも貢献することだと思います。
食品を集めて受け取る「フードドライブ」、食品を保管する「フードバンク」、そして食品を配布する「フードパントリー」と新しい言葉がたくさん出てきますが、それだけ時代の流れは早いと感じます。そして、これらは商売ではなくて弱者を救済する動きですから、社会の文化レベルも高くなってきていると考えても良さそうです。国や自治体が行なう福祉政策などで行き届かないところを、NPOやボランティアが補完する、良い動きだと思いました。
5000箇所を超えた
子ども食堂に見る世相
子ども食堂とは、地域住民や自治体が主体となり、無料または低価格帯で子どもたちに食事を提供するコミュニティの場を指しています。始まりは東京都大田区にある八百屋の店主が2012年に始めたことがきっかけです。
朝ごはんや晩ごはんを十分に食べることができない子どもたちがいることを知った八百屋の店主が、自ら始めたのです。その活動を知った方々から全国に活動の輪が拡がって行きました。
子ども食堂は、ただ困窮している家庭の子どもたちに食事を提供するだけではありません。フードパントリーと大きく違うところは、温かい手作りの料理を食べられることです。そして、「孤食」という言葉が一般的になってきているように、寂しい思いをしながら、食事をしなければならない子どもたちにとっては、とっても心温まる仕組みではないでしょうか。
このような活動は、いざという時に支えてくれるのは勿論ですが、人と人との触れ合いや交流といった人間性を高めるような側面があると思います。
そして身体の健康だけでなく、心の癒(いや)しにも繋がる活動がもっと拡がれば良いなと思う反面、本来は家庭がなすべき役割なので、改めて家族とは、家庭とは何かを考える契機にしていきたいものです。
2012年に始まった子ども食堂は、2020年には全国で5000箇所を超えたことが分かっています。それだけ生活して行くのに厳しい世の中だということが数字に反映されていると思いますし、また寂しい思いをしている子どもを減らそうと努力した結果の数字だと思います。しかし、あくまでも子ども食堂は対処療法であり、本来の問題を改善して行くには、子どもたちに深刻な被害が出ないような、明るい社会、温かい家庭を築いて行くことです。居場所がなくなるような子どもが出て来ないように、社会や大人がしっかりしなければいけないと思います。
コロナウイルス感染拡大の影響で、家庭や家族のあり方を見直す良い契機となっています。これまでとは違う新たな生活様式を強いられたからこそ、良くも悪くも変化が起き、暮らしが大きく変わりました。
「家族との時間が増えた」、「夕食時に家族が揃(そろ)う人数が増えた」など、暗い話題が多い中での光明といって良さそうなこともあるようです。この気付きを活かして改善することで、コロナ禍を経験したことが無意味でなくなると思います。