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◇寄稿 【化学物質過敏症の私を救ってくれた杉】~化学物質の害を正しく知り未来に向けて行動しよう~

 昨年、本誌7月号と8月号で、アイ・ケイ・ケイ株式会社(代表取締役、伊藤好則氏)が開発した「愛工房」の杉に関する記事を掲載した。45℃の低温で、木の酵素を生かしたまま、要らない水分を放出する乾燥装置「愛工房」で乾燥させた木材は、木が本来持つ、色、艶、香り、防虫能力、精油などを保ち、生きた木として活用できる。その記事を読んだ読者が(19歳女性)が、「愛工房」で乾燥させた杉によって救われた自身の体験を寄せてくれた。

化学物質による負担で
床もベッドも使えない日々

 昨年の『世論時報』7月号、8月号を読み、私が感じたこと、思ったことを書きます。

 私は小学1年生で化学物質過敏症、電磁波過敏症を発症しました。私の家は某有名ハウスメーカーによって建てられたため、化学物質による身体への負荷は大きかったのだと思います。母もほぼ同時期に発症し、我が家では、家具、衣服、食べ物や水に至る衣食住全てにおいて、化学物質を排除した生活になりました。そうしなければ、家で過ごすことすらできないのです。

 化学物質を放出する物を処分しても、家自体の化学物質は変化していません。このまま私たち一家が、家に住み続けることができるのかと考えあぐねていた時、愛工房の杉と出会いました。

 父が愛工房の杉パネルをフローリング(=木質系材料からなる床板で、表面加工を 施したもの)の上に敷くと、以前感じていた化学物質の負荷が軽くなっていました。それまでフローリングの上に座ることができずにいましたが、杉パネルを敷くことで座ることができるようになりました。愛工房の杉が無ければ、この家に住み続けられていたかは分かりません。愛工房の杉のおかげで私たち家族は今も同じ家に住み、生活することができています。

 発症当時、ベッドが使えないということも大きな問題でした。市販のベッドのほとんどが合板で作られており、使用することはできません。天然木を使ったベッドであっても、材の状態での消毒、製造時の接着剤等により、私と母の身体は受け付けませんでした。

 身体が許容するベッドをあちこち探しましたが、見つかりません。ベッドに使用されている木材の産地や、接着剤等の化学物質の有無に関してメーカーに問い合わせても、回答がない場合や、嫌がられたケースも多かったと両親から聞いています。

 その後、九州の桐たんす製造会社で、愛工房の杉を使用し、化学物質、金属のねじを全く使用しない、安全なベッドを製造して頂くことになりました。製造会社の方と父が話し合いながら、構想から試作品が出来上がるまで1年がかりで開発して頂きました。このベッドのおかげで、私たち家族は安心して眠ることができています。開発に携わって下さった方には感謝してもし切れません。ありがとうございました。

愛工房の杉のパネルで
勉強に集中できるように

 愛工房の杉によって、大きく空気が変化したのは私の家だけではありません。中学に入り、私は塾に通い始めました。塾では化学物質過敏症についてよく理解して下さいましたし、私が特に負荷を感じる芳香剤等を撤去して下さいました。

 しかし、塾の建物の化学物質や、他の生徒の衣類に付着している柔軟剤をはじめとする化学物質によって、体への負担は決して軽いものではありませんでした。しかし、私がよく使用する机の近くに愛工房の杉パネルを敷くことで、化学物質の負荷が軽くなり、より勉強に集中できるようになりました。

 化学物質は学力に悪影響を及ぼします。深く思考できず、集中できない状態になります。学校や塾の建物の多くは化学物質を大量に使用しており、児童、生徒の学習権は全く保障されていないのが現状です。

 私は小学校低学年頃の自宅での記憶があまりありません。同じ時期の小学校での記憶はあるのですが、化学物質や電磁波で最も苦労した時代を私はほとんど覚えていないのです。小学校低学年だった当時の自分にとっては、大変な生活の変化だったからかもしれません。

