お天道様ノ掴み方- ④
助けてくれたんだね-
「・・ッ?!」
突如、目を覚ました-
どこだ・・?ここは・・・
・・ここで唐突に起き上がって、辺りを確認するのも、何だか気恥ずかしい気もするが、しかし、今はとりあえず、事の状況を確認してみないことには、何も始まらない。
僕は、しばらくの間硬直していたであろうその体を、突如、電源を入れ始めたかのような「大型機関」のように、その思考をグワっとフル回転させ、動き始める。
何やら外は、ガヤガヤと騒がしかった。
(ガヤ)
「オイッ!気がついたぞー!」
・・知らない声が聞こえてきた。
「兄ちゃん、大丈夫か!?」
「え?・・あ、ああ。はい。えっと・・?」
僕は、情けない声しか出てこなかった。
「夕!夕!」
「か、母さん?!」
「夕!お前何やってんだよ!」
気がつくと、そこには僕の母親と、恐らく、ここに待ち合わせに来たのであろう、友人の健(たける)がそこにはいた。
辺りは、パトカーや救急車の赤いランプで、一面、赤一色に染まっている。
涙だらけの顔でしがみついてきた僕の母親は、僕の名前をしきりに叫んでは、心配そうな顔をして、こちらを見つめていく。
「高校生くらいの子供が車にはねられたってんでよぉ、慌てて駆けつけてきたのよォ!」
「・・そうなんですか・・」
「おお。しかもなぁ?君は意識不明の重体のままだっだんだが、実は、外傷も無ければ、血一つ出ていない。いやあ、打ちどころが良かったんだなあ」
「・・」
「生きてて良かった!・・ところで、何があった」
「・・ね、猫を、助けていたんです」
「はあ?」
ポカンとしている救急隊員をよそに、 僕の友人、健が、咄嗟に僕にフォローを入れた。
「こ、こいつ、きっと気が動転しているんです!だからこんな変なことを・・」
「ふむ・・と、とにかく、無事で良かった。事故のことは我々が処理しておくから、君は、お母さんと一緒に、念のため病院へ行きなさい」
-僕は、救急隊員やら、警察管やら、家族やら、友人やら、果ては近くを通りかかったのであろう、半分野次馬共のじいさんやばあさんなどからも、再誕のエールに身を包まれていった。
生きてて良かった- か・・。正に、その通りだ-
僕は、他に外傷などが無いか、念のため病院で調べるよう勧められ、親や救急隊員と共に、急遽、近くの大きな病院へと、運ばれていく。
そして、これは警察官が言っていたことなのだが、僕が車にはねられてから駆けつけてきた際、念のため、僕の財布などを調べたらしく、そこに入っていた保険証などからか、僕の情報が特定され、親元へも連絡が入った。ということなのだ。
(場面 変わる 病院 診察室)
「問題無さそうですね」
「ええ??先生、本当ですか??」
「ええ。一応脳波も調べてみましたが、別段問題は無いでしょう。後遺症の心配も、全くありませんよ」
「良かったっ・・」
「・・」
「・・お母さんに、あまり心配をかけないようにね」
「・・」
「念のため、今日一日はここへ泊まっていくと良いでしょう。何かありましたら、また、連絡をください」
僕は、病院の医師に勧められ、軽い会釈を交わした後、今日一日は、ここへ泊まる事になった。
(場面 変わる 病院 患者の部屋)
「・・」
僕は、病院のベッドで、物思いにふけていた。
車にはねられ、生死の境を彷徨って、 挙句の果てには、変な神様に助けられて、気がついたらこうなってて・・
「・・お礼ぐらいは、言っときたかったな・・・」
(鈴虫の鳴く音)
少し開けた窓からは、夜の静寂と共に、夜のその風と、気持ちの良い鈴虫の音色が、ただただ虚空へと、鳴り響いていた。