女性の社会進出の「せいで」
日本がこの〇〇年で衰退したのは女性の社会進出が理由だ、と宣う人物を、しばしば、しばしば見かける。
インターネットの、ツイッターの、チラシの裏の、便所の落書きのそんな言葉を気にする必要もまともに受け止める必要も全くないのだけれども、あえてその適当に思いつきだけで投げられたボールをキャッチしてみる。
女性の社会進出が進んだといっても、ほとんどの会社組織、政治の場での意思決定は男性ばかりで行われているのだから、社会が衰退したんだとしたら社会のかじ取りをしてきた男性の責任でしょう。とかなんとか、まっとうなストレートのボールを投げ返すつもりはない。
社会が衰退したのは、女性の社会進出のせいだね!
仕事以外のすべてを担ってくれる存在が各ご家庭からいなくなったからだね!
と、下からすくい投げで返してみる。
子供のこと、子供の保育園、学校、流行っている感染症、予防接種、七五三等のイベント、進学の準備、あれやこれや。
マンションの、地域の、消防設備点検、住人の総会、町内清掃、そもそものご近所づきあい、あれやこれや。
毎日の家のこと、食事、洗濯、風呂、それぞれで必要になる石鹸やら洗剤やらをストックして、洗って、干して、管理して、買い足して、なんやかんや。
この辺のことを全部自分以外の人がやってくれて、自分は仕事とそれに関する人付き合いや勉強だけに集中していていいのなら、そりゃ立派な仕事ができて当たり前だ。
余計なことを考えない分、ものすごく頭がすっきりしてるんだから当然だ。
時間も有り余るほどあるから、勉強もできるしいつでも十分な睡眠をとることもできるし、気分転換にふらりと書店に出かけるのも自由だ。
だから、主に女性が家庭のことを全部担ってくれなくなったから、仕事に全力コミットできる人(多くの場合は男性)が減ったというところまでは事実かもしれない。
そんな風に言っておけば自分の無能に向き合わなくて済むから楽でもある。
女性の社会進出のせいで社会が衰退したぞ! と今バリバリ働いている女性より頭も稼ぎも悪い人が言いたくなるのは自己防衛の本能か何かなんじゃないだろうか。言わせとけ言わせとけ。小鳥の囀りを鷹がいちいち気にするものか。
これはね、ずっと言いたかったことなんですけど、自分がワーママとして仕事に復帰してようやくでかい声で言えるようになりました。
家庭を回すこと、子供の体調や機嫌を気にすること、かかりつけ医の休診日やらなんやらと自分の仕事の進捗の調整、ものすごく脳のメモリを食いますし、なんならずーっとバックグラウンドでなにかしら動いてますし、普通に時間がかかります。
仕事とそれにかかわる勉強や情報収集に使える時間は、本当に「就業時間だけ」ですよ、今の私は。
それでもお賃金がいただけるんだからありがたい、頑張ろう、できれば男性を含めた後輩たちが同じように働けるように頑張ろうってもんです。
でも、この状態を10年以上当たり前にしてしまうと、仕事本気モードに戻るのがたいへん難しくなるだろうという自覚がある。
今の私が、就業時間内だけで仕事ができた雰囲気になっているのは、ひとえに今までの自分が10何年積み重ねてきた知識や経験がどうにか日々の仕事を支えてくれているからであって、この貯金がなくなってしまえば、もう仕事しないオバサンまっしぐらである。
同じことは受験勉強なんかにも言えて、ものすごく地の頭が良くてオールラウンダーでマルチタスク大好きなんて人よりも、圧倒的な演習量や反復回数で自分の足元を固めてきている人のほうが世の中にはずっと多い。
その物量が可能になるように、衣食住を支えてくれる親の存在は大きいと改めて恵まれていた環境を振り返る。
いつまでもテイカーでいられる人間などいない、いてはならないという自覚を持って、自分とパートナーでフォロー役を高速パス回ししながら、ひとまず職場復帰後の1ヶ月を走りきった。
女性の社会進出のせいで衰退云々と言っている人たちに指をさされているはずなのだが、私の人生はいま充実している。一応、楽しい。