 しかし両親が、化学物質過敏症、電磁波過敏症を改善するように、そして私が楽しく過ごすことができるように、先を悲観することなく、明るい未来を見据えて様々なことをしてくれました。ですから私は小学校、中学校、高校、大学と進学することができたのです。

 現在私は大学2年生で、もうすぐ二十歳になります。小学生の時は、午前中の授業にしか出席することができませんでしたし、入ることができる教室は限られ、体育館に入ることもできませんでした。学校には、様々な化学物質が存在するからです。

 中学校に入ると、同級生が大量の制汗剤を使用したことにより、中学2年生から学校に通うことができなくなりました。生徒や先生を含む周りの方々に、化学物質過敏症であるということを理解していただけなかったのです。

 当時は、中学校の先生方に理解いただけなかったことが最もつらいと感じていました。それほど、化学物質に過敏な状態でしたが、今では化学物質過敏症、電磁波過敏症共にかなり改善しています。

増加の一途をたどる化学物質が
私達の身体を病ませ続ける

 私は現在、大学に電車とバスで通学しています。欠席することもなく大学に通うことができています。私の両親が前向きに物事を捉え、家族一丸となって努力したことで快方に向かったのです。そして過敏症を改善できた要因は、決して私たち家族だけではありません。多くの方と出会い、多くの方が私たち家族を支えて下さったからです。本当に感謝しています。

 私が発症した当時に比べ、私たちの身の回りにある化学物質は多く、そして強毒化しています。皆さんは、強力な匂いを発する柔軟剤や制汗剤を嗅いで頭が痛くなったり、気分が悪くなったことはありませんか?

 心当たりがある方は、化学物質過敏症かもしれません。化学物質は私たちの生活を便利にし、豊かにしました。しかし、それと引き換えに、私たちは身体を病ませる成分を大量に取り込んでしまっているのです。

 年々、匂い付きの製品などが増え、使用される化学物質の量、数、濃度も右肩上がりにひどくなっていると感じます。それに比例するように化学物質過敏症患者も増加の一途をたどっています。私たちが化学物質過敏症を発症した要因の一つである、住宅に用いられる化学物質も、人体に大きな悪影響を及ぼします。

 「家」とは、外での疲れを癒し、ホッと体を休めることができる場所でなくてはならないはずです。にもかかわらず、現在、多くの建築物は、疲れを癒すどころか、体に負荷をかけ、様々な不調や病気を引き起こしています。

 愛工房の杉を用いて、住宅や、ケアハウス、幼稚園などの教育施設を作ることは、非常に大切なことだと感じています。建物が、身体を病ませるものでないように、ホッと体を休めることができるように、行政はもちろんのこと、私たち一人ひとりが考えなければなりません。

 現在、多くの人は、自分の身体と化学物質との関連性がないことを疑いません。なぜなら「知らない」からです。多くの人が、化学物質の害について「知る」ことで、現在の化学物質まみれの日本を変えることができると信じています。そして、「行動」することで、明るい未来へ進んでいけると信じています。

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『樹と人に無駄な年輪はなかった』
伊藤好則 

寄稿 本帯あり(カラー)

 2012年に「愛工房」の開発者である伊藤好則氏が発行した『樹と人に無駄な年輪はなかった』(三五館)の中に、右の体験談を寄せてくれた女性とそのご家族と向き合った伊藤氏の視点からの記述がある。体験談の補足となるので、伊藤氏に許可を得て、抜粋する。

