不彌国 三つの痣を持つ少年 二人の巫女
温厚な青年。それがこの國の主、ソウという。
昔幼い頃、木から落ちてしまった。
幾日か気絶したまま家族はとても心配した。
父親は藁をもすがる思いで巫女に相談をした。
巫女はしばらく子供の顔を見つめたあと背中を見せるよう言った。
家族も不思議に思いながらも言われるがまま子供をうつ伏せにした。
巫女は葉のついた香木の枝を手にとりその白くて小さな背中に香木の葉が触れるように二度三度なでた。
しばらくして息を吐くように小さく呪文を唱え、聖水を数枚の葉にたらした。
白い背中の上をまんべんなく葉を返しながらかざしてゆくと濡れた背中の部分に三つのアザが現れた。
皆が驚きの声をあげると子供は大きなあくびをしたかと思うと目を大きく見開き笑みをたたえ立ち上がってみせた。
巫女の術はたちまち國中に広まり父親がその巫女を庇護するのはもちろんの事、全ての民が巫女を大事にした。
巫女は子供の父親に許しをもらい三つのアザのあるその子供を育てた。
この地には不思議な小さな泉がある。
冷たくきれいな水は濁ったことがない。
小さくてもこんこんと湧く命の水として大切にされてきた。
この泉のほとりには湧き出る水を守る姉妹の巫女がいた。
二人は幼い頃よりここで暮らしてきた。
飢饉や疫病がクニを襲った時もこの姉妹は健気にも献身的に民の元へ寄り添ってきた。
姉妹の小さな手に民は救いを求め慕っていた。
國も民も喜んで姉妹のお世話(給仕)を引受けた。
この國は豊かで幾つもの水田が広がる。
幾筋もの小川が流れ多くの水田を潤し育て、一つの小さな泉は多くの民の安心を支えている。
山に囲まれたこの地は朝が近づくと水田に延びた山の影が段々と短くなり陽の光りが差し込み水田の水面をキラキラと輝かせる。
時が経ち三つのアザを持つ子供は國の長となる。
命の泉をその庭に持つウミの宮という社が建立された。
民は気軽にその境内にあがり日常の会話を巫女と共に楽しむ。
あの時の巫女は姉の方だが姉妹は仲良く力を併せ、國の拡大と共にその庇護も大きくなり立派な社の巫女として振舞っていた。
姉は妹の力と相反する事を恐れ、数年前に妹に別れを告げ一人南へ旅に出た。
國や民はその行方を方々探したがついに見つける事は出来なかった。
妹の巫女は國と民と共に変わらず幸せに暮らしている。