お天道様ノ掴み方- ⑩
(場面 変わる 放課後)
五時限目も無事に終わり、僕は、あとの残った二人を気にしつつも、早々と、帰路に立つ準備をしていた。あの時感じた頭の痛みは、もう、無い。
(気をつけるんだぞ?)
ふと、また、あの時の会話が頭に込み上げてくる-
全く・・僕もそうそうに「変」だな。と、自分の、そんなおかしな部分を、持ち前のその精神論で「なんでもなかった」と誤魔化しては、いそいそと、玄関前に、向かっていた。
「あっ!夕君!」
「ん?」
僕は、自分の靴と、学校用の靴を下駄箱に入れ替えると、小走りになりながらも、そんなに慌ててもいない様子の響に、声をかけられる。
「良かった!一緒に帰ろうよ?」
「ああ。別に、良いけど」
僕の跡を追ってきたのだろうか- まあ、どちらでも良かった。相手が響なら、別に。
こいつとは家の方角も同じだし、帰るのも初めてなわけじゃない。だから、僕は、響と二人、肩を並べて下校した。
・・これも一応「青春」ってやつなのだろうか。
因みに、健のやつは、今日は日直で、放課後、掃除やら何やらで、今は居ない。
その後あいつは家庭の事情でアルバイトもあったりと、実は、結構忙しいやつなのだ。
僕は・・というと、別に、今日は・・いや、毎日か- 別段何も無い日々を送っていた。
お勤めご苦労さん。友よ- といったような感じだろうか。
帰りの最中、午後の日射からはもう既に解放されていたのであろうか、今はもう、その夕方前の、少し良い風が吹き始める頃合いでいて、それはそれは気持ちの良い気候に包まれていた。
緑の葉っぱがまだ生い茂る、その樹々達からは、時折、風とともに、決して「良い匂い」とは言えないであろう、その葉の匂いを、立ち込めてみせる。
僕は、別段何も会話をし始めるわけでもなく、ただ無言で、家の方へと向かっていた。響のやつも、何だかそんな感じだった。そんな最中だっからなのか-
「・・なあ」「ねえ・・」
と、この下校中、同時に、一緒に帰っているはずなのに、いや、しかし、それだからこそなのであろうか、二人の会話の無さに嫌気が差してきていたのか、僕たちは、ほぼ同時と言っても過言ではないその瞬間に、口を切り出しては、会話を始めたのである。・・別に話す内容は、特に、無いのだけれど。
「あのさ・・ねえ、今日、この後って、暇?」
「え?まあ・・、帰ったら寝るだけだな、今日は」
例の頭痛のこともあったし、この後何かあっても嫌だしと、僕は家に帰って寝ることを、今日の予定を先決していた。
「そっか・・」
とそんな、何でもないようで、ちょっと、もう少し、ちょっと、何かを言ってくれてもいいだろう・・と、いったような回答を、響は、僕に対してしてくる。
(子供たちの声)
会話も無くとぼとぼとただ歩いていると、二人でかけっこをしている、子供の姿とすれ違った。
子供か・・・
そんなことを物思いにふけっていると、響が
「可愛いね?」
とだけ、そう、切り出してきていた。
僕は、というと・・
「ん?まあ、な・・・」
ぐらいの言葉しか、返してやれない。
自分の会話のボキャブラリーの無さが、少し、恥ずかしかった。
「あの頃は、よく、二人で仲良く、遊んでたっけ・・・」
「ああ・・・そうだったな」
子供の遊び・・そういや、よく、昔は、僕たち二人は、互いの家に、遊びに行ってたりもしてたっけ・・
僕たち二人は、家が近いということもあり、幼き日は、近所でまた、よく、冬は、雪玉遊びなど、夏は家族同伴で花火などをしては、遊んだりもしていたのだった。
・・まあ、幼き日の「良い思い出」ってやつだな。
それが・・、幼稚園も同じ、小学校も同じ、中学校は、確か別の所へ入学していった筈だけれども、それがまた、高校で、一緒になるとはな。偶然とはいえ、これは恐ろしい。
響のやつは、ただ俯いたまま、僕からの返事を待っていたのだろうか。いや、しかし-
「あのさ・・もし、良かったら、今日は、うちに遊びにでも寄ってかない?懐かしい話しもあるし・・・それに-」
「え?」
(風の吹く音)
「それに?」
「ううん- 何でもないの。とにかくさ、良かったら、うちに、遊びにおいでよ♪」
久しぶりの彼女の家か・・
「わたしね?夕君に、話したいことがあるの・・・」
彼女の言った一言は、今はもう思春期でもある僕たちにとっては、正直、その動揺を隠したくても隠せない。そんな、そんな、そんな、一言だった。