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”…どんな言葉よりも私たちを力付けてくれる” 沈黙の価値。

聴くことの働きを見る講座「澄まし処」(すましか)では、沈黙のことがたびたび話題になります。

沈黙を我慢できなくて、ついつい話しかけてしまう、と。私もそうです。
が、聴き役を務めさせていただくと決めた時は、じっと待ちます。

語り手の心の中でどんな言葉が生まれて、流れて、消えて行ったか、または言葉ではないなにかが生まれたか、は、わからないけれど、言葉も、言葉がない時間も、どちらにもかけがえのなさがあります。

『海からの贈り物』アン・モロウ・リンドバーグ著・吉田健一訳(新潮文庫、昭和42年初版発行)を読んでいて、「黙っていること」の価値について書かれた文章を見つけました。

アンは、忙しい都会での暮らしから離れた、島で過ごす時間のことを、貝を見出しにして綴っています。

この章では、貝を少しだけあつめて、少しだけ並べて飾っておく、ということが書かれていて、それはなぜかというと、「周りに空間があって初めて美しいものは生きるからである。」このあたりから、「周りの空間」のこと、沈黙のことなどが美しい文章で書かれています。

「一本の木は空を背景にして意味を生じ、音楽でも、一つの音はその前後の沈黙によって生かされる。蝋燭の光は夜に包まれて花を咲かせる。」

(普段暮らしているコネティカットでは、立て続けに話していなければ気が済まないが)
「しかしこの島では、私は友達と黙って一日の最後の薄い緑色をした光が水平線に残っているのや、白い小さな貝殻の渦巻きや、星でいっぱいの夜空に流星が残す黒ずんだ後を眺めていられる。話をする代わりに交感するのであって、そのほうがどんな言葉よりも私たちを力付けてくれる。」

言葉よりも、風景のただなかにいるという空間や、その空間に一緒に居るという時間が「私たち」を「力付けてくれる。」
とても意味深いことだと思います。



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