お天道様ノ掴み方- 13
-やあ♪
いつ必要になるかは、この先も絶対に分からない、(自称)僕必殺の、爽やかな笑顔からモノ語りはスタートする。
キラキラと眩しく光るその笑顔は、まるで「太陽」で・・?女子たちのハートを鷲掴みに?- ・・なる予定であった。また、未定であった。そう。未来永劫的にな・・
そして-
夏の日の昼下がり。
女子と方を並べて下校-
更に・・・
「う、ウチに、来ない・・?」
それはそれは、果たして、僕の、男の、清らかな青春の一ページになる筈だった。
そんな事を、現実逃避しながら妄想していた僕は・・・
「お前え!!一体どこから沸いて出たあ!!」
と、突如、自分を現実に引き戻したのち、この、正体不明の太陽の化身- 陽ノ光 妖 に直接、尋問をする。
「おやあ?」
彼女は、開口一番、おどけてみせてきた。
と同時に、・・やっぱりあれは、現実の出来事であったんだなと、改めて実感をする・・したのだが・・・正直、こんな形で僕に答えを導き出させないでくれよ・・頼むから。
「何じゃ?妾はあの時、この先もお前さんのことをどこかで見守っておるぞよと、最後にそう申し立てたではあるまいか」
「だからと言って!わざわざ、僕の、いや、人間ベースの世間一般的な常識を、いちいち覆すんじゃない!」
「つれないのぉ・・せっかくこうして、妾がそなたに先程の説明をしてやろうというのにい・・・」
「・・お前の登場は、いつだって心の準備が間に合っていないんだよ」
僕らは、一通りは夫婦漫才のようなものを終えたのち、半ば半分、現在は置いてけぼりである響に、そのスポットライトを当てる-
「なあ、響・・これって一体・・」
「あ、ああ!あのね?つまりね?」
響は、僕らのくだらないやり取りを振り払うかのように、神妙な面持ちで、そう答えた。
「夕君が事故に遭った際、例の前の晩、私、夢を見ていたの」
「夢?」
「うん。私は夜中、ふと、ふらふらと夜道を出歩いていて・・」
「うん」
「夢の中に出てくるお月様は、それはそれはもう綺麗な満月で♪」
「うん・・」
「ホイ!」
妖が会話を遮ると同時に、彼女は、満月の描かれた、一枚のフリップをサッと差し出した。・・ていうか、一体どこから出したんだよ。そんなもの・・・
「気がついたら私、こうなっちゃってたの・・」
響はそう言うと、妖の、正直、どこから取り出したのかは分からない(多分四○元ポケット)であろう、その一枚に描かれた、満月の絵を眺めていくと、同時に、彼女の体が、全体的に柔らかな光へと包まれていく。
-そして
「・・・ミャ〜」
光と共に縮んだ彼女の姿は、そう。あの時- 今でもハッキリと覚えている、変身の際に脱げてしまったであろうその制服の中から、もぞもぞと姿を現し- 例の、白と茶色のまだら模様の、事故の際助けてあげたあの猫に、そっくりであったのだった。
彼女は、もとい、猫は、指で鼻を擦ったり、足で顔を掻いたりと、どこからどうみても、正真正銘、ただの、普通の、猫だった。
そして、彼女がまた再び柔らかな光に包まれると・・
「未来じ〜ん!パァ〜ンチッ!」
「ごはぁッ?!」
なんと、突如妖が、何故か僕の顔面の左頬に、・・一体その細い腕の、どこからそんな腕力が出てくるんだと言わんばかりの、痛烈な、そして渾身の右ストレートを、わざわざボクシンググローブをその拳に装着させた上で、僕にクリティカルヒットさせてくる。
「乙女の体は禁物なのじゃ♪」
「・・」
「ご、ごめんね?も、元の体に戻る時は、私、姿が裸になっちゃうの・・・」
「なるほどね・・」
響が一通り服を着直すと、妖は、僕のマウントに乗っとりながら、僕の目だけを多い被したその両手目隠しを、ようやく解除する。
「一応・・分かってもらえたかな・・」
「あ、ああ・・まあ」
「私はただ、夕君にお礼が言いたかったの・・」
「別にそんな・・」
「・・・ありがとう♪」
彼女は、淑(しと)やかな笑顔と礼を振り撒いたのち、僕にこう告げてきた。
「・・ごめんね。本当に。こんなことに巻き込んじゃって」
「いや、良いんだよ・・別に」
それはさながら、二人の距離が近づく、絶好のワンシーンだった。
・・ドア越しから覗く、いつからキラキラと光り輝かせていたのかが分からない、響の母さんの「うふふふ・・」とした視線さえ無ければ。
「夕君・・」
「さ、冴永・・」
-しかし響は、それに気付いていなかったのであろう、その潤んだ瞳と唇を僕に近づけては、彼女は、妖は、僕の顔をジトっと見て・・え?妖・・?
「ヲイ」
「・・なんだ。おじゃま虫」
正直、いつからいたのであろうか、その顔を、サッと、僕と響の間を遮るように現すと、僕に。彼女は忠告をしてきたのだった。
「正直、こんな、ウカウカとはしていられないのじゃ」
・・響との、正直、青少年にはまだ刺激が強すぎるであろうその展開を期待していた僕をよそに、妖が、神経な面付きで何か言いたげそうにこちらを見ていた。
「・・実はの、そのたの命が、また危ないのじゃ」
ここで突如、余命宣告をされたかのようなの僕の心は、これから訪れるであろう、その最悪の出来事に、まるで拍車をかけたかのように、その気を、重くさせた。
「またかよ・・・」
響とのラブシーンは、もうしばらくの間、お預けになりそうだった。