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【諜報1/2-2】         陽香漂う倭國 ~娘たちの思い~

陽香ロマンただよ倭國わこく

諜報ちょうほう

1 交流
2 妹 カリン


交流 2

さて通例としてその年が豊作で國として安定出来ているなら毎年、年に一度、近隣友好諸国との取り決めで互の幹部を交流させて、米はもとより特産物の状況や、獣対策、疫病の有無、自衛の対策、ムラの乱れなど民の生活を念頭にして実りの推移検討から治安と規律など、國としての機能充実を計る上で貴重な情報交流を行う親善交流の時期がやってきた。

友好な國の代表は強国奴國以外の國。
それは不弥国。
大城山(四王寺山)を共有し、裾野の西側に位置している。また、背振の峰の反対側に位置する好古都國(吉野ヶ里)

他に小国として以下を紹介する。
斯馬國 巳百支國 伊邪國 都支國 好古都國 
不呼國 對蘇國 呼邑國
鬼國 為吾國 鬼奴國 邪馬國 躬臣國 巴利國
支惟國 
(序章関連アルバム G-01 近隣諸国の名が記載を参照)

対する奴國の傘下にある周辺地域のクニは
弥奴國、姐奴國、蘇奴國、華奴蘇奴國、鬼奴國、烏奴國など。
クニの名に‘奴’を加えている。
(陽香漂う倭國アルバム【序2-2/2】も参照)

この親善交流の役目に相応しいのは本来、まつりごとの要となるソアラとなる。
しかし、今年の第一の目的が不穏な動きの背景を精査したいとの考えを、こちら側が不弥國へ提案したところ、それならば警護につかさどる者が適任だろうという事となった。
その適任は武警団の幹部、団長エイと主隊長リンをおもむかせることが決まった。

前日まで団長エイと主隊長リンとが行くはずだった。

先ほど紹介したとおり正体不明の人物の怪しい動きが起こり女子衆の不安払拭と地域治安の観点より長老さまからの「自国の警戒を怠るな」との声もあり各ムラの引き締めに隊長達みずからがその責を努めるようになった。

なので國を代表して訪問する大役をセンとガンに突如確定した。

降って湧いたこの話し、二人にとってどれだけの重責なのか。
当日、不弥へ向かう道中も、どこから狙われ誰かからの視線を受け師匠の名代として、務めを果たさなければならず、相当な任務のはず。
さてさてどうなるか……。


親善交流  不弥國へ

時は夏。
不弥國は糟屋平野を中心に広がり強国奴國とは隣国ながら一線をかくしている。
日女が率いる筑國の発展をねたましく見ているのが最強大国の奴國。 
その奴國は日女がまとめる六國の動向に、いつか力で侵略してこないか恐れを持って監視するのは当然だった。
近隣の力関係は微妙で、民たちの小競り合いは大きな衝突に発展し國の対立への引き金になるかもしれない。
今回の訪問は二人にとって、否、日女様の夢、興国の志を左右させるほどの事態に陥る緊迫感も日を追うごとに強くなっていた。

不弥國に入り人気のない道を進むと苔むした岩が目に入った。
曲がりくねった大松が程よく木陰をつくっていた。一息いれても良かったと思いつつも先を急いでいると、後ろから二人を呼び止める声がした。
振り向くと一人の老婆があの岩に腰掛けこちらを見ていた。
なぜ人が居たことに気づかなかったのだろうとセンは思いつつ老婆の側に寄る二人。
挨拶を交わすでもなく突拍子もなく老婆は一方的に話しかけた。
「すまんがお二人さん先を急ぎよる方角には何が見えるかの?」

こんなところで時間を潰すのは御免とばかりにガンは早口に返した。
「おばあさん、見えるもなんもそんな高い岩の上に座っておるんやからオイラの方こそ聞きたいくらいやで」

