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◇特集【3歳までの食育が、その子の一生の味覚を左右するのか】

人間はロボットではありません。
味覚は3歳からでも変化し、好きだった食べ物と
嫌いだった食べ物が入れ替わることはあります

 食育のことで、「3歳までの食経験が、その子の一生の味覚を左右します」という話が浸透しています。その話に影響された若いお母さんたちは、わが子の食べ物の好き嫌いを無くそうと肩に力を入れ、躍起になる人もいます。

 そのような素直な気質は、若いお母さんの優れたところですが、「その子の一生の味覚を左右する」ことについては、人間はロボットではないので、あり得ないことだと言ってよいのです。

 若いお母さんたちには、肩の力をぬいて、好き嫌いを無くすというより、わが子の味覚を育てることに神経を注いでほしいことです。

 それについても、わが子の舌や消化器が“五体満足〟であるかどうかを把握して行きたいことです。そのために、わが子に食べ物の好き嫌いがあっても、「いけないこと」と思わずに、わが子の味覚の発達が順調であるかどうか、冷静な目で観察したいものです。

 味覚は、舌の表面にある味蕾(みらい)と呼ばれるブツブツとした器官によって識別し、味蕾で味を感じると、味覚神経が脳に信号を送ります。その信号によって、自分の身体に受け入れる、受け入れないということになります。そのことが、「好きな食べ物」「嫌いな食べ物」になります。

 乳児の味蕾は、お母さんが妊娠7週目くらいにでき始め、14週くらいになると、大人とほぼ同じ構造になると言われます。むろん、赤ちゃん100人が100人とも同じだということではありません。

 その味蕾は、成人男性では刺激物や喫煙などによって摩耗するために約7000個、高齢男性は約3000個と言われています。生まれたばかりの赤ちゃんには、約1万個もあり、5ヵ月になると味蕾の数はそのままで、味覚が鈍化します。この時期が離乳食開始時期になります。

 わが子の食べ物の好き嫌いは、感情的なものではなく、味蕾がちゃんと発達しているかどうか確かめたいことです。もし、お母さんが妊娠中に、アルコール、喫煙、薬の服用、その他、感情をひどく害したり恐怖に襲われることがあった場合、わが子の諸器官の発達に影響する場合があり、味蕾の未発達も考えられます。

子供用食器

食べ物の好き嫌いを分ける 味覚の感覚の善し悪し

 味覚とは「甘味」、「塩味」、「酸味」、「苦味」、「うま味」に
なります。それぞれの役割としては、
甘 味→ エネルギー源である糖の存在を知らせる
塩 味→ 体液のバランスに必要なミネラル分の存在を知らせる
酸 味→ 腐敗している、果物などが未熟であることを知らせる
苦 味→ 毒の存在を知らせる
うま味→ 体をつくるのに必要なたんぱく質の存在を知らせる

 子どもの舌の敏感さ、鈍感はそれぞれであること、5つの味覚のうち、どれかが未発達であれば、今、「好きな食べ物」ではなくなる可能性があります。

 子どもが「おいしい」(好きになる食べ物)と感じることは、味だけではありません。食べ物の色、形、ニオイ、大きさなどを脳に取り込むことで、「おいしい」(好き)と感じることになります。

 ことに、ニオイは直接大脳に伝わると言われています。それは、自分のことを考えれば分かることです。ニオイに誘われ、これは何だろう?美味そうだなと思った体験があるのではないでしょうか。

 もし、わが子に用意した食べ物を口にしない時は、色、形、ニオイ、大きさなどを変えてみたいことです。わが子の味覚を育てるには、それだけの工夫が必要だということです。

 人間が感じる「おいしさ」は、「安心のおいしさ」と「病みつきのおいしさ」に類型化できます。どちらのおいしさが良いかは明らかです。

ピクニック

味覚の幅を拡げるうえで 行なってみたい3体験

 子どもの味覚の幅を拡げるには、3つのポイントがあると言われています。それを順に紹介します。

・なるべくたくさんの素材の味を経験させる
 たくさんの味といっても、家庭料理の範囲のことです。気をつけたいことは、ケチャップ、マヨネーズ、ソース、ドレッシングなど、素材の味を隠してしまうものはさけます。幼児期に右の調味料の味に慣れてしまうと、大人になっても濃い味を好むことになるからです。

・繰り返して味を学習させて、嗜好を定着させる
 離乳期から、かつおだしのうま味を舌に擦り込んでおくと、成長期に砂糖、油といった体にとってよくない病みつきのおいしさを求めることを防いでくれます。

 気をつけたいことは、ニオイの記憶です。なるべく天然素材からだしを取ったもの、野菜をゆでただけ、ふかしただけのものにしたいことです。

・食事は楽しいことだと感じる雰囲 気と環境づくり
 離乳食作りでお母さんがヘトヘトになっていると、食事は大変なことなのだと子どもに伝わります。そのような食事がつづくと、食べることが嫌なものになってしまい兼ねません。

 家族全員で食卓を囲み、「食事は楽しいもの」だと感じさせることは、味覚を育てる上で大切なことです。もし、家族バラバラの食卓であれば、子どもには、それが「当たり前のこと」になってしまうでしょう。

 わが子の味覚を育てるのは、食べ物の種類や味だけではありません。食べ物を通して、脳の感覚を磨くようなものだと言ってよいのです。そのことは、大人にも共通することです。            (本誌特集班)

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