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◇特集「いま知りたいワクチンの話」

1億3500万人以上の感染者にワクチン製造が追いつかない……?

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*医療従事者向けワクチンのQ&A10項目

   医療従事者向けワクチンのQ&Aから ― 知りたい10項目
新型コロナウイルスの抗体ワクチン接種が、日本国内で始まっています。そのワクチンに対する疑問、警戒心、不安などを解く情報を紹介します。大半は米国人を対象としてまとめられています。生活環境、体質の違いがある日本人に、そのまま当てはまりませんが、疑問と不安を解く上で、役立つワクチン情報を提示します。

【1.一般のワクチン接種の目的について】

 ウイルスや細菌などの病原体そのものや、病原体を構成する物質などをもとに作ったワクチンで、その病原体に対する免疫をつくることにあります。

【2.mRNAワクチンの有効性について】

 mRNAワクチンとは、メッセンジャーRNAワクチンの略語で、タンパク質を作るための設計図です。

 mRNAワクチンは、今回初めて新型コロナウイルス感染症の予防に実用化されました。日本で承認されたファイザー・ビオンテック社ワクチン、モデルナ社ワクチンの新型コロナウイルスの発症に対する有効性は約95%です。

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一般のワクチンの種類

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◎ 生ワクチン= 病原性を弱めた病原体からできています。これを接種すると、その病気に自然にかかった場合とほぼ同じように免疫がつくことが期待できます。
◎ 不活化ワクチン、組み換えタンパクワクチン= 
感染力をなくした(不活化という)病原体や、病原体を構成するタンパク質からできています。
例=mRNAワクチン、ベクターワクチン、DNAワクチン

 これらのワクチンでは、ウイルスを構成する一部のタンパク質の遺伝情報(設計図)の書き込まれた核酸や、核酸をのせたベクター(運び屋)を投与します。その遺伝情報をもとに、体内でウイルス由来のタンパク質が作られ、さらに、そのタンパク質に対する抗体が作られることで免疫を獲得します。

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【3.ワクチンの効果は長期的に続きますか】

 新しいワクチンであり、治験が開始されてから時間が経過していないため、まだどのくらいの期間免疫が持続するか、はっきりとは分かっていません。モデルナ社ワクチンのデータからは、少なくとも6ヵ月間は十分な量の中和抗体が維持されることが分かっています。

【4.  変異ウイルスにワクチンは効きますか】

 変異ウイルスの報告が続いている段階であり、引き続き注意深く監視してワクチン効果の検証が必要です。いくつかの研究では、mRNAワクチン投与後に中和能の低下などが報告されていますが、極端に損なわれるものは今のところはなく、ある程度の効果はあると考えられています。

 もし今後、現在のワクチンが効かない変異が出現しても、mRNAワクチンであれば効果的なワクチンを迅速につくることができます。実際にモデルナ社は南アフリカで見つかった変異に対応したワクチンを、すでに製作しています。

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 国際オリンピック委員会総会で、トーマス・バッハ会長は、東京五輪の参加者に中国製の新型コロナウイルスワクチンを提供する、と唐突に表明した。日本側は「寝耳に水」のことで、戸惑いを隠せない。中国のワクチン外交(商談)に乗ったIOCの選択を、日本側はそのまま受け入れるのか。東京オリンピック開催に向け、また暗雲が垂れ込める。(写真はイメージ)

【5.妊婦もワクチン接種は大丈夫でしょうか】

 日本での妊婦に対する適応は、2月7日現在審査を行なっているところです。日本産婦人科感染症学会は「流行拡大の現状を鑑みて、妊婦をワクチン接種対象から除外することはしない」と言っています。

 妊婦中の女性に対するmRNAワクチンの安全性や有効性は、十分評価されていませんが、米国では希望者は接種が可能です。接種を行なう場合には、発熱などの副反応が起こり得ることも十分に説明を行なうことが大切です。

 授乳中の女性については、十分なデータがまだありません。米国疾病対策予防センターでは優先接種対象者にあたる授乳中の女性は、mRNAワクチン接種を考慮してよいとしています。

 mRNAワクチンの成分は、乳腺組織や母乳に移行するとは考えにくく、もし移行しても赤ちゃんに生物学的な影響を与える可能性は低いと考えられています。

【6.子どもにも接種すべきでしょうか】

 ファイザー・ビオンテック社ワクチンは、16歳以上、モデルナ社ワクチンは18歳以上に対して臨床試験が行なわれました。米国ではそれと同じ年齢で承認されています。日本国内での承認も同様の年齢層が対象になると考えられています。現在、ファイザー・ビオンテック社とモデルナ社による12歳以上の小児を対象とした治験が開始されています。