ふと、ガンが老婆の顔を見るとしわくちゃだったが目は見開いてはいた。
しかし、まなこは白くどちらを見ているかわからず、ただ老婆は無言で次の言葉を待っていた。

ガンは両親がなく、婆さんに育てられた。
それを思いだしたのか丁寧な口調に変えた。
「おばあさん…… 見えないから聞いているんだもんな。オイラが悪かった。向こうはな、そこらに見える風景となんら変わらん風景が続いとるだけよ」
(そこら辺というのも見えんか! オレは何を言うとる)
ガンは一人変な喋りをしてしまったと目を白黒させた。
しかし、婆さんは
「ほうじゃな、 その先も知りたいよのう」
うなずいたように顔を動かすと笑みを向けた。

ガンはその笑顔(大いに不気味に見えていたが)を見て満足そうににっこり返すと、傍で見ていたセンが
「不弥の都が見えるはずです。私たちはそこへ向かっているのです」
と目上の方へ接するよう礼を尽くして応えた。

老婆は二人の来た道を指差した。
そちらに目をやると周囲の杉木立が林立しているだけの同じ風景に頼りない細い山道がみえるだけだった。

二人は「それで?」と老婆を見ると苔むした岩があるだけで、忽然と姿を消していた。

冷静なセンもこの時ばかりは驚いた。
二人は互いに何を会話していたか確かめながら先を急いだ。

不弥國の中央 ここからはどことなく大陸の雰囲気を感じさせる門構えと両脇に立つ門番も警戒の目を放ち張り詰めた緊張感となっている。
特にこの右側の奴はどこか他とは違う。
懐かしささえ感じる。
二人はふとそう思いながら開いた門をくぐり、従者の導きにより奥へいざなわれた。
通された部屋では不弥の上官と一通りの挨拶を交わすと広い机が置かれた部屋の片隅に行くよう促された。

外からの風通しは腰からある窓ぐらいの開口があり、その開口には等間隔で板が打ち付けられ風と明かりが程よく入るようになっていた。
センは、うるさく鳴くセミの声にしばし耳を傾けその方角と遠近でこの施設の広さを程よく計り想定を試みた。
不弥國の隊長、兵長が机を囲みセンとガンに前にもっと寄るよう小声で促すと、ある地図を数枚広げて見せた。
周辺諸国の力の内容がひと目でわかる地図。
日女の治める六國の力も大よそ記されていた。
他の地図は九州と大陸との位置関係を表した一枚と、他に九州から北海道、その先の大陸までが記されたものもあった。

それは、大陸からもたらされた地図のように見える。
名代の自分たちにこのような重要な資料を何故見せるのか不弥國の意図を図りかねていた二人はそのまま地図に目を落としせっかくの情報なので出来るだけ記憶しておこうとなった。
(といってもガンには余り期待はできないのだが)

兵長と呼ばれる男はどこか癖のある目つきと口元がしばし痙攣するような動きをさせて、ただ沈黙し見ていた。
時おり隊長の口から出る一言は探りの匂いがして、センは卒ない返答でそれを交わした。
何度かそのやり取りをしていると、隊長は、兵長に向かって、お二人を我が軍の装備と、訓練風景の一通りを見学してもらうよう指示を出した。

特に変わり映えがして目を引くような武器などはなく、センは先程の地図を見せた不弥の意図を案じていた。
ガンが武器の変わり映えがしない時点から緊張感が薄れてくるのを流石さすがセンは察知していてさりげなくガンの腕の辺りの毛をむしり警告した。

休憩を挟み、懇談的な会話になったとき兵長から親善試合の提案を申し出てきた。
隊長も事前に知らされていたようでさえぎるふうでもなく、兵長は二人を丸め込むのに必死で隊長に援護の目配せをしつつ口元は痙攣を通り越し口パクで声が出ていなかった。
癖のある目つきだけが口よりものを伝え意外に分かりやすい男のようだとガンは舐めてかかった。
センはただ笑みを浮かべうなずくだけで全てを察知、事の成り行きはどうとでもなると相当な自信があるようだ。
 不弥國の指導教官的立場の男であるこの兵長が後ろに控える訓練生の手前、親善試合とかこつけて自軍の威厳誇示のために提案してきたというもの。
と凡その思惑は笑みを浮かべるセンの推察。


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