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【序3-2/3】 陽香漂う倭國

陽香ロマンただよ倭國わこく

國長祖父と父はかりごと

1 力の奴國
2 誓いの実行
3 情熱の言葉と貝輪うでわあかし

誓いの実行

こちらも工夫をこらした武器ではあったが奴國は守る武具も強固に改良していた。 しばらく両者膠着こうちゃく状態が続いたときだった。

リンの部隊は十人の頭がそれぞれ主要な貯蔵を護るためその周辺に身を潜めて戦況を伺っていた。

秋の収穫を終えドングリの杜や焼畑の草原も戦闘の跡が痛々しく所々荒れてしまった。
「アイツらの精でブナの木がキズついてしもうた!」
「それにしてもあヤツらの武器は恐ろしいほどかていなー!」
数十人で構成された二部隊を潜ませた頭二人は
息を潜めて話していた。

駆け抜ける一陣の風は草原の至る所に鎮座する岩肌を露出させその位置を教えてくれる。
また、それは草原に潜む敵の陰影カゲをもあらわに報せてもくれる。
「もうすぐ陽も欠けてしまう」
独り草原の風に紛れて走り出す影がその軌跡を遺す。
ロンだ。
夜襲を受けては厄介とワザと敵の動きを誘った。

「誰や!アイツは!」
「動きがあったぞ!」

敵も味方も口々に叫び報せが走った。

草原を吹き渡る風はロンの軌跡も綺麗に消し去ってゆく。

ロンが迂闊にも単独でけしかけてしまった。

自軍の鼓舞を計ったのかもしれないが奴國軍はこの動きを掴み、色めきだち指揮官の号令のもと全軍が前進の土煙をあげた。

ロンはほどなく呆気なく追い詰められ捕らえられてしまった。

しかしコエの奇策がこの好機を逃さなかった。
コエが吹き鳴らす角笛つのぶえの響きを合図に奴國軍の支援部隊である後軍の列から戦いを止め戦意喪失状態に扮する者がパラパラと現れ、後ずさりをしてゆくのだ。
敵の陣形が崩れ始めてゆく。
コエが奴國の中に越南族の間者かんじゃ(仲間)を潜ませていた事で角笛の合図が退却を報せる鍵となった。
(越南族 好古都國で友好的に力を拡大。コエは越南族の血筋)
しかし、それだけではなく同時に各所に疾風のように駆け巡る黒い影も見受けられた。

最前線の奴國軍も足並みの乱れを察知して後軍が追随してこなければ持ちこたえるはずもなく指揮官ザンもこの変化に対応して一時撤退を下した。

全軍が一時退却となりの土煙と共に静かになった平野は時おり、つむじ風があたりの枯れ草を巻き上げ戦いは呆気ないほど一方的に終焉を迎えた。

リンはひたすら独りクニの礎になる覚悟で戦っていた。終わりを迎えたのならそれでいい。
敵軍の後退を見守ったあと我が陣に戻り、帰還した頭は六人だった。
奴國が何故撤退をしたのかを聞くが皆、首を横に振るだけ。
奴國軍が退却する決定的要因は奇策を放った頭の一人コエの活躍だったのだが最後までコエもシラを切り通し同じく首を横に振る。
頭たちもリンもコエという人物が奴國にこのような間者かんじゃを有していた等知るはずもなく、リンは奴國の撤退理由が判らぬままロンが奴隷として捕まった事や十人の頭の内四名が戦死したことを口しんだ。

頭の誰かが言った。
「やはり、我々の気迫がまさっていたのだ」
「だから奴國は撤退したのだ!」
残る六名の頭たちも重軽傷を負いながら結果、奴國を退却させる激闘は我らの手で制したのだ!と
戦死した仲間を思い自らをも鼓舞する思いで皆声を張り上げた。

どんな戦いも最後の最後までわからないものだが、リンに決死の覚悟があったからこそコエも懸命の奇策を打つ気になったのだろうか。
一義的に戦略だけで見ると
「気迫で突進あるのみ!」と
指揮するリンが頼りなく見えるが単に押し付けるリンではなく仲間を信じ、クニや民を案ずる多義的な心根こころねだと常日頃から口にして戦士を支える女子供にも多義の一つ平和と団結を分かり易く説き歩いた。
その覚悟を周知するなら、ならばこそ仲間は真剣に裏で準備をするし、いざという時に命懸けの行動を振るわずにはいられなかっただろう。

ロンもコエも酋長しゅうちょうであるリンに余計な不安を与えず緊迫した情勢のなか、時をしっせず出来うる最善策がこれだったのだ。
悠長に策を講じるようなリン酋長だったなら皆は付いて行っただろうか。


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