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【序3-1/3】 陽香漂う倭國

陽香ロマンただよ倭國わこく

國長祖父と父はかりごと

1 力の奴國
2 誓いの実行
3 情熱の言葉と貝輪うでわあかし

力の奴國

 さて大陸では、争いがいつ始まってもおかしくないような空気が漂っている。
父シンがいる大陸では二度に渡る党錮の獄(166年)があり世相は乱れ各地で不穏な思想を口にする輩がうごめいていた。
(この後、十年経過したあたりから黄巾の乱のはしりが各所地域で湧き起こる)

後漢が諸国と交易する権限の一部(倭國との交渉役)を担うまでになったシンは、定期的に朝貢(貢物外交)していた奴國がこの大陸の乱れ始めた状況を掴み好機到来!と何か良からぬ動きをするだろうと危惧していた。

シンが支援する筑後川流域に広がる筑國を築くべくリン側の戦力は五百名ほど。
しかし、そのほとんどが農民を駆り立てた即席軍。

その西側にある奴國は最低でも精鋭と呼ばれる集団が三百名。 加えて近隣諸国からの援軍もあれば奴國とリンの集団ではその差はライオンとネズミほどだろうか。
武器も武装も格段に違っていた。

リンに分があるとすればそれは気迫と団結。
あとは天の加護を味方に出来るかどうかその程度のもの。
 ある時、リンはかしらたちを集めた。
以前コエからもらったイモガイの輪を鬼クニの漁師に話し近海に似た貝があるとのことで分けてもらった。(コエ 好古都國出身、リンを慕い臣クニに住む)
 戦闘の時に綿布を腕に巻くがその上に装着すると武功を立てられると激励し十枚づつ渡した。
頭たちは早速それらを腕にはめ、意気揚々と地元に帰っていった。

奴國では二代当主カメが70歳の時、若きトウが20歳を迎える時を待って権力の座を移譲した。
それから四年ほど経過した170年ころに奴國は、リンのいる筑紫平野にむけて兵をすすめる事になる。

戦況の利は奴國にあった。 
それは武器の質が鉄製で鋭い刃をもっていたこと。
対するリン側は、青銅器製。
厚みがあり、重いし切れ味も鉄製と比較にならない。 斬るというより殴り倒す効果の方が期待強というだけで、それなら棍棒の方が使い勝手は良かったかもしれない。

奴國トウ率いる四人の将にはジョウ、カイという
双璧を成す猛将がいる。
トウの祖父ボクの代よりつか武功ぶこう名高い将で、シン達の早良國を壊滅させた張本人。
 35年の時か経ち、今は老将となり後継の育成に余年がなかった。しかし、ボクの息子カメの代ではその温厚な性格により詰めが甘く、周辺諸国を付けあがらせ、上納させる物量をも宦官らと結託して搾取する輩も暗躍し統制が効かなくなってしまっていた。

新たな奴國当主若きトウの頼りにするのは残りの二人、シャ(63歳)、ザン(60歳)らもトウより老いていた。
軍を立て直す為、統制を如何にするか。 
一つの規律をザンは実行した。

朝の隊列に向かって、正面の高台に立ち、三色の布切れを見せて静かにこう言った。

「三色の布がある。 白は普段身につけるもの」
 「黒は選ばれし者が身につけるもの」
「そして他の色。草木で染めたもの、きな色、朱色、あお色を身につける奴は首が飛ぶ皮一枚繋がりしもの」
静かな口調で話しは止まった。
居並ぶ兵士たちは身動き出来なかった。

冷酷無比のザン。噂に違わぬ、そのまるで楽しむかの口ぶりはその冷徹な表情から相反していたから兵の一人一人は背筋を凍らせていた。

朝の隊列を解き、解散後の陣内での素行の粗が目につく兵は次々とザンにより色の着いた布切れを首に巻かされた。

暫くした朝の隊列時
ザンは居並ぶ隊列を眺め回したあと色の着いた首巻をした兵を前に並べ一列に座らせた。

この日、当主である若きトウも軍の統率を測りに来ていた。

ザンは歯抜けになった隊列を見て前に詰めるよう促したあと、その者等の気の抜けた表情を確認すると後ろの闘技場で日々の訓練をするよう移動を命じ、シャがその後の面倒を見た。

地べたに座らせられた兵たちは生きた心地がしなかった。 首の皮一枚繋がったという色付きの首巻、ザンの口ぶりとその冷酷性を知る者ほど震えが酷かった。

ザンは冷めた目で口元は笑みを絶やさない。
「何故震える者が居るのだ?」
答えられるものはいなかった。
「答えられないのか?それは残念だ」
少しの間を置くと素っ気ない口ぶりは次を急ぐかのようにけしかける。それは最後の時へ向かうかのようで横で待機するザン直属の兵に語気を強め早くアレを持ってこいと命令をする。

怯えて頭を垂れ地にひざまずく兵の後ろに立つ直属の兵士。
後ろから首に手を当てたかと思う瞬間その首には黒い布を巻き直された。

まだ、陽の光は天高く秋特有の薄雲が空一面を覆って広がっていた。
奴國軍の規律が若き当主の面前で確立した。奴國軍最強の布陣の産声が上がる時はこんな晴れ晴れとした秋空の下だった。

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