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【ファイル.10】 さぁ開演です。

扉 (幕開け)  上がりかまち (舞台)
玄関 それはリアルなステージ。

高齢のお父様の返事。
「今行きます」

やっと出て来られた。

着の身着のまま、やせ細ったお父様。

温和な表情で終始ご対応して頂いた。

少し重たいので玄関ステージ上に荷物を置いた。

「ありがとう」喉を詰まらせ乾いたような声。

さっきからどこか懐かしく思っていた。
 …! そうだ、私の父親そっくり。

お出ましに時間をかけてしまうその歩き方といい
とつとつとした受け答えといい
そして、とぼけたような物言いとイタズラっぽい目の感じ。

荷物を置いて、玄関から出ようとしたその時の背中越しにかけられた声。
「ありがとう」

うわーマジか! 親父~! 久しぶり 聴きたかった声だ。十七回忌を済ませたばかり、もう亡くなって16年。

振り向き、お父様に挨拶を交わし門を出た。

私が車に乗り込むまで玄関先で見送っている。

 もういいですよ。 早く家に入ってください。
そう呟きながらエンジンをかけお宅を後にした。

今日はこんなサプライズの演出だったか~、奥深いなぁ。

身近な人を亡くし十数年。ポッカリ空いた胸の内は年月関係なく未だ埋められてなかった事に気づく。
それは何十年経とうとも変わらないんだろう。
しかし、不思議と辛さは消えている。
ならば、このまま涙ぐむ思いが出来るのならその穴は埋めなくてもいい。
そんな風にも思える。

…みんな元気でいて欲しい。
最後はなぜかそんな言葉を呟いていた。

(*;   ;*)。♪:*° 缶  2024.1026


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