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2/2「月さま」と呼ばれる僕。 これは夢?

《三》
綺麗な夜空だ。
ここはどこ?
とても静か。
耳が痛いぐらいの静けさ。

……僕の名を呼んだ? 
どこからだろう?
とてもやさしく若い女性の澄んだ声だ。

あれ? どこへ行くの声が小さくなった。

……遠くにいるみたいだ。
あれ? 僕、飛んでるの?

とても高い上空から覗いているみたい。
鳥は下界をこんな風に見ているのかな?
 
不思議にも風の流れは感じられなかった。
とても静かなうちに、月に照らされた山々の輪郭や田畑が広がる風景が眼下に見えてきた。

心臓のバクバク感もとれ、気持ちがやっと慣れてきた。
水田の広がり、自然豊かな山と川。
夜も明け太陽のもとで働く人の影。

高層ビルや高架橋、新幹線、飛行場、町の商店街などどこにも見当たらない。

近所の古墳や遺跡。教科書で見た藁葺き屋根の三角な建物が所々見える。いつの時代かな?

今度はとてもとても近く見える。
いいよ。 今度は何を見せてくれるの?
少し、余裕が出て来た。

竈のあかりや松明のあかり とても近くに見える。
炎があかりを通して人の営みを見せているのだろうか?

あれ? 突然真っ暗に……。

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

ピピピ ピピピ ピピピ ピピピ……

「あ 朝だ そうか、お父さんのいつものおしゃべりをつまんないと思ってたら……」
僕は自分の部屋のベッドで寝ていたんだ。

「ねぇ! 起きてる?!」
下からの声、お母さんだ! やべぇー
「うん! 起きてる!」
とりあえず返事して早く下に降りよう。
顔洗う前に、……トイレ~。

《四》
「お母さん、ただいまー!」
学校から帰ってくるなりついてたテレビから天気予報が聴こえる。
とても騒がしく?賑やかに? お天気おじさんが説明してる。
「……明日明後日は不要不急なお出かけはお控えてください」

台風が来てるのかな? な~んて言いながら私は階段を一歩 一歩 踏みしめるように上がっているのだった。
ハハハッ 不要不急って言われても学校はどうするの?!
そんな、お願いされてもね~。

「つき~! ちょっと来なさ~い」
下からお母さんが呼んでる。 
(やっぱり下に居たんだ、お帰り~も言わなかったクセに)

「あーい!」って返事してたら、お母さんの方からもう来てるし。

「ねえ、携帯に学校からメール来たよ。明日は台風の影響で臨時休校だって」
「学校から何もプリントとかもらってきてなかった?」
「あるじゃない!もうちゃんと提出物は忘れずにお母さんに見せてよね」
 部屋を出ながら (私は忙しいのよ)って言う背中に向かって返事をした。
「う、うん」
そうか、台風で明日は休みなんだ。
なんて思ってたらお母さんがクルッと振り返って
「それと水筒! どこにあるの? カバン中? 二階に上がる前にリビングに出しておきなさいっていつも言ってるでしょ! もういつまでもお母さんが声かけないと出さないようならお茶いれてあげないよ!」
 家中に声を響かせながら階段をトトトと下りていった。
 そっか明日は休みか…。


晩ごはん。今日はもつ鍋。
お父さんの鍋奉行ぶり。定番。

最後の「おじや」の塩加減と出汁の量と卵のフワフワ加減その三位一体の調和をだな……
鍋蓋を片手に早速始まった。お奉行さまの采配が。

でも、本当に美味しいの!
僕もきっと大人になるとこんな采配するのかな~?
ちょっぴり出来たら良いな~ なんて思ってる。

付けてたテレビがまた台風情報を報せる。
「そうだ、ツキ! 風神雷神って知ってるか?」
この台風は風神さんが大きな袋から風を送り出して懲らしめてんダゾ!
見た事あるか?
ってスマホの画面でその神様の絵を見せてくれた。