 2007年夏、「家族が電磁波過敏症になったので相談したい」という電話がかかってきました。奥さんと、小学1年生のお嬢さんが電磁波過敏症になって苦しんでいるのでなんとかしたいとのこと。
 私はこのとき、一つ気になることがありました。電磁波過敏症の前にひょっとして、化学物質過敏症になっているのではないか………。ご主人に、今住んでいる家について、施工時期や住宅メーカーなどを問い合わせたところ、8年前にだれもが知っている某大手ハウスメーカーの名前が出てきたのです。
 これは、シックハウス、新築病であると容易に察しがつきました。かなり重い症状を聞いていると、私が関わっても何も力になれないかもしれないという不安が募ります。しかし、電話口で話すご主人の穏やかな関西弁の中に何か惹かれるものを感じ、ついじっくりと話を聞くこととなりました。
 まずは、除草剤、農業、化学肥料、動物性の肥料を使わずに栽培したイグサと、黒杉の板とお盆を送ることにしました。先方からは届いてすぐに電話があり、「かなり効果があった」とのこと。杉板も、クローゼットの中に入れているだけで、娘さんがクローゼットに近寄れなかったのが顔を突っ込んでも大丈夫になったといいます。
 その後も、フローリングの上に敷く60㎝角の杉板パネルは、「フローリングの上には座ることができなかった娘さんが、杉板パネルの上だと平気で座れるようになった」とか、イグサは化学物質を吸い込むと変色するのでしょうか、「その変色するまでの期間が最初に送ったときのものに比べて、二回目に送ったイグサが変色する間隔が長くなった」などと、さまざまな効果のほどを報告してくださるようになりました。………(中略)………
 しばらくして、ご主人から「ベッドに敷く杉板を送ってほしい」という連絡が入ってきました。ただ、その杉板に関してとても細かい寸法を指示してきます。よく聞いてみると、その理由がわかりました。
「身体に合ったベッドを探し回って、やっと出会ったのが総桐のベッドだった。しかし、いまいち身体に拒否反応が起こるので、組子の部分を外して黒杉の板と入れ替えたい」ということだったのです。
 このベッドをつくった株式会社総桐箪笥和光は、組子が特許。そのせっかくの組子を杉に替えたいとのユーザーの声に、社長の加島清治さんのプライドをかけての奮闘が始まりました。中国から出荷の際も絶対に薬剤を使わない桐材を手に入れ、素材を送ります。しかし、残念ながら奥さんの身体は拒否反応を起こします。
 以降、半年にわたっていろいろ試してみますが、ついに桐材を断念。当社から杉材を購入し、黒杉ベッドの誕生となったのです。使っている接着剤はもちろんのこと、釘も木製栓を使うなどすべて自然素材を使っています。
 黒杉ベッドに使用する材料は「愛工房」乾燥材のみを使用していますが、当社で大方の台数を売らせていただいています。利用者の立場になって徹底して研究する加島社長との出会いも、ユーザーの方をきっかけにいただいたものであり。人のご縁にあらためて感謝しています。
 このご家族とも深い付き合いとなり、小学校1年生だったお嬢さんも2012年春には6年生になります。奥さんは一進一退のようですが、お嬢さんの化学物質過敏症はだいぶ軽減しているようです。そんな彼女が電話口に出たとき、「お父さんはよくがんばって、お母さんとあなたを守ってくれているね」と問いかけると、
「うん。うちの貯金は全部使ったの。私が大人になったら働いてお返しするの」私は目頭が熱くなり、言葉が出ませんでした。子どもはみんな見ていてわかっているのです。家族の「信じること」「思いやること」の強さをあらためて教えられました。お父さんも頑張り甲斐があることでしょう。
 お嬢さんは、学校の建物や敷地から排出される化学物質の影響で、小学校へはいまだ午前中だけの通学と聞いています。未来を創る子どもたちが通う空間の現実——。全国の学校の建物や敷地から化学物質の排出がないようになればと願うばかりです。
 一般的には化学物質過敏症の方が特殊な人に見られがちですが、いま過敏症でない方も明日には症状が出ないという保証はどこにもありません。見方を変えれば、化学物質に反応する人のほうが正常で、化学物質が出ているのに反応しない、いわば化学物質〝鈍感症〟の人のほうが異常なのではないでしょうか。
       (『樹と人に無駄な年輪はなかった』P155~159より抜粋)

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