【7.mRNAワクチンの安全性、副反応のことを教えてください】

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 ファイザー・ビオンテック社ワクチンでは、接種部位の腫れや痛み8割、頭痛5割、悪寒4割、発熱は約15%の被験者で認められました。

 モデルナ社ワクチンも同じような結果で、接種部位の痛みや腫れは9割、頭痛8割、悪寒4割、発熱17%程度でした。

 ファイザー・ビオンテック社ワクチンもモデルナ社ワクチンも、接種に付随して生じる腕の痛みや発熱などの(免疫)反応原性が高いワクチンであることは分かっています。

 これらの反応は自分の免疫が応答している過程で生じますが、ほとんどは2~3日でよくなります。

 症状が出て辛(つら)いようであれば、解熱鎮痛薬を使用することができます。これらの反応は、一般的に1回目よりも2回目の接種で起こりやすく、高齢者よりも若年者で多く報告されています。

 翌日が休みの日にワクチン接種を予約するなどして、2回目の接種後に休めるよう組むことが推奨されます。

 3月下旬にイギリス・アストラゼネカ社のワクチン接種で血栓のため19名死亡者があったというニュースが伝わりました。同種のワクチンを契約している日本政府は、対応を明らかにしていませんが、ワクチン接種は自己責任のもとで行なうことです。ワクチン情報には、注意を怠ることはできません。

【8.日本人の副反応の頻度について教えて下さい】

 2021年2月14日に特例承認されたファイザー社ワクチン「コミナティ」の添付文書には、日本人160例(本剤接種群:119例、プラセボ接種群:41例)を対象に調査が行なわれ、2回目の接種後の注射部位の疼痛は79%、疲労60%、筋肉痛16%、発熱33%で、ほとんどは内服薬で改善し、日常生活に支障がない程度でした(2月15日現在)。

【9.mRNAワクチンによって、1、2年後や長期的に生じる副反応はありますか】

 ワクチンの副反応のほとんどは、比較的短期的で、投与して6週間以内に起きることが分かっています。米国食品医薬品局は、新型コロナウイルスに対するワクチンの承認条件として、投与されたあとのフォローアップの期間の中央値が2ヵ月間あることを条件としました。

 mRNAがDNAに組み込まれないこと、mRNAが比較的短期間で分解されることを考えると、長期的に起きてくる副反応の可能性はゼロではありませんが、非常に稀と考えられます。臨床試験は現在も継続中で、長期的な副反応についても評価がなされることになります。

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【10.ファイザー・ビオンテック社およびモデルナ社のワクチンの緊急使用許可が、開発から1年以内で出たことについて、不安を覚える人もいると思います。今回、ワクチン開発から承認が早く進んだことには、次のような理由があります】

● 2002年~2003年に流行した重症急性呼吸器症候群(SARS)と、その原因であるウイルスのスパイク蛋白質(今回の新型コロナウイルスに類似)に関する研究の蓄積がありました。

● 遺伝解析技術の向上や、mRNAワクチンに関する長年の研究の蓄積によって、遺伝子配列が公開されればすぐにワクチンをデザインできる技術が開発されていました。

● いくつかの段階の動物実験や臨床試験を同時並行で行なっていました。

● 感染流行によって大規模な臨床試験の進みが早くなりました。

● 米国政府から多額の資金が投入されました。

● 最終的な臨床試験を終える前から承認審査を始め、結果が分かればすぐに承認する準備が行なわれました。

● 開発されたmRNAワクチンは、米国の審査で評価された臨床試験(ファイザー・ビオンテック社は4万3448人、モデルナ社は3万420人)は、申し分ない規模でした。

● 米国食品医薬品局の承認審査は、ユーチューブで生配信されるなど、有効性や安全性について従来のワクチンよりも透明性の高い方法で検証されました。                 

                          (本誌・特集班)

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感染した場合(既感染の場合)も
ワクチン接種は勧められます

 その理由は、再感染の可能性があること、自然に感染するよりもワクチン接種のほうが効果的な免疫を獲得できることが分かっているからです。もし、接種直前に感染した場合、感染から回復し、隔離の必要がなくなってからの接種が勧められています。新型コロナウイルス回復期に血漿療法やモノクローナル抗体治療を受けた方は、罹患後90日経過してからの接種が勧められています。確実に効果のある免疫を作るためには、2回の接種が必要となります。

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