え、どんなのどんなのなんて触ってたら画面を下にスライドさせて違う神様が見えたみたい。

「ホントだ大きな袋担いでる」
「この優しそうなお爺さんが袋から風を出して懲らしめてるのか」
「優しそう? 何じゃそいつ!」
お父さん、携帯の画面を覗き込んで違~う!って絶叫。 慌ててコレたい!
って風神さまの姿を見せてくれた。
「ホントだ怖い顔してる。口開けてクセ強そうな性格まで伝わってくるね」
「ツキ! オマエそこまで読む?」
「うん。 特に口元が、性格悪そう」
「う……うん、そう言われればそうだな」
お父さんタジタジになってない? なんで?
僕は単純に思った事、言っただけなのに。
「風神さまよりさっきチラッと見た大黒様と恵比寿様が良い人っぽい~」
「特に大黒様のあの大きな袋からならもっと大きな台風が出てきそうなのにね」
「は~? 大黒さんが台風出して懲らしめるのか? それも風神よりニコニコ顔でか? よっぽどそっちの方がどんな性格よ!」
僕とお父さん大爆笑でキャッキャ、キャッキャ言ってる傍で、お母さんが
「くだらない話で盛り上がってないでさっさと片付けるー!」

《五》
その日の夜、変な夢を見た。  

「お願いです。月様 わたしに力を与えてください」

えっ、見える! この声! あの時の女の人の声だ!

僕はこの人の掌の上にいるのか?
周りがほのかに明るく僕はこの明るさに包まれてるの?

女性は小さく息を吐きながら胸をおさえるのに必死のようだった。
苦しいのか?
程なく冷静さを取り戻したようで僕に声をかけた。

「月様 お見えくださり感謝します」

えっ、僕が見えてるの?
なんで? 僕の名前を知ってるの?
感謝されてる? 力を与えて? 僕が?

戸惑っている僕をよそに、女性は日女と呼ばれている事や今置かれている立場の窮状を切々と打ち明けた。

外の状況が荒れている事は知らなかったが
以前、日女らしき女性が見張らし台で誰かに何か叫んでいた事や穏やかな風景を見たのはここだったのかと僕は新たに思いを強くした。

「日女、私も会えて嬉しいです。__なんでも話してください」

僕は、矢継ぎ早に繰り出される惨状を聞いて國を治める者としての日女の涙を見て痛たまれなかった。
でもこう言うしかなかったんだ。

今のうち、どうすれば良い?
僕に何が出来るの?

日女の話しを聞けば聞くほど僕の方がパニックになる~。
取り敢えず今一番知りたいことが何か聞いてみたんだ。

「この吹き荒れる風について治まる時期がせめて分かれば……」

えー? どうしょう?!
落ち着け、落ち着け ボク!

僕が不安な顔すれば希望を見出そうと願う日女の心を折ってしまう…。
う~~ん。
「わかった! 日女、私にその暴風を見せてくれ!」今出来る精一杯の声で明るく言った。

わかりました、と日女はゆっくり姿勢を正しこちらの方向です。
と橙色の明かりが消えないか右手を優しく光を包むように心配しながら ゆうくり とその左手を雨風が激しく壁を叩きつける西の方角へ伸ばした。

この時、僕は一生懸命 目をつむっていたんだ。見せてくれといっても何も見えなかったらどうしょうと思ったら怖くて怖くて両手で目を塞いでいた。

辺りはかすかな日女の息づかいだけが聞こえる。
不思議にも周辺の荒れ狂う風の音や木々のざわつきは耳に入ってこなかった。

顔を覆っていた両手の指の隙間からそーと覗いてみたんだ、するとどうだろう
「見えるよ!」
僕は思わず叫んだ。
だって暴風の姿がはっきり見えたんだもん…。

この先は暴風の姿を僕なりに日女に伝えたつもり。

そして暴風はすぐに過ぎ去ることを伝えたんだ。
「あの暴風の本体はどうやらこちらには来ないようだよ」 って。

その時の日女のキョトンとした顔。
よっぽど切迫していたんだよね。
半信半疑に安心したのかもしれないね。

日女は僕にお辞儀して何か呟いていたみたい。
よく聞き取れなかったけどその表情に明るさが戻っていたので僕は安心した。

しばらくすると僕は何かに包まれるようにして周囲が暗くなっていった。

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

ピピピ ピピピ ピピピ ピピピ……

「あ 朝だ。 ……あの人は日女と呼ばれていたんだな~」
また逢えたら良いな~。

2/2完
(*ˊ˘ˋ*)。♪:*° 無糖缶  2024.1